7.裏切り
「分配が終わりました。これが報酬です」
「皆さんお疲れ様でした」
アレスがパーティメンバーたちに袋を渡す。
普通ならずっしりと重い金貨の入った袋が配られたりするが、今回の大量の戦利品を金貨で支払うのにはギルドにも難しかったようだ。ギルドの印が入った小切手が束になって入っている。
今まで数えるほどしかお目にかかったことが無い小切手がこんなに大量にある光景を目の当たりにすると興奮が収まらない。メンバーは無言で内容を確認している。しばしの沈黙――
「確かに」
メンバーたちは確認を終えたようだ。
俺はキョロキョロと見渡し俺の分は?とアレスに視線をやった。
「おまえの分はこれだ」
アレスはそう言うと、小さな袋を俺の前に置いた。
音からして何枚かの金貨が入っているのだろう。だが大きさ的に小切手が入ってこないことはすぐにわかる。それに分配を渡すときはギルドからの明細も一緒に渡すものだ。これはギルドを仲介した正式な分配ではないことはすぐにわかった。
「どういうことだ?」
アレスはふうと息をついて語り始めた。
「偉大なる聖騎士フィディアスはわずかな仲間達と共に前人未到の地下20階に到達した」
「そこには凶悪なエルダーゴーストが待ち受けていた」
「フィディアスは勇敢にも一人でそのエルダーゴーストと戦い激闘の末に勝利した」
「だがエルダーゴーストが最後に残した呪いの力から仲間達をかばい、死んだ」
「何を言っている……?」
「聞いただろう?」
「お前は今回の探索で死んだんだ」
「死人に報酬は支払われない」
俺は立ち上がり何かを言ってやろうと思ったが、話があまりにも突拍子もなさ過ぎて言葉が見つからない。
「今なら伝説に残るストーリーは修正できるぞ?」
「それと英雄フィディアスの名を語るのは終わりにしてくれ。何か別の名を名乗れ」
「馬鹿なことを言うな!俺は生きている!!」
「ダンジョンでの裏切りは重罪だぞ!」
「問題無い。ギルドを仲介した正式な分配は完了している」
そう言うとギルドの印がはいった明細をペラペラと見せてくる。
俺の援護をしてくれとメンバーたちに視線を送る。
「いやぁ……ちゃんと報酬が貰えれば別に……」
「これはアレスさんとフィディアスさんの問題。私には関係のないことですね……」
もう一人の戦士もウンウンと頷いている。こいつは本当に無口だな。
どいつもこいつも報酬さえもらえれば俺のことなんてどうでもいいようだ。冒険者どもめ。
明細にはアレス以外のメンバーには金額が少し上乗せされている。すでに金で買収されでもしたか。
明細の戦利品項目に動物の死体がありギルドの買取にチェックがついておらず金額が空白だ。当然動物なんて狩っていないので、きっと俺を動物の死体と偽ったのだろう。大きさも小さいし損傷も激しいので人間だとは思われずにギルドのチェックをパスできそうだ。
「お前たちの言っていることは嘘だ!告発してやる!」
そう言い放って俺は冒険者ギルドの受付へと走っていった。
ダンジョン探索で死者が出た場合、裏切られて殺された可能性がある。大勢の冒険者に探索しに行ってほしいギルドとしては裏切りのリスクを可能な限り減らしたい。そのため、死者が出た場合は必ず死体の鑑定が行われ、仲間に殺されたと判明した場合は厳しい罰を与えることになっている。
今回は死体が回収されていないので、探索隊が死体回収するまでの間は戦利品の分配は保留されているはずだ。あの明細は偽造したものに違いない。
俺は受付のおっさんに確認した。
「いやー、確かに死体は回収できていないけどね?」
「あのフィディアスだよ?知ってるかい?ここいらじゃ知らない人はいない最強の冒険者さ!」
「悪党が毒殺しようとした事件があったが毒飲んだって死なねーんだ!気づきもしない!」
「さらに悪党どもがフィディアスさんの探索帰りを大勢で襲撃した事件もあったけど全員返り討ち!」
「戦利品が沢山増えたと大笑いしていたよ!」
「それにね?」
「地下20階?そんな深いところたどり着けないし死体を回収どころか増えちまうよ!」
「それにあんなに大きな死体運べるかなぁ?」
「長年の相棒であるアレスさんからの報告でもあるし、疑う要素なんてどこにも無いよ」
全く説得できる見込みは無い。
俺がフィディアスだと言っても笑われるだけだった。
「それより君はケガしてるみたいだけど大丈夫かい?」
「早く神殿に行って治療してもらった方がいいよ」
神殿……これだ!神殿に行って俺の奇跡の力を示せばフィディアス本人ということを証明できるかもしれない!
受付に神殿へ連絡を取ってもらっている間に俺は酒場へ戻った。だが机の上には小さな金貨袋が置いたままでアレス達の姿は無かった。袋を手に取り慌ててあたりを探してみるが見つからなかった。