8.無能な最高神官
神殿へと向かう。
アレス達の行方を追いたい焦りはあるが、まずは俺がフィディアスであるということを証明しなくてはアレス達の悪事を暴くことができない。
「話は聞いていますよ。信仰力の測定ですね?」
「あなたは最高に運が良い!最高神官のこのマイセンが測定して差し上げましょう!」
最高に運が悪い。ハズレだ。
なぜか実力も人望も無いマイセンという男がこの役職を務めている。マイセン程度の実力では俺の信仰力の測定はできない。かといって他の人に測定してくれなんて言ったものならマイセンのプライドを傷つけて何をされるかわかったもんじゃない。
俺も神殿の役職持ちではあるが、神殿の出世よりもダンジョン探索に夢中で興味が無かった。他に優秀な神官は何人もいるはずだがもう何年もマイセンが最高神官を務めている。実力主義なのでそのうち他の誰かになるだろうと思っていたのだが意外とみんな出世に興味は無いようだ。
マイセンという男は前の最高神官が寿命で亡くなった後に高位の神官に推薦されて就任した。実力で勝ち取ったわけではない。
通常は高位の神官に推薦が集まると最高神官への挑戦権が得られる。挑戦権を得た神官は立会人のもと最高神官へ決闘を申し込むことができる。決闘を断れば役職を失う。決闘は武器の使用は禁止された奇跡の力のみを使うことが許された戦いだ。
とても神官らしくない方法ではあるが昔からこの方法で最高神官を決めてきた。我らの信仰は実力絶対主義なのだ。
両膝をつき五指を交互に組み祈りのポーズをして集中する。
信仰力の測定に使われる奇跡の力を全身から放つ。
「ふむ……年齢の割にはなかなかですね」
「その調子で今後も励みなさい」
つまり普通という評価だ。この結果はわかっていた。
マイセンの力量は大したことが無いので他人の力を推し量ることなんてできない。年齢とか身なりの良さとか適当な判断基準で判定しているのだろう。
「さぁわかっただろう?」
「フィディアスさんが死んで悲しんでる人もいるんだ」
「変なこと言ってないで早くケガの治療をしてもらいなさい」
そう言うとギルド受付のおっさんは去っていった。
治療している時間など無い。
アレス達がどこか遠くに逃げてしまう前に決着をつけなくてはならない。
俺達はダンジョン探索から帰還したばかり。普通ならすぐに街を出ていかずにまずは休憩する。
どこかの宿屋に泊まるはずだ。
幸い地上に戻ったのは朝で太陽はまだ高い。街は広いので明るいうちに全ての宿屋を回ることは難しいが考えている暇はない。
俺は冒険者ギルドに近い宿屋から片っ端に宿泊者名簿を見て回った。かなり回った。何件目か数えるのはやめてからしばらくしてアレスの名を見つけた。
アレスの宿泊している部屋へ向かう。
さすがにいきなり突撃したりはしない。同じ名前の他人だったら無駄な時間を費やす恐れがある。
ドアをノックしてから反応を待った。しばらくしてアレスが出てきた。門前払いにはされずに部屋の中に入った。まあ座れよと促されてお互いに椅子に座って交渉が始まった。