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【完結済み】破壊神のしもべはまったり待機中 ~女神様がほぼ仕事しないので、俺ものんびり異世界青春スローライフすることにした~  作者: 夢ノ庵
第2章 砂漠の魔法国家で貴族するのに必要なのは、お金とかより魔力の様です。

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第64話 アリアさんの判断 ~いよいよワイバーン靴に魔法付与~

 エクサルシル侯爵の「闇魔法」。死者を呼ぶとかなのか? イタコさんの様な。

 ただ、アリアさんがお父さんを亡くして既に10年以上が経過している。そんな昔の人を、この世に?


 俺が色々疑問に思いながらアリアさんを方を見ると。

 アリアさんはやはり少し戸惑っている様だ。いつもの堂々とした雰囲気がまるで無い。

 そりゃそうだよな、霊魂? の状態で蘇らせられるよ、と突然言われて戸惑わない方が無理だ。


 アリアさんの表情が見られないので、果たしてアリアさんが乗り気なのか分からない。

 あくまで俺が思う限りだけれど、焼却刑に苦しんだ人をわざわざまたこの世界に呼び戻すのは『酷』とも思える。

 死後が安らかなものかどうか、俺の場合は特殊すぎて例にもならないが、地球でも一般的には死後の世界は穏やかだ。


 そんな中で、突然呼び出され。十数年のタイムラグもあり。更に元の姿では無くて。

 それは、アリアさんのお父さんの望まないところの様な気も、俺にはする。


 けれど、結局アリアさんのお父さんの事は肉親が決める事だろう。部外者があれこれと口を出す言われがあるものではない。

 俺は心に少し重い物を感じながら、アリアさんの後ろ姿を見つめた。


「お父さんは……お父さんは、刑死しました。そのお父さんを蘇らせるのは、苦しみをもう一度味合わせてしまうのでは……?」

「いや。霊魂と言うのは、苦しみの概念が無いと聞く」

「……私、遠慮しておきます」

「そうか」


 エクサルシル侯爵の回答も、アリアさんの決断も、端的だった。

 ただ、アリアさんの一瞬の沈黙。そこに、相当の覚悟があったのは分かる。

 この機を逃せば、もう二度と父親に接する事は出来ない。けれど、その父親がどういう姿で現れるかも分からない。


 アリアさんに聞く事なんて出来ないが、アリアさんは決めたんだなきっと。過去と決別する事を。


 と、エクサルシル侯爵が少し明るい声で告げた。


「それでは、今日の仕事をしていくか。まずはどちらの靴だ?」

「あ、先生。こちらの、ノガゥア卿の靴からお願いします。サイズはピッタリです」

「ふむ。この革は……ワイバーンの、しかも幼獣革か。魔法吸収が良いから、魔法付与には最適な素材だな」

「おうノガゥア卿、深刻な話の後で悪いが、この靴に特別望みたい効果はあるか? 完全防水かつ通気性抜群、だとか、革に一切傷が付かないだとか」

「うーん、履き心地ですかね。今履いてる靴が、俺の世界の一般的な革靴とは違って跳ねるような感覚があるので、それが再現出来れば最高です」

「跳ねるような、か。ノガゥア子爵、履き始めは少しバランスを崩すかも知れぬが、ワイバーンの性質そのものでもある『飛翔』を掛けると、その様になるが、どうか?」


