第69話 なんでもないある静かな夜のひととき ~婚礼祝いはやっぱりそっち系~
その日帰って、フェリクシアさんも交えて、俺の婚礼が突然「発生」するかも知れない事を共有した。
因みに今日の食事は白いご飯にレモン香る豚の焼いたの。豚だよな、味からすると豚以外の何物でも無いが。
白いご飯の方は、前回食べたそれより随分粒立ちがしっかりしていて、日本で食べていた味に近くなってきた。
ただやはり、どうしてもパラパラする。長粒種ほどのパラパラ感ではないのでそこまで違和感は無いが、味なしチャーハン食べてる感じが否めない。
と、その事をフェリクシアさんに伝えると、少しの間腕組み考えていたが、明日はまた米を変えてみよう、と頷いていた。何種類の米を??
いずれにしても、今日は随分急な王宮だったし、少し疲れた。
そんな疲れを癒やすのは……やっぱり、イチャイチャ出来る時間だよな。ふふふ。
「アリアさん、今日は一緒にお風呂入らない?」
「んーごめん、今日女の子の日始まっちゃって」
ガーン。頼りの癒やしが一言の元に粉砕されてしまった。
……うん。身体をどうこうするのだけが癒やしじゃ無い。もっと大人になろう。会話を楽しむのも十分癒やしじゃあないか。なぁ、俺。すんすん。
「そうすると、旦那様と奥方様のご婚礼は間近と考えて良いな。通例、メイドから婚礼の祝い品を送る場合、かなりプライベートな夜の物を送るのが通例だが、それで良いか?」
「プライベートな夜の? ちょっと表現がぼかしすぎてよく分かんない」
「つまり、男性には精力剤的な物を、女性には媚薬的な物か、またはベッドを盛り上げる花やその精油などだ」
や……やっぱり何処の世界でも新婚さんに贈るプレゼントは「どんどん身体を交えて早く子供を作れ」って感じなのね……。
「精力剤を、贈って良いかと聞かれると少し困るな……あ、アリアさんどう思う?」
「あ、あたしに聞くの? うーん、い、今のままのシューッヘ君でも十分元気だから、精力剤なんて……でも、精力剤でもっと元気になったのも、見たい気もする……」
女性というのは複雑だな。でも、好奇心旺盛なのは俺の気持ちとも合致するところがあって嬉しい。
あとは、女性への媚薬、か。地球にガチの媚薬なんて無かったから、媚薬がリアルにどう作用するか、よく分からない。
「フェリクシアさん、媚薬って……どう効くの? 心臓ドキドキする感じ? それとも……もっとこう、下半身に来る感じなの?」
「私にそれを聞かれるか旦那様? むぅ……媚薬によって、強心作用の強いもの、催淫作用の強いものとあると聞くが……どちらが望みか、ご当主は」
「で、出来れば催淫系かな……いてっ」
アリアさんに静かにつねられた。つねられて気付いたが、俺、随分だらしない顔をしていた。少し正す。
「ま、まぁ俺たち夫婦は特にベッドで困ってる訳じゃないから、そんなガチのじゃなくて、気分くらいので良いから」
「そ、そうね。あたしたちまだ若いしっ! ……でも、精力剤ってあんまり手に入らないから、試してみたかったかな……」
「じ、じゃそれはお願いするとして。アリアさんに使うのは、雰囲気ーとか、気分ー、で良いからね」
「……それはいわゆる『ふり』というヤツか? では一番効き目の激しい物を手配する事にしよう」
ダー、と叫ぼうと思ったんだが、アリアさんをチラ見すると、赤くなりつつも目が。存外嫌がってなさそうにしか見えないぞ?
