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転生吸血鬼は自由に生きたい  作者: かきごおり
19章 陰謀の無い国は無い
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体面って大事だよね

どうも稀代の大嘘つきです

すいませんでした

サクッ、サクッ

軽快なリズムで降り積もった雪を踏み締め、ホクを抱いたまま屋根を飛び移っていく

屋根に足跡を残さないためにわざわざ魔術で空を飛んできたのに、なぜ今は屋根の上を飛び移っているのかと訊かれれば、はいその通りですすいません


だがそれに気付いたのは既に六歩程進んだ後だったのだ

時すでにお寿司というやつである

その上、他の三人も最初の一歩目から屋根の上に足跡を残していっていたので、私一人が努力したところでどの道無意味だった

そう考えれば、無駄な労力を削減した上、効率を上げた私の判断は賢かったと言える


雪が積もった足場に力を込めると滑ってしまうので、力の込め方に気をつけて移動しなくてはならない

正直、面倒ではあるが、代わりに景色が綺麗なので仕方が無い

ただ、ホクにはそれが難しいようで、初っ端からそれはもう見事に滑って転んだので、私が抱いて移動している

それが恥ずかしかったのか、ただただ寒いのか、腕の中のホクの肌は僅かに朱に色付いていた

とても可愛らしくてにやけてしまいそうだ


ただまあ、私とホクの身長はそこまで大きく変わらない

二回りほど私が大きい程度だ

なので、ホクを抱いて移動するというのはかなりの制限を受けることにはなるが、ホクの体温と息遣いを感じられるという点は素晴らしいと言える

最初は肩に担いでいこうかと思ったのだが、前にウルとラナを雑に抱えて歩いたとき文句を言われた記憶があるので、丁寧に抱いていくことにした

やはり、新しいことに挑戦するのはいいことだ

ここまで聞くと変態のように思えるかもしれないが、今の私の肉体は女で、年齢も同程度かつ保護者的な立ち位置なので何ら問題は無い

少なくとも、私を裁ける者はいない


時間が経つごとに、降雪は段々と強さを増していく

自分一人ならば我慢大会もやぶさかではないが、ホクもいるので大人しく障壁で外気を遮断する

それから火魔法と風魔法で温度を障壁内を快適な環境に調節した

暇を持て余していたときに考えた魔術だ


「あれ?あったかい…」

「ごめんね?気が回らなくて」

「い、いや、主様が謝ることでは…」

咄嗟に謝ると、慌てた様子で止められる

こんないい子をさっきまで虐めていたと思うと、本当に申し訳なくなってくる


「いつもごめんね。あの三人のことを任せっきりにしたりして。大変でしょ?」

雪は人の視界を遮り、風は人の耳を覆う

ホクと二人きりになる機会はそう多くない

随分前から労おうと思っていたので、この際一気にやってしまおう

そう思って口を開けてみると、ホクは困ったような表情をした


「……確かにあの三人は言っても聞いてくれないし、付いていくのは大変ですけど」

言葉を探しているのか、途中で声が途切れる

語尾が素に戻っていることには気付いていない

「た、楽しいから…、大丈夫です、じゃ」

「そう」

力の籠もったホクの告白に、自然と笑顔が浮かぶ

ホクは自分の発言が今更恥ずかしくなったのか、更に赤くなって顔をうずめてしまった

はーかわいい


人類にとって欠かせない何かしらの栄養素を摂取したことで、何となくやる気が湧いてきた

もう少し気合いを入れて探すとしよう

今なら多少の痛みも心地よいだろう

やはり、かわいいは正義なのだ


さて、ここ暫くこの辺りを散策して、いくつか分かったことがある

まず、驚くほど人気が無い

歩いている人は合わせても十数人程度

いくら街の外れで、天気が悪いとしても少なすぎる

気配を探ってみても、中心部に比べれば差は歴然で家屋の中にも大した数の人はいなかった


感覚的に三軒に一つ程しか中に人がおらず、そのほとんどが空き家だった

働きに出ているにしても、共働きが一般的ではないこの世界でこれはおかしい

その上、住んでいる人々の平均年齢も高めで、これも死亡率、出産率共に高いであろうこの世界では異常だ

何らかの非常事態が起こっていることは間違いない