 俺の頭に浮かんだのは、ワイバーンの飛行領域まですっ飛んで行ってしまう俺だった。


「『飛翔』。空の彼方に飛んで行っちゃったりしませんか?」

「いやいや、靴の革の量もこの位なのでな、実際ワイバーンが飛ぶ時程の浮揚は生まない。足取りがとても軽くなる程度だ」

「じゃ、俺はそれをお願いします」

「そちらの……お嬢さんはどうするかね」


 ん……敢えてアリーシャとは呼ばないか。さすがに侯爵、その辺り触れて良い時と良くない時の区別がしっかりしている。


「あたしは……靴は丈夫さが命だと思っているので、丈夫に出来る魔法加工があればそれを」

「うむ。革を固くする事なく、柔軟性と強靱さを高める魔法を付与しよう。10年毎日履いても傷一つないだろう」


 うおぅ、10年履いてても傷つかない、まさに魔法の靴。

 工房主が靴をエクサルシル侯爵の前に揃えながら言う。初めて箱から出されたが、1つは鮮烈だ。


「色の好みが分からなかったから、勝手にイメージで染めさせてもらった。もし気に入らなければ、再染色は比較的簡単に出来る」

「革の再染色が簡単に? それって地味に凄いですね」

「あぁ、うちの工房では魔力草類から取り出した染色剤を使っているので、色を抜くも付けるも自由自在で、しかも革も痛まないんだ」


 さすが一流の工房と言ったところか。


「とりあえず、これがその靴だ。これがノガゥア卿の分、こちらが奥さんの分だ」


 俺の靴は、白。純白の白である。うわこれは、ハーフブーツで白いのって結構目立つな。

 でも……目立つのが良いっ! せっかくドラゴンライダーになったのに、目立たない靴なんて、そんなそんなだ。

 一方アリアさんの靴は、元々の革の色に少し紫を足した様な靴になっていた。決して地味では無い。けれど派手でも無い。使い勝手が良さそうだ。


「俺はこの色で! よく俺の好みを見抜きましたね」

「まぁ、あれだけ竜について熱く語っていたからな、この位のインパクトがあっても良いだろうと思ってな」

「あたしも、この色で。普段使いしやすそうな色だから、使いやすくて良いわ」

「どちらの靴も、普通の汚れなら乾いた布で拭う程度で取れるからな。更に魔法での防汚を掛けるそっちは、そもそも汚れないし傷も持つかないな」


 と、工房主の男性が新しい靴をそれぞれ机の上に乗せた。

 そこに、エクサルシル侯爵が手をかざす。

 すると、靴に向けて魔法陣が現れた。魔法陣はデザインでしかない、とは聞いているが、随分線の細かい、込み入った魔法陣だ。


「あの……作業中すいません、魔法に興味があるので、マギ・ビューで見てても良いですか?」

「ああ、構わん。腰を抜かさんようにな」


 腰を抜かす? よく分からないが、俺は[マギ・ビュー]の魔法を唱えた


 と見えたのが、魔法陣の中の図形から、魔導線が伸びていて、靴に接続されている。青色に色づいた魔導力が、靴に流れ込んでいく。

 ふと、魔導線が外れたと思ったら、今度は靴の裏側、地面に付く側に魔導線が集中する。こちらは白というか透明というか、魔導力そのものが流されているようだ。


「緻密ですね……」

「ああ。付与魔法というのはこの位はせねば、まともに物には魔法が宿らぬ」

「あの、それって精霊魔法ですか?」


 アリアさんが言葉を出した。


