悪業に相当する罰を受けるのは当たり前
私は黒ローブの親玉らしき人物に向かって、『影槍』を放つ
先手必勝
卑怯もクソも無い
勝てばいいのだ
しかし、黒ローブは自身の影から伸びる槍を身を翻して避ける
続けざまに二発、三発と打ち込むが、どれもローブの裾を擦るだけに終わる
流石に不意打ちは通用しないらしい
「何者だ!」
黒ローブが叫ぶ
何者だ!と聞かれたら、答えてあげるが世の情け
ふざけている場合じゃない
一応ボスだ
一応、私とは真反対の方を向いているので、場所は気付かれてはないようだ
まずは…
「解析」
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個体名:ワルダ·クミダ
種族:人族
LV34/100
状態:通常
筋力:511
耐性:467
俊敏:693
魔力:132
スキル
『魔力感知LV2』『魔力操作LV1』『気配感知LV4』『気配遮断LV4』『危険感知LV3』『隠密LV4』『物理耐性LV2』『暗殺LV2』『格闘LV2』『投擲LV3』『暗殺術LV2』『剣術LV4』『身体強化LV3』
称号
『帝国軍』『暗殺者』
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うーん
思ったよりもヤバい奴だった
ステータスは私が少し勝っているが、戦闘技術は向こうの方が高いだろう
なんせ日本は平和だからね
日本で戦闘経験がある人なんて、警察とかとあるかどうかも分からない裏組織くらいだろう
知らないスキルも複数持っている
正面衝突は分が悪いな
しかし、良く考えてみたら皆さん帝国軍じゃないか
軍隊と戦ってるのか私
中々無謀なことしてんなー
後で報復とか言って、上司連れてきたり、物量で押し潰したりするのはやめてほしい
さて、どう仕留めようか
真っ向勝負は無いとして、どう不意を突くか
だけど、『危険察知』の力なのか分からないが、『影槍』は全て避けられた
恐らく、今の私の技量では不意打ちは厳しい
失敗した場合、即戦闘となることを考えると、採用は難しい
正面も裏も駄目
押して駄目なら引いても駄目
ならばどうする?
壊す?
……そういう問題じゃないか
じゃあ、混ぜてみるかな
私の予想が当たりますように
私は屋根から飛び降り、ワルダの前に立つ
足音は立てず、瓦礫の影から出てきたかのような動きで
「ねえ!?なんでこんなことするの!?」
私は必死に問う
すると、ワルダは驚いた様子でバッと振り返るが、私を見て何がおかしいのか笑い出した
「ククク、なぜだって?簡単だよ。戦争をするためだ!」
ワルダは得意げに言い放った
戦争かー
なるほど
概ね予想通りかな
でも、帝国とは協定的なのを結んでるんじゃなかったっけ?
「でも、約束したんじゃないの!?もう戦わないって!」
私は理解出来ないとばかりに叫ぶ
自分でもこんなにすらすらと心にもないことを言えるとは思わなかった
しかし、ワルダはそんな私に気を良くしたのか続けて言った
「ああ、協定のことか?そんなもん最初から無意味なんだよ。獣共は大人しく蹂躙されるのが定めってやつだ」
「そんな……」
私は絶望したように崩れ落ちる
膝が痛い
擦りむいたかもしれない
「お前だってわかるだろ?獣人はただの獣なんだよ。人間様がその獣を支配するは当たり前だろ?獣人共を支配すれば戦争は終わる」
ワルダはまるで自分たちの偏った考えが正しいと言うかのような口調で話す
いや、実際正しいと思っているのだろう
救いようのないカスだが、だからこそやりやすい
黙り込んだ私を見てか、ワルダはニヤリと笑って口を開いた
「見たところ、お前は人間だ。どうして獣人共の味方をしているのかは分からんが、あまりいい思いはしてないんじゃないか?」
「っ!」
特に何も無いが、取り敢えず驚いたふりをしておく