次に、酒場や宿屋などの店が比較的多い

普通の家に比べれば勿論少ないが、街の中心部と比較しても遜色ない数を発見した

やはり、街の入口近くという、商人や旅人が多く訪れる地理上の特性ゆえだろう

この辺りに『雪鹿亭』があるという予想は間違っていなさそうだ


比較的人の気配が多い建物(と言っても数人だが)まで移動し、周囲を見渡す

視界に映る文字を片っ端から読み上げていくが、どれもこれも目当てのものではない

ここ周辺は人も店も多いので、あるならここだと思うのだが…


捜索範囲を広げるべきかと、目に込める魔力を増やして更に遠くも探してみるが、やはり『雪鹿亭』の三文字は見つからない

まさか、クラウディアさんの言動は私に勘違いをさせるための誘導だったのか?

そこに何の利益があるのかは分からないが、無いとは言えない

ああいう人間に道理を求めても無意味だ


「……主様?そろそろ戻った方がいいのではないのじゃ?……ん?」

自分の推測を疑い始めていると、ホクが話しかけてくる

顔を合わせようと首の向きを変えるが、語尾がおかしなことになっていることに気づいたのか、返事を待たずに神妙な面持ちで何かを考え込んでしまっていた

自分から話しかけたにも関わらず、自分の世界に入り込んでしまっているらしい

普通にやられたら非常に腹が立つが、かわいいので許す

全ては私の感じ方次第である


「そうね…、一旦戻って三人の成果を聞こうかしら。誰かが見つけてるといいんだけど」

探し始めてからそれなりに時間も経っているので、他の三人も同様に考えて戻ってきていてもおかしくない

成果があればそれでいいし、無くても方針を立て直すべき頃合いだ

見つからなかったのは悔しいが、変に意地を張るべきじゃない


再びホクを抱えて移動するため、腰の辺りに手を伸ばそうとすると、ホクが何故か戸惑ったような表情をしていることに気づく

ここで私はいつも通りの嫌な予感を覚えた


「…え?あの、『雪鹿亭』は見つけたんじゃ…?」

「え?どこ?」

突然ホクが衝撃的なことを言うので、食い気味に聞き返してしまう

同時に、発見した違う酒場たちが脳裏に映る

思い返してみても、やはりどれも違った名前を持っていたはずだ

すると、ホクは真下を向いて言った


「ここが『雪鹿亭』じゃないんですか?」


私は即座に透視で足元の建物を隅々まで見渡した

そして、目に映る典型的な酒場の風景

決して多くはないが、繁盛はしていると言えるだけの数の男たちが赤い顔で酒を飲んでいる

主人らしき年配の男性は、カウンターに座っている客と気安い様子で言葉を交わし、女将らしき女性は厨房で料理を盛り付ける

視線を少し横にずらした位置にある入口には、木製の看板に黒い異世界文字で大きく『雪鹿亭』と記されていた


「すぅー……、戻るわよ」

「えっ」

返事を待たずにホクを抱き上げると、隠密を保ちながら出せる全速力で来た方向に戻る


あれ?

確認したと思ったんだけどなぁ

私が不注意なのは痛い程に知っているが、いくらなんでも今のは無いと思いたい

私が辺りを見回してる内に、看板を設置したとかないかな

でも、気配の動きは無かったんだよなぁ…

とりあえず、クラウディアさんを疑ってすいませんでした


私は一陣の風となる

本当になれたらきっと楽だっただろう


どうしてこういつもどうしようもない失敗をするのか

まあ、結局私の予測は間違っていなかったわけだし?

むしろ、正確すぎたが故の悲劇と言えるだろう

優秀すぎるが故の苦労というやつだな

流石私

はー、困ってしまう

本当に


帰りの道中

あえて、自分の結界を解除していた

そのせいで、雪と風が直に肌に突き刺さり非常に痛い

剣で切られたり炎で焼かれたりするのとはまた違った種類の痛みで、思わず表情が硬くなってしまった

だが、そんなことより凍える寒さの方が恐ろしく、戻ったときには全身が細かく震えて止まらなくなっていた

だが、都合よく焚き火やらカイロやらがあるはずがない

体裁上縮こまって蹲るわけにもいかず、凍りつくような極寒を黙って耐え忍ぶしかなかった

いっそ、街ごと焼き払えば暖かくなるのではないかと、そんなことをつい思ってしまった


心を読まれたら即処刑である

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