「いや。精霊魔法を用いる術式もあるが、竜族の材料とは相性がすこぶる悪い。まぁ私も精霊魔法の魔法付与は苦手だしな」


 少し苦笑いする様にして、まだ俺の靴に手をかざしている。


「さあ仕上げるか。よく見ておけよ?」

「はいっ」


 俺は何も見逃さないようにと必死にマギ・ビューの視界を追った。

 その時だ。魔法陣がとんでもない光を放って、目の前が真っ白に染まった。


「うわっ目が!!」

「はっはっ、とまぁこの位の魔法量を叩き込んで、物に封じるのだ」


 と言われても、目の前が真っ白で何も見えない。目を押さえて影を作っても、視界は白いままだ。


「し、シューッヘ君大丈夫?」

「エンライトなんかと訳の違う凄い光が……取りあえず今、何も見えないよ俺」

「あの、え、エクサルシル侯爵閣下。シューッヘ君のこの状態は、すぐ治りますか?」

「5分もすれば見える様になってくる。まぁそこの席にでも座らせて置くと良いだろう」


 アリアさんが俺の肩を支えてくれて、腰掛けさせてくれる。

 マギ・ビューでは見ていないアリアさんは、あの超強烈発光は一切感じていないようだ。


「引き続き、お嬢さんの靴を仕上げていくが、マギ・ビューで見るか?」

「いえ。あたしまで目がくらんだら、シューッヘ君を介助する人がいなくなるので」

「賢明だ」


 声だけ聞こえてくるが、アリアさんはエクサルシル侯爵にも理性的に振る舞っている。良かった……


 しばらくは、目を開いても視界が真っ白で何も見えない状況が続いたが、アリアさんの靴の付与が終わる頃になったら、少しずつ輪郭が見える様になってきた。


「うむ。これでこの靴の完全防汚と傷一つ付かない強靱化が付与された。

 魔法付与の効果は、まあ飛翔を付けたノガゥア卿のはすぐ分かるだろうが、お嬢さんのは10年経って振り返って効果を実感する様なものだ。

 靴の素地が良いだけに、飛翔などと言う付与するにはあまりに大仰な魔法も、そこそこ馴染むものだな。ワイバーンか、私も縁があれば考えてみるか。

 さて、久しぶりに面白い仕事も出来たことだしな。私はそろそろ帰るとしよう」

「先生、ありがとうございました! お見送りも出来ませんで」

「ああ良い良い。家に一人で帰れぬ様になったら、いよいよ老人だからな」


 と、輪郭に少し色が付いたエクサルシル侯爵が席を立って、応接室を出て行った。


「あー……まぶしかった。ようやく少し色が分かる様になってきたよ」

「そんなにだったんだ。普通の光が一切無くて、マギの光だけが凄いって、それ初めて聞いたわ」

「そういうものなんだ。あぁ確かに、エンライトだとマギも出るし光も出るか……」

「お二人さん、話している所悪いが、早速履いてみてくれ。子爵のは100%間違いないが、奥さんのが多少不安が残る」

「はーい」


 言われて、俺は机の上の白い革靴を床に置き、今履いてる履き古しのスニーカーから、履き替えた。


「ん? 凄いな、変に当たる所とか、指の窮屈さとか、一切無い。それでいて……」


 立ち上がる。


「どこかが擦れるとか、そんな不具合も無いし、幅も長さも、本当に丁度良い。凄いですねこれ!」

「せっかくだから少し歩いてくると良い。飛翔の魔法というのは俺も初めてだが、効果も見てくれ」


 俺は頷いて、廊下に出ようとした。うわっと!

