親バカって面倒くさい
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私は反射的に横に避ける
キャルシーさんは前もって準備していたかの様に横にずれる
ギルドマスターはそのままソファーに顔から突っ込んだ
まあ、ソファーだし大丈夫だろう
静寂に包まれる室内
誰も言葉を発さず、動こうともしない
突然時が止まったかのような、不自然な間
すると、なんの前触れも無くドアが開く
咄嗟にそっちを向くと、秘書さんが入室していた
その理由を予想する間も無く、私たちの元へ接近してきた
身の上にやましいことしかないので身構えたが、秘書さんは私ではなく、ソファーに埋まったギルドマスターを掴み、担ぎ上げる
呆然としている内に、素早い動きで退出し、ドアが閉まる音だけが響いた
その間僅か十秒
表情一つ変わらない、正に職人の技であった
いくらなんでも手慣れすぎだろう
真横を向いて助けを求めれば、キャルシーさんは涼しい表情で出されていた紅茶を飲んでいた
空間が再び静寂に包まれる
「え?」
その後、申し訳無さそうな表情で戻ってきたギルドマスターに謝罪されながら説明を受けた
だがまあなんというか
非常に言い訳じみた内容だったというか、完全に言い訳をしていた
隣のキャルシーさんは呆れた様子で額を抑えていた
要約すると、ギルドマスターはキャルシーさんの父親らしい
そして、重度の親バカらしい
さっきまでの威厳はどこに行ったのやら
十数分に渡り、キャルシーさんがいかに大事で愛らしいかを説かれても、私は生返事を返すことしかできない
キャルシーさんが止めてくれなければ、永遠に続いたに違いない
普段はどちらかと言えば呆れられる側にいるキャルシーさんが、本気で呆れるとは珍しい
しかし、この事はギルド内では周知の事実らしく、秘書さんも冒険者の皆さんもつける薬が無いとばかりに諦めているらしい
「普段はかっこいいのにね〜」と、皆口を揃えて言うそうだ
客人がいる時は自重するそうだが、長いこと会っていないという事と、いるのが子どもという事で、はっちゃけてしまったというのが事の顛末だと説明してもらった
全く、いい迷惑である
緊張していた私がバカみたいじゃないか
色々な疲れがどっと押し寄せてくる
本人に文句を言いたくなる
だがしかし、それで余計なヘイトを買うと討伐されかねない
一瞬忘れてしまったが、ここは敵地のど真ん中と言っても過言じゃない
基本的に、大人しくする以外の選択肢は無いのだ
だがまあ、理屈で感情が完璧に抑えられるわけが無く、結局ギルドマスターが戻ってきても、内心でブツブツ文句を言っていた私であった




