本人だけが知らないことってあるよね
翌日、私はこっちでの初依頼を受けにギルドに向かった
夜中はずっと街を散策していたのだが、やはり色々な部分が人間の街とは違っていた
全体的に物が大きい上に、種族毎に違うのか様々な形があるし、見栄えよりも耐久性に振ってあると人目で分かったりした
海外経験の無い私は、これが異国情緒ってやつなのかと思った
また睨まれるんだろうなーと陰鬱な気分になりながら、ギルドの扉をそっと開き、開いた隙間に身を滑らせる
その瞬間、違和感を覚えた
いや、何事もなかったという方が正しいか
そう、昨日の突き刺さる様な視線が無いのだ
不思議に思いながら受付カウンターに行くと、今日もキャルシーさんが人当たりの良さそうな笑顔で立っていた
その顔が動き、私と目が合う
「おはようレナちゃん!今日は一人?」
キャルシーさんが不思議そうに訊いてくる
「はい、そうですよ」
今日、二人は人気の無い場所で戦っている
なんでそんなことになったのかというと、恐らく、その理由は昨日まで遡る
あの戦いが終わった後、ラナの様子の確認のために私は救護室に向かった
そこそこ本気で蹴ったので、やり過ぎてないか非常に不安だったのだ
冷静に考えると、幼気な少女を本気で蹴り飛ばしたヤバいヤツだからな私
救護室の中には、いくつものベットと医者らしき人がおり、そのうちの一つにラナが寝転がっていた
ラナの側にはウルがいたが、ラナのベットに顔を埋めて微動だにしない
恐らく寝ているのだろう
通常運転なようで何より
「ラナ、具合はどう?」
私はぼぅっとしているラナに近づき声をかける
「……大丈夫です」
ラナはそう答えるが、どこか虚ろな目をしていた
なんだか声をかけ辛い
「本当に大丈夫?」
大丈夫って言う人ほど、大丈夫じゃなかったりするからな〜
私もその質だし
一目で、相手の状態を察せるほど、人間経験豊富じゃないし
ラナの答えを静かに待つと、少ししてラナが口を開いた
「……大丈夫です。ただ、自分の弱さが分かっただけですから…」
そう言って、またぼぅっとどこか遠くを眺めだすラナ
あー
これはだめなやつだ
後で相談にでも乗るか?
でも、私、人の気持ちに寄り添うとかできないんだよね
過度に気を遣うか、持論を展開して容赦なく切り捨てるかしかできない
丁度いい塩梅なんて分かるわけないだろ
友達一人できるかなー、な高校生活送ってきたわけだし
そもそも、問題に直面したとき、誰にとっても他人に相談することが効果的であるわけではない
大切なのは相談という行為ではなく、相談によって手に入る何かだ
自分一人で考えた結果、その何かが手に入るのなら相談は必要ないし、むしろ邪魔でさえある
まあ、あくまで持論だし、そんなことはないと思う輩も大勢いるだろう
それをどうこう言うつもりはないが、考えを巡らせることは重要だと思う
取り敢えず、私は相談の必要性を感じないし
だがまあ、私は一応ラナの保護者だ
子供の悩み一つ聞けないなんて恥ずかしいじゃないか
仮に拒絶されたとしても、何もいわないよりマシだ
勿論凹むが、何もせずに後悔抱え続けるよりずっといい
まあ、それだけが理由じゃないけどね
私はラナの様子を軽く観察し、特に酷い怪我は無いことを確かめ、密かに安堵する
「取り敢えず、身体がちゃんと動くなら、後でギルドの隣にある宿に来てね。痛かったらここで大人しくしてていいから」
私はラナにそれだけ伝えて救護室を出た
ちゃんと聞いていたのか不安だが、そのときはここにいるだろうから心配しなくてもいい
ウルを放置したことは言うまでもない
その後色々あったと思われ、朝見たときにはウルとラナは既に戦っていた
ん?
その色々が知りたいんだって
それはできん
私も知らないからな
擁するに、この時間は無意味だったということだ
まあそんな話はさておき、違和感の理由を聞いてみることにしよう
「なんで今日は皆さん睨んでこないのですか?」
私がラナに勝ったからだろうか?
ウルが何か言った?
もしや、キャルシーさんがか!?
いや、ありえん
私たちの真剣勝負を賭け事なんかに使う人だ
信じてはいけない
「え、気づいてないの?」
私が悩んでいるとキャルシーさんがそう聞き返してきた
そりゃそうだろう
だから現在進行形で悩んでいるのだ
「はい、だからこうして聞いているんですよ」
「……そう、あんのエロオヤジどもがっ……」
一瞬、キャルシーさんは顔を逸し、吐き捨てるように何か言ったような気がする
「今、なんて言ったんですか?」
「いやいや、なんでもないわよ!気にしないで!」
妙に笑顔で首をぶんぶんと振るキャルシーさん
疑問は残るが、本人がそう言うならそうなのだろう
少し怒っている様に見えても、何か闇が見えたような気がしても本人がそう言うならそうなのだろう
深く考えてはいけない
「……ねえ、レナちゃんどこかのお姫様だったりしない?」
すると、キャルシーさんが唐突におかしな事を言い出した
それにしてもレナちゃんかー
慣れないな
傍から見たら約十歳の少女だもんなー
でも、お姫様は無いなー
こんな姫がいたら国なんかすぐに滅びる
周辺国家に滅ぼされる
「そんなわけないじゃないですか」
私は呆れ気味に返す
「そ、そうだよねー、ごめんね、変なこと訊いて」
キャルシーさんも笑って誤魔化す
「「ハハハハハ」」
取り敢えず、キャルシーさんに合せて笑い出してみた
しかし、顔は笑っていないのがすぐに分かる
場に気まずい雰囲気が流れた
やって後悔した
十秒くらい沈黙が続けただろうか
私は状況を変えようと話を切り出すことにした
「あ、あの依頼受けますね」
「え、あ、分かりました」
キャルシーさんも仕事モードに戻り、口調が変わる
そして、私たちはそそくさと動き出した
結局、嫌な視線が無くなった理由は分からず仕舞いだった
本当に謎である