確かに、最初は色々冷たかったが、どこもそんなものだろう
獣人に限った話じゃないし、他人の態度なんて気にしなければいいだけだ
しかし、ワルダは更に気を良くして、ペラペラと口を動かす
「どうやら図星のようだな。なら分かるはずだ。今、お前がどれだけ頑張ったところで、獣人共は誰もお前に感謝しない。むしろ、厄介者扱いされて追い出されるだけだ」
「………」
口をつぐみ、俯いておく
言いたいことは色々あるけど、今口に出すわけにはいかない
そりゃあ、誰だって余所者と積極的に関わろうとしないだろう
種族が違えば尚更だ
そんな私を見て好機と捉えたのか、ワルダが私の傍へ歩み寄ってくる
「どうだ?こっちに来ないか?それだけの腕があればすぐに出世できる。戦争だって早く終わる。俺たちの世界は力こそ全てだ。力を示せば誰もお前を害せなくなる。むしろ、寄ってたかって誉め称えるだろうよ」
顔を上げると、ワルダは腕を差し出し、いくらか優しい口調で勧誘してくる
「……ほんとに?」
私はその手を取るように腕を伸ばす
「ああ、そうさ」
ワルダがニヤリと笑う
ワルダが油断しきったその時、手のひらをワルダに向けて準備していた魔法を放つ
「『闇槍《ダークランス》』」
ワルダはとっさに動くが、もう遅い
放たれた闇の槍は、ワルダの肩を貫く
「ぐあっ」
ワルダは片膝をつき、大穴の開いた肩を押さえる
次の瞬間、強烈な痛みがワルダを襲い、表情が苦痛に歪む
いや〜
コイツがバカでよかった
こんなにうまくいくとは思わなかったなー
子供を舐めてかかるからそうなるんだぞ?
ほら、中身は高校生と言えども成人してないし、一応子供じゃん?
「貴様、騙したな!」
ワルダがなんか言ってる
「そりゃそうでしょう。私の頭の中はお花畑だとでも思った?そもそも、あなたも私を騙そうとしてたくせに」
私はワルダに言い放つ
そんな簡単に言いなりになるわけ無い
人をそう簡単に信じてはいけない
「……俺を殺しても無駄だぞ。戦争は止められない」
はぁ〜
やっぱり馬鹿だ
自分のやった事を分かっていないらしい
そして、私の目的も
「何言ってるの?殺すなんて慈悲を与えるわけがないじゃない。私は戦争とかどうでもいいの。単にあなたを苦しめられれば」
こいつには、死んだ方がマシなくらいの苦痛を味わってもらわなければ私の気がすまない
後悔の無い生を送るには、受けた恨みは早々に清算しておくべきだ
「さて、どうしてほしい?」
どうせだし、なんか新しいスキルを創っても良いかもな
可能性は無限大
そうだ!
『能力創造《スキルクリエイト》』
《炎魔法を獲得しました》
ん?
物凄く簡単に創れたな
まあいいや
私は火の玉を出し、ワルダの肩を炙る
肉の焼ける臭いにも慣れてきた
私が何度も焼かれてるからだが
「死なないように止血してあげてるんだから感謝しなさいよ」
「ぐぁっ!い、今すぐやめろっ!」
うるさいなー
私が耐えられてるんだから、軍人様には余裕だろう?
「黙ってろ」
ワルダの胸を蹴り飛ばし、無理矢理黙らせる
さて、お次は…
「『黒い悪夢』」
私の周りに黒いもやが現れる
そのもやはワルダに吸い込まれていった
この魔法は精神系の闇魔法で、相手の恐怖を増大させる効果がある
他にも幻覚、幻聴、幻痛なんかを誘発させる効果もあり、ただただ人を苦しめるために考えた魔法だ
「____!___!」
ワルダが喚くが気にしない
恐怖に歪んだ顔を眺めるのは、中々に楽しい
人間の愚かさや脆弱さがよく分かるというものだ
「フフフ…」
さて、次はどうしようかな〜
翌日
大火災の犯人と思われる人間たちの死体が、街の至るところで発見された
だが、一人だけ生存者が発見され、すぐに衛兵に連行された
しかし、その男は恐怖に精神を蝕まれ、まともに会話ができなかったらしい
男はずっと「悪魔、あれは人の皮を被った悪魔だ」と、うわ言のように言い続けていたそうだ