好奇心が旺盛なら、自分に使われるって告知されてる強そうな媚薬も、楽しめるのかなぁ。あぁそう言えばサンルトラ入りの水で火照ってた時もあったっけ。
「ま、まぁ振りじゃ無いんだけど……フェリクシアさんに任せるよ。ただ、気力体力の限界を超えない程度の物で頼む」
「かしこまった」
かしこまられてしまった。お題がもっと真面目な話なら、格好いい締めくくりなんだが、媚薬だ強壮剤だって話だからな……。
「じゃ俺は、今日は静かに寝る事にするよ」
「あの、シューッヘ君……お部屋に行っても、良い?」
「うん、そりゃもちろん。あぁ、使い始めて思ったけど、2人がけのソファー欲しいね。2人で座る所がベッドしかない」
「ベッドの上であれこれ食べたりも、ちょっと抵抗あるもんね」
うん、そうだ。決して、手を出せない彼女がベッドにいるのが抵抗があるのとは違う。
「ちょっとアリアさんにはトラウマかも知れないけど、また家具屋に行こうか」
「そうね。あーあの時のヒューさん怖かったのよ本当に。もうどうしていいか分かんなくなっちゃうし」
「辛かったね、もう大丈夫だからね……今日明日のうちに、英雄費の精算がされれば、現金で直接買えるから、幾ら使ったか見えるようになるし」
「そうよね! 家計簿は見える化がとっても大事だわ。幾ら使ったか分からない状態で進むと、つい使い過ぎちゃうのよね……」
家計簿。そうだよな、日本じゃ家計なんて意識しなかったけど、この世界じゃ俺が世帯主だ。もう結婚までして……我ながら短期間に変わったもんだ。
普通の世帯と違うのは、大金貨4000枚が多分年収ってこと。しかも王宮が半分確保しているから、万が一4000枚使い切っても、王宮に頼る事も出来そうだ。
大金貨1枚が、俺のちまちました計算で間違っていなければ、大体25万円位。4000枚となると、10億円もの収入になる訳だが……子爵だしな。そこは慣れないと。
俺の場合、運営すべき領地が無いから、金は色々使うだけの部分で済む。農地開拓に幾ら、水路開通に幾らとか、そういう領地のための支出が無い。
そういう意味では、現金が残りやすい収入構造になっているのは間違いない。多分10億の収入があっても、普通に領地経営したらすぐ無くなるんだろう。
結局、俺の生活は家計の延長線上にあるものだから、日本人で経営者でも無い俺にも、何とか把握が出来る。勿論10億をどう使うとか、想像も付かんが。
「お二人で過ごされるのであれば、ひとまず今日の所は、メイド室の椅子を持って行っておこう。飲み物などは、ワゴンを上に上げておくので使ってくれ」
「おっ、フェリクシアさんありがと」
と、色々考えながら食べていると、意外と皿はすぐ空く感じだった。油強めの肉も、レモンのさっぱり加減で美味しく頂けた。
フェリクシアさんの料理は、割と主食と主菜、で完結する事が多い。こう考えると、一汁三菜という日本の伝統スタイルって、実は豪勢だったりしたのか。
ただ、食事のスタイルについては、今のこの、屋敷移行期だからなのか、それともそういうスタイルなのかは分からない。
さっきキッチンを覗いたんだが、まだコンロが無い。何か焼き物の上、七輪とかああいうイメージの物の上に鍋が載っていたから、アレで料理していたんだろう。
まだガス管工事が来たって話は聞いていないので、火魔法が火種なんだろう。よく丸焦げ料理にならず良い火加減になるもんだ、俺じゃ無理。
「そう言えば、ガス管の工事っていつか聞いてる?」
俺が二人の顔を見て聞いた。が、二人ともキョトンとしている。
「ガス管自体は、この屋敷中に張り巡らされているぞ?」
フェリクシアさんが言った。
「あれ? さっきキッチン見たけど、コンロとか無くない? ガス来てないのかと思ったんだけど……」
