5.帰路
目を覚ました。
誰かに背負われて運ばれているようだ。炎が近くにありまだ俺の体は燃えているのかと思ったが、松明の炎だった。いつもは俺が奇跡の力で周囲を照らしていた。俺が明かりを灯せない状況になるかもしれないと松明や燃料も携帯していたが使う日がくるとは思いもしなかった。
今回の探索前に荷物を厳選していた時、鞄の底にある松明を引っ張り出すのを面倒くさがってそのままにしておいたのは正解だった。
俺は声を出そうとしたが、喉がつっかえてせき込んでしまった。
「おお!気がついたようですぜ!」
「体のほうは大丈夫ですかい?」
戦士の一人が俺の顔を覗き込む。言われるがまま自分の体の状態を確認しようと動かしてみるが、相変わらず動きが鈍い。だが今は重さを感じるというよりかは、何かで拘束されて動きを制限されているという感じだった。
「フィディアス、動くな。おとなしくしておけ」
この背中はアレスか。運びやすいように布でくるんでいる感じだった。おとなしく言うことを聞くことにする。
周りの様子を伺うとちゃんと全員そろっていることに安心した。
「ひとまず大丈夫そうだ。……状況は……?」
力のない声を絞り出した。喉でもやられでもしたか、ガラガラ声で非常に話しにくい。
「今は地下5階で、この調子ならあと2時間ちょっとってところですかね」
「通ったばかりの道なんでモンスターは全然いませんぜ」
地下11-20階のアンデッド中心の階層を抜けているのならもう大丈夫だろう。このダンジョンは地下8階の動物型モンスターの戦利品を目的にする冒険者が多いので、そこまでの階層はモンスターが非常に少ない。
地下20階にいたときは恐怖で顔がこわばっていた戦士も、今では笑みを浮かべており落ち着いた様子だ。
「へへっ、ちゃんとお宝も持ってきてますから安心してくだせー」
そうだ、お宝だ。あと少しで金持ちになる。
体のほとんどはひどい火傷を負っているようだが、時間をかけてゆっくり治療すればいい。完全に治すことができないとしても普通に生活する分には困らないはずだ。高くついたが死ななければ安いもんだ。
「俺の装備はどうなってる?」
「あー……、さすがにあれは重すぎて全部おいてきやしたね……」
「せめて鉄槌だけでも取りに戻れないか……?」
「え?!いやいや!無茶いわねーでくだせぇ!」
「あんなのまた買えばいいーでしょう?」
「あんな鉄塊、担ぐことはできてもこんな長い距離歩けませんぜ!」
また無茶なことを言い出したぞと困った顔をしている。さすがにこれ以上迷惑をかけるわけにはいかない。もう口を開かない方がいいだろう。
それにしても俺のでかい身体をアレスがたった一人で背負っているようだ。俺の足を引きずらずにそんなことができるのか? いや、できるわけがない。まさか俺の足は切断されたか?
恐る恐る足を動かしてみるがちゃんと足の指は動くし、くるまれている布の感触がある。
「フィディアス、じっとしてろ」
ビクっとして足を硬直させる。細かいことを考えるのは地上に戻ってからにしよう。俺は眠ることにした。