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6.変化の薬

 目が覚める。

 見慣れた冒険者ギルドの酒場だった。大きなフロアの隅にある机に全員で座っており、俺も椅子に座らされていた。

 軽食を食べながら俺が目覚めるのを待っていたようだ。


「目覚めたか?」

「フィディアス、身体の調子はどうだ?」


 言われるがまま俺は自分の身体を確認した。

 上半身には布がかぶされていて、どういう風に巻き付けているのか鏡を確認してみないとうまく外せそうにない。火傷の範囲が広すぎるから包帯代わりにしているのだろう。

 奇跡の力で痛覚は和らげられており、それが無ければ苦痛で呻いていたことだろう。

 左手は火傷が少なかったので布が巻き付いていない。

 顔に近づけたりしてよく見つめてみる。小さな手だ。皮膚も薄くて鍛え上げられたゴツイ自分の手ではなくなっている。周りのメンバーと自分の身体と視線を行ったり来たりさせながら少しずつ状況を理解し始めた。


「身体が縮んでる」


「そういうことだ。トラップの影響でお前の身体は縮んだんだ」


 まだ寝ぼけるのではないかと改めて自分の身体を確認する。

 戦士が言う。


「これって若返りの薬ってやつですかね?」


 俺と同じ印象だ。歪に変形したというよりかは、ちゃんと人としての形を保ったまま全体的に小型化している。体格的には12-15歳くらいだろうか。

 俺は少し考え1つの答えにたどり着く。


「これは若返りの薬ではないな」

「若返りや不老不死は魔術師にとってのゴールだ」

「そんな薬をトラップなどに使ったりするものか」

「おそらくこれは"変化"の薬だ」


 魔術師がコクンと頷く。それを見て確信を得た俺は知る限りの全てを話し魔術師は補足をした。


 宝物庫にあった扉や宝箱の造りからして300年前のもの。何か特別なポーションを作ることができたら魔術師は大々的に宣伝してまわり能力を示すもの。当時発明されていたポーションと効果を記載している一覧も図書館に行けば閲覧することができる。変化の薬をかけられた生き物は、何か違う生き物に変化する。変化の薬でドラゴンに変化しようとした魔術師がネズミに変化したという昔話は有名だ。変化する生き物は元の生き物が何だったかなどの規則性が全くなく、完全にランダムに全く新しい生き物へと生まれ変わる。

 この効果を改良すれば望んだ生き物に変化することができるのではないかと長年研究されたが、使う錬金術の素材があまりにも希少価値が高いのと、実験台で変化した生き物に殺されてしまう魔術師も多く研究は断念された。


「でも大抵の悪影響はリーダーの加護で無力化できるんでしょう?」

「なんでこいつは防げなかったんです?」


「悪影響ではないからだな」

「変化することによって生物として強力になったり弱くなったりするが、必ずしもそれが良し悪しの判断基準にはならない」

「状態変化を防ぐ加護なら防げたかもしれないが、そうなると他の加護との併用が難しいから使っていなかった」


「しかし同じ人間に変化したのは不幸中の幸いでしたな」

「モンスターに変化していたらその場で殺すしかなかったですからな」


 確かに。そういわれると同じ人間へ生まれ変わったのは奇跡だ。


「元の姿に戻ることはできないのか?」


「うーん、難しいでしょうな」

「変化したら完全にその生き物だったことになります。初めからその生き物だったことになるため"元"というのが存在しません。」

「何度も変化の薬をかけて元の姿に近くなるまで粘るということはできなくもないですが……。」

「まぁ今となっては変化の薬の調合の仕方なんて誰も知りませんからねぇ。」


 つまり俺はこの身体を受け入れて生きていくしかないということだ。随分と高くついた。こんなことなら宝箱なんて諦めればよかったとひどく後悔した。

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