見返りはしっかり求めるべき
逃げろー!
なりふり構わず逃げろー!
手遅れ感凄いけど!
残念だったな!
俺に諦めて潔く死を受け入れる武士の心は無い!
はぁ…、どうして俺ばっかりがこんな目に…
あれか、『神に喧嘩を売りし者』か!?
そうだろ!
そうなんだろ!
絶対許さん
全力で走ってもオオカミからは逃げられない
それは神に文句を言っても変わらない
背後に響く軽快な足音が、鋭い爪のように思えて返って恐ろしい
いつの間にか接近されていそうで怖い
姿が見えない恐怖というやつか
ホラーは苦手なんだよなぁ
振り返りたいけど、ホラー映画でも鬼ごっこでも振り返ったら終わりなんだよなぁ
さて、どうしよう
勝てる方法を考えよう
んなもんあるか?
ねぇな
意外と冷静な頭を必死に働かせる
しかし、全力で身体を動かしながらものを考えるのは、困難を極める
一部の天才にのみ許された特権だ
そして俺は凡人以下だ
だけど、それは考えない理由にはならねぇ
思考放棄したら終わるのはよく分かってる
死ぬと確信していても、死を受け入れる気にはならねぇ
最後の最後まで足掻く
だからこそ今がある
人間は死の間際に走馬灯を見る
それは今までの経験から死を回避する方法を探すためらしい
追い詰められた俺の脳は、ある場面を思い浮かべる
半分思考放棄して、警察に追われる犯罪者みたいだなと
……そうだ
こういう時は古典的な手で
咄嗟に叫ぶ
「『物質創造』」
その瞬間、俺の想像に従って魔力が集まり、個体を形作る
手の中に創られたそれが、手に当たって痛い
十分な量があるのを感覚で確認すると、迷わずそれを背後に撒く
最後の望みをかけて、心の中で力一杯叫ぶ
行け!
まきびし!
草が揺れる音がする
アオンッ
キャインッ
遅れて、オオカミというよりイヌのような悲鳴が聞こえる
だが、止まらない
振り返らない
全てが止まった確証は無い
おさない
かけない
しゃべらない
もどらない
戻らないしか合ってないが、適当に思いついたので言った
何か文句あるか?
そのくらい追い詰められてるんだよ!
悲鳴が残る耳に、草を踏む足音が微かに、いくつも聞こえてくる
俺の予想は間違っていなかったようだ
嬉しいやら悲しいやら
だが、効いた
それは確か
有効手段が見つかれば、後は一つ
通じる内にもっと撒け!
撒いては逃げ、撒いては逃げをひたすら繰り返した
仕掛けに気付いたオオカミは飛び越えようとしたが、その先にも撒いてある
悲鳴と足音を必死に拾い、背後の状況を想像した
オオカミが減っているのを感じながら、油断せずに走り続けた
人間の肉体だったら、とっくに食われていただろうな
なにせ俺の身体は超が付くほどの不良品だからな
いつしか足音がしなくなった
恐る恐る足を止めて振り返れば、白銀の塊がいくつも転がっていた
待ち伏せに気を付けて戻ってみれば、オオカミは意識はあるものの、身動きが取れない状態にあるのが分かった
ふぅと張り詰めていた息を吐く
みんな引っかかったらしい
いやー
まきびし様々っすわ
忍者ってすげーな
先人の知恵っていうのもたまには役に立つ
後は殴って止めを刺すだけ
俺は拳を握り締めて、オオカミに近寄った
《拳のスキルレベルが上がりました》
《経験値を獲得しました》
《レベルが上がりました》
《経験値を獲得しました》
《レベルが上がりました》
《経験値を獲得しました》
《レベルが上がりました)
《拳のスキルレベルが上がりました》
《経験値を獲得しました》
《レベルが上がりました》
《経験値を獲得しました》
《レベルが上がりました》
《拳のスキルレベルが上がりました》
《経験値を獲得しました》
《レベルが上がりました》
《拳のスキルレベルが上がりました》
《経験値を獲得しました》
《レベルが上がりました》
《拳のスキルレベルが上がりました》
《経験値を獲得しました》
《経験値を獲得しました》
《拳のスキルレベルが上がりました》
《経験値を獲得しました》
《拳のスキルレベルが上がりました
《経験値を獲得しました》
《レベルが上がりました》
《経験値を獲得しました》
《拳のスキルレベルが上がりました》
《拳のスキルレベルが最大になりました》
《スキル格闘を獲得しました》
《経験値を獲得しました》
《レベルが上がりました》
ふぅ
これで全部か
紅に染まった白銀の数々を見やって思う
それから、同じ色に染まった右手を見つめ、溜息を吐く
結局、レベルとスキルレベルがかなり上がったか
あと上位スキル(?)も手にはいったな
きつかったけど報酬もうまい
正当かと言われれば否定したい
ゲームなら妥当だろうが、実際の命をかけた報酬としては少ない
ブラックというかブラッドというか
どれだけファンタジーでも現実ということか
……それでこそ、か