 と俺は、思わず前につんのめりそうになった。


「うわぁ、凄く加速がつきますねこの靴」


 日本でも、新しい高いスニーカーなんかだと、後ろから押される様なブーストが掛かる時がある。

 それを遙かに上回るブーストが掛かっている。それでいて、着地はあくまでふわっとしている。堅くない。


「いきなり前のめりになっていたが、どうだ、マトモに歩けそうか?」

「意識して、歩いてみます」


 俺はさっきのブーストも加味して、そろりと足を進めた。スッと足が前へ押し出される。そして、床に付く。

 もう少し大股に歩いてみる。ふわり、と浮くような感覚があって、また床に付く。歩くには広くない応接間なのでカーブの良い練習になる。


 直進・カーブ・停止。いずれも、とてもふわふわしてして、足の力が全然必要ない。着地もソフトだ。

 この靴で全力で走ったらどうなるんだろう……「飛翔」の名の通り、すっ飛んじゃうんじゃなかろうか。


「うん、慣れてきました。足に力を入れないで、単に足を前に出す感覚が丁度良い位ですね」

「そうか。履き心地の方は折り紙付きだから、後は歩き慣れだけだな。万が一何かの都合で足のサイズが変わる事があったら、無料で調整するから覚えておいてくれ。

 それと、後でワイバーン革にも使える革クリーナーをサービスで付けるから、これは汚れる前に磨いてくれ。白だからな、一度汚れが沈着しちまうと目立つ」

「おっ、地味にありがたいサービス、助かります」

「じゃ次は奥さんの方だな。いやー正直肝が冷えたぜ、誰でも人生訳ありってなもんだが、目の前で繰り広げられると生きた心地がしねぇな」

「すいません、あたしの過去の……一番大事な部分に関わる人だったので……」

「いや別に文句を言ってるわけじゃ無いから安心してくれ、単に驚いただけだ。侯爵も、まぁ侯爵ともなると色々やってんだな。あーともかく」


 と、店主がアリアさんに席を勧める。

 アリアさんはそれに従って座る。


「さぁ履いてみてくれ。手計測でサイズを取ってるから、極微妙なサイズのズレはあると思う。痛いとか引っかかるとかあれば言って欲しい」

「はーい、よっ、あら履きやすい」

「ワイバーン革は伸び代がかなりあるからな。パッと見た感じ小さく見えるが、よく伸びてその人合わせのサイズになるんだ」

「あたしも歩いてみて良いの?」

「ああ、勿論だよ」


 と、今度はアリアさんがソファーの周りをトコトコ歩いている。俺の時の様につんのめったりはしない。

 いやしかし、ようやくアリアさんの顔が普通に見える様になってきた。マギ・ビューでのマギの光……とんでもないな。


「んー、引っかかるとか痛いとかはないけど、ちょっとだけ前が緩いかな? ま、靴下で調整すれば良っか」

「いや、そこは是非直させてくれ。そのままにしていてくれ、サイズを見る」


 店主がアリアさんの足下にかがみ込んで、靴の先を押して確かめている。


「これで今、緩く感じるか?」

「うん。ほんの少し、だけど」

「これは履きグセによるもんだな。調整して寸を縮めると、今は良くても後々指先を痛める原因になる。

 折角オーダーで作る靴なのに歩き方・履き方を靴に合わせろってのは本末転倒だとは思うが、そうした方が良い。ぶかぶかする程では、ないよなこの隙間程度なら」

「そうね、ぶかぶかまではしないわ。気持ち、ちょっとだけ、先っぽが余分かなーみたいな」

「その余分は、無いとマズい余分だ。前カツカツだと、足の指が変形しちまう元にもなるんだ。慣れるまで不快かもしれんが、靴の方に慣れるようにしてくれ。

 それからもし今後俺の工房以外で靴を作ったり買ったりする時には、この靴のサイズを基準にしてくれ。つま先カツカツなのを選ぶと、老年になってから足のトラブルを生む」


 おおさすがプロ。日本で言う「外反母趾」とかそういうトラブルの話なんだろうと思うが、利用者のクセを見抜いて今後の指摘までしてくれる。ありがたい店だな。


「付与魔法のテストは、さすがに出来ないですよね? シューッヘ君みたいに、パッと分かると面白そうと思ったんだけど」

「強靱化と防汚だろ? 簡単にテスト出来るぜ。やってみたいか?」


 言われたアリアさんがぶんぶん頷く。


「じゃあな……この靴墨で、思う存分靴を汚してみな」

「え゛」


 チョーク状の靴墨を手渡されたアリアさんは固まった。

 それもそうか、新品ピカピカの靴で、黒でもない靴に黒い靴墨を塗れってのは、なかなか勇気が要る。


「ほ、本当に大丈夫?」

「大丈夫だと思うぞ? 防汚の付与は割と一般的なんだが、靴墨程度ものともしない」


 アリアさんは屈んで、おそるおそると言った調子で、靴の先にちょっとだけ、靴墨を押しつけた。

 今のところ、しっかりと靴墨の黒色が、紫地の靴に付いている。


「こ、これ、大丈夫なんですよ、ね?」


 アリアさんが少し不安げに言う。


「ちょっと吹いてみな、フーって」


 言われたアリアさんが、汚した方の靴を脱いで、靴墨を吹いた。

 すると、とんでもない事に、靴墨が剥がれて飛んでいった。パラパラッと消える感じだ。


「ほら、元通り」

「す、凄い。これって、靴墨は革に乗ってさえいなかったって事?」

「そういう事だ。付与魔法の防汚は、そもそも汚れを寄せ付けないからな」

「すごい……」


 片足裸足のアリアさんが、靴をまじまじ見つめて息を飲んだ。

コロナに罹って以来、どうも本調子が出ません(__;) 更新がまだらになりそうですが、

どうぞ気長に付き合ってやってくださいませ。よろしくお願いします。

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