「あぁ、言いたい事は分かった。ガス、一般に燃料導管と言うが、燃料導管自体は壁内に配置されている。居住確認手続きさえ終われば、行政官がバルブを開いて開通するんだが……」
「って、その居住手続きに何か問題でも起きてる? 俺たちもう住んでるのに、居住の確認が終わってないってなると」
「いやそこまで深刻な話ではないのだ。新築だとまだ早いんだが、中古住宅だと実際に居住の実態が調査される為、審査が長いんだ。大抵2~3週間は掛かる」
「うぇっ、そんなに? それじゃ、普通の人はその間料理とかどうしてるの?」
「まぁ、コンロの種類にもよるが、携帯燃料缶と接続できる機種があったり、最悪その期間はメイドだけ置いて主人達は宿に連泊とかな」
「えぇ……それ不便だね。幸いうちは、フェリクシアさんが魔法で料理してくれてる、んだよね?」
「ああ。携帯燃料缶は無駄に値段が高いのと、排気が少々臭うので使いたくは無いからな」
「魔法料理だったらあたしも出来るよー」
と、不意にアリアさんが割り入ってきた。
うん、これはきっと、女の嫉妬というやつだろう、多分。
「アリアさんの料理も食べてみたいな。今度良かったら何か作ってよ」
「うんっ! けど、炒め物より煮物系になっちゃうかなー、強火って魔法だと火力調整難しいんだよねぇ」
出たっ、シロウトがよくやる『強火で頑張ったら全部黒焦げに』というあれか。
「煮込み料理だったら、耐火素材の鍋置きさえあれば作れるんだけど……」
「奥方様、軍用でぶっきらぼうな代物であれば、既にコンロ設置予定場所に鍋置きと火入れが置いてある。周囲の壁も置く場所も、共に耐火素材だから安心だ」
「あれ? 普通、鍋置きとコンロが、イコールだよね? まだ燃料導管繋げられるコンロは、買ってないの?」
「あぁ。燃料導管がなぁ……」
と、フェリクシアさんが眉をちょっと潜め目を閉じ、遠くを見るようにして渋ーい顔をしている。行政来るのも遅い、審査長い、その上、なんだ?
「あのねシューッヘ君、燃料導管の壁の中の管は、資格の無い人は絶対触っちゃダメってなってるの。だけど、実際に導管の出口の口径を見て、合ってる口径のを繋がないと、燃料漏れ起こしちゃう」
「んー? 『この屋敷は、燃料導管は何号を使ってます』みたいな表記とかって、この屋敷無いの?」
「通例あるはずなんだが、何処にも見当たらなかった。更に言うと、およそあのタイルだろう、と導管出口の位置の目処は付いているが、それも確定ですら無い」
「んーつまり……燃料管の出口を見ないと配管の太さが分からず、しかし実際に見ようにもタイルを取らないとダメで、でもそれをするには専門の資格が要るから出来ない、と」
「さすが旦那様、全くその通りでな。仕方ないので野営装備の様な物で今は調理をしている」
そうか、軍人さんともなれば、行軍中に料理をする事もある、と言う訳か。
地球だと、レーションってパッケージになった食料温めて食べるとかそんな話は聞いた事があったが、レーション無ければ素材から作るしかないしな。
しかも、軍人さんプラスメイドさんイコール「フェリクシアさん」だから、戦場でクッキー焼いててもおかしくない感じになるのかな。
何にしても、行政で止まってる間も美味しい料理が頂ける事には、深く感謝しなければいけない。
今度あのズルやったガールズグッズのショップで、なんか新作出てたら買ってあげることにしよう。
商人として信用の置ける存在では無いが、単に品物を買う分には、新作でも何でもどんどん出してくれれば良い。
もし「面白かった!」「楽しかった!」など拙作が楽しめましたならば、
是非 評価 ポイント ブクマ コメントなど、私に分かる形で教えて下さい。
皆様からのフィードバックほどモチベーションが上がるものはございません。
どうかご協力のほど、よろしくお願い致しますm(__)m




