とある少女たちの早朝
遅くなって本当にすいません
早朝
とある宿の一室
そこに少女たちは集まっていた
一人は深刻そうな表情で、一人は不思議そうに、一人は困惑してた様子で、一人は寝ていた
「……レナさまに、置いて行かれました!」
ウルがそう話を切り出す
その瞬間、ニアは予想通りといった表情でベッドに倒れ込み、ホクはどちらかと言えば呆れに近い驚きを浮かべた
「何ですかその反応は!これがいかに重要なことか分かってるんですか!?」
「いや、こういうの初めてじゃないじゃん。待ってれば帰ってくるって」
「あの〜…、まだ眠いのじゃが、寝てもいいか?」
ウルの必死の訴えも二人には全く響かず、軽く流される
ちなみに、現在時刻は午前四時である
「駄目ですよ!起きててください!」
「えぇ…」
このまま無視されたら黙って寝ようと思っていたホクだが、絶対に逃がすつもりは無いらしい
「いいですか!レナさまに置いてかれたということは、レナさまにとって私たちは必要無い。こ、このまま捨てられるかもしれないんですよ!?」
実際にそんな未来を想像したのか、ウルの目は若干潤んでいる
しかし、ニアとホクは顔を見合わせ、即答した
「いや無いでしょ」
「無いじゃろ」
確かに、彼女たちの主は一人で大抵のことができてしまう
だが、同時に大切にされている自覚はある
仮に彼女たちが何の役にも立たないとしても、捨てられることは無いだろう
それに、力をつける努力を怠っているわけではない
それは、日々共に研鑽しているウルも分かっているだろう
今だって、ウルが望んでいるように、隣に並び立つことはできずとも、負担を軽減することくらいはできているはずだ
しかし、ウルの考えは変わらないようで、楽観的なことを言う二人に憤慨した様子を見せる
「そうとは限らないじゃないですか!だって、レナさま、急によくわからないこと仕出しますし。その一環で私たちを捨てると言い出すかもしれないんですよ!?」
力弁するウルだが、やはり二人は共感も納得もできない
そうは言われても…、と顔を見合わせるだけだ
四人の中で最も主を慕っているのはウルだが、最も侮辱しているのもウルだろう
「そこで、私は考えました」
誰一人として賛同していないが、気にせず話を続ける
ほとんど独り言である
「レナさまの役に立つには、レナさまにできないことを考えればいいんじゃないかと!」
声を張り上げ、拳を突き上げる
随分な気合の入りようだが、拍手も喝采も起きる気配がない
「それじゃあ順番にいきましょうか。まずホクから」
「え!?」
強引に話を進められ、何故か一番手に指名される
こういうのって普通言い出しっぺが最初じゃないの?と思いつつも、真剣にレナにできないことを考えてしまう
何故なら真面目だからだ
「えぇっと、はさみ撃ち…とか、かのう?」
真剣に考えすぎて語尾まで意識が及ばず、抑揚がおかしなことになる
「甘い!甘いですよ!」
しかし、ウルは納得していないようで、身を乗り出して力説を始める
「いいですか!レナさまは余裕で分身くらいしてきます!そのせいで何度負けたことか…、なので、それは間違いです!」
「えぇ…」
結構真面目に考えた意見を見事に否定され、思わず声が漏れる
ホクの純粋な善意により協力したというのに、強めの否定が返ってくる
一体ウルは何がしたいのだろうか
そうは思いつつも声には出さない
余計面倒なことになるのが目に見えているからだ
どうせ次はニアの番なのだろうと、諦めて横を向くと、ニアは非常に悪い笑みを浮かべていた
まずい
ホクの直感がそう囁いた
仲間に加わってからの日々の中で、ホクはいくつものことを学んだ
ニアが悪い表情をすると大抵ウルと喧嘩をし、碌な結果にならないというのもその内の一つだ
「次はニアの番ですよ」
案の定、今度はニアに矛先が向けられる
「え〜、私はちょっと分かんないかなぁ。そういうウルはどうなの?」
ニアは上手いことウルの質問をかわし、逆にウルに話を振る
「そうですね…。例えば、目立つ場所には行けないこととか、大切なこと忘れたりすることとか、言ってることとやってることが違ったりとか……」
一度口を開くと、すらすらと止めどなく言葉が溢れていく
(あれ?これはただの悪口では?)
ホクはそう思ったが声には出さない
しかし、口を出したやつがいた
「それじゃあレナさまが帰ってきたら伝えておくね!」
「は!?ふざけんじゃないですよ!」
そうして始まる取っ組み合い
ホクは素早く部屋の隅に避難した
「ど、どうしよう…」
度が過ぎた場合はラナが力尽くで止めるのだが、今は早朝
ラナは熟睡中だ
だが、このまま続けさせれば良くて騒音、最悪宿屋が壊れる
追い出されでもしたら、レナに何とか言われるか分からない
実は、この宿屋を寝蔵にしている者たちは、騒音、振動、大体慣れっこではあるのだが、そんなことは知らないホクは本当に焦っていた
そんなとき、ニアと取っ組み合うウルの背後にゆらりと誰かが立ち上がる
「……うるさい」
ラナは虚ろな目のまま、自然な動きでウルの頭に腕を回すと、思い切り締め上げた
「ちょっ!?いだいいだいいだいっ!頭割れるっ!死ぬっ!死にますからっ!」
ウルは全力で抵抗するが、ラナの拘束は緩まない
寝起きで意識がはっきりしていないラナは、加減を考えずに行動するので、ウルは生命の危機に瀕していたりする
ニアはその様子を見て、けらけら笑っていたが、ラナの視線が向けられた瞬間に押し黙る
ニアの耐久力はウルより低いので、同じ力加減で拘束されたら本当に死にかねない
自業自得だと思いつつも、少し可哀想に思ってしまうホクだった
「……結局何もできなかったので、いつも通りやることにします」
暫くして、ラナが再び眠りに付いた後
まだ頭が痛むのか、側頭部を抑えながらウルが締める
不満気な表情をしているウルだが、一番不満に思っているのはホクだ
早朝に起こされた挙げ句、危うく騒ぎを起こしかけ、そして何の進展も無かったのだから当然だ
しかし、この先また同じようなことは幾度となく起こるだろう
その時、二人を止めるには力が必要だ
他の三人との差はまだまだ大きいが、いつか必ず追いついてみせる
皆が再び微睡んでいく中、ホクは一人そう決意した
凄まじい程に真面目である
ちなみに、その日の勝負はラナが勝利した
敗因は体調の差である
やはり、睡眠は大事だ




