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転生吸血鬼は自由に生きたい  作者: かきごおり
18章 鍛冶はロマン(個人の感想です)
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とある少女たちの早朝

遅くなって本当にすいません

早朝

とある宿の一室

そこに少女たちは集まっていた


一人は深刻そうな表情で、一人は不思議そうに、一人は困惑してた様子で、一人は寝ていた



「……レナさまに、置いて行かれました!」

ウルがそう話を切り出す

その瞬間、ニアは予想通りといった表情でベッドに倒れ込み、ホクはどちらかと言えば呆れに近い驚きを浮かべた


「何ですかその反応は!これがいかに重要なことか分かってるんですか!?」

「いや、こういうの初めてじゃないじゃん。待ってれば帰ってくるって」

「あの〜…、まだ眠いのじゃが、寝てもいいか?」

ウルの必死の訴えも二人には全く響かず、軽く流される

ちなみに、現在時刻は午前四時である


「駄目ですよ!起きててください!」

「えぇ…」

このまま無視されたら黙って寝ようと思っていたホクだが、絶対に逃がすつもりは無いらしい


「いいですか!レナさまに置いてかれたということは、レナさまにとって私たちは必要無い。こ、このまま捨てられるかもしれないんですよ!?」

実際にそんな未来を想像したのか、ウルの目は若干潤んでいる


しかし、ニアとホクは顔を見合わせ、即答した

「いや無いでしょ」

「無いじゃろ」


確かに、彼女たちの主は一人で大抵のことができてしまう

だが、同時に大切にされている自覚はある

仮に彼女たちが何の役にも立たないとしても、捨てられることは無いだろう

それに、力をつける努力を怠っているわけではない

それは、日々共に研鑽しているウルも分かっているだろう

今だって、ウルが望んでいるように、隣に並び立つことはできずとも、負担を軽減することくらいはできているはずだ


しかし、ウルの考えは変わらないようで、楽観的なことを言う二人に憤慨した様子を見せる

「そうとは限らないじゃないですか!だって、レナさま、急によくわからないこと仕出しますし。その一環で私たちを捨てると言い出すかもしれないんですよ!?」

力弁するウルだが、やはり二人は共感も納得もできない

そうは言われても…、と顔を見合わせるだけだ


四人の中で最も主を慕っているのはウルだが、最も侮辱しているのもウルだろう


「そこで、私は考えました」

誰一人として賛同していないが、気にせず話を続ける

ほとんど独り言である


「レナさまの役に立つには、レナさまにできないことを考えればいいんじゃないかと!」

声を張り上げ、拳を突き上げる

随分な気合の入りようだが、拍手も喝采も起きる気配がない


「それじゃあ順番にいきましょうか。まずホクから」

「え!?」

強引に話を進められ、何故か一番手に指名される

こういうのって普通言い出しっぺが最初じゃないの?と思いつつも、真剣にレナにできないことを考えてしまう

何故なら真面目だからだ


「えぇっと、はさみ撃ち…とか、かのう?」

真剣に考えすぎて語尾まで意識が及ばず、抑揚がおかしなことになる

「甘い!甘いですよ!」

しかし、ウルは納得していないようで、身を乗り出して力説を始める


「いいですか!レナさまは余裕で分身くらいしてきます!そのせいで何度負けたことか…、なので、それは間違いです!」

「えぇ…」

結構真面目に考えた意見を見事に否定され、思わず声が漏れる

ホクの純粋な善意により協力したというのに、強めの否定が返ってくる

一体ウルは何がしたいのだろうか

そうは思いつつも声には出さない

余計面倒なことになるのが目に見えているからだ


どうせ次はニアの番なのだろうと、諦めて横を向くと、ニアは非常に悪い笑みを浮かべていた


まずい


ホクの直感がそう囁いた

仲間に加わってからの日々の中で、ホクはいくつものことを学んだ

ニアが悪い表情をすると大抵ウルと喧嘩をし、碌な結果にならないというのもその内の一つだ


「次はニアの番ですよ」

案の定、今度はニアに矛先が向けられる

「え〜、私はちょっと分かんないかなぁ。そういうウルはどうなの?」

ニアは上手いことウルの質問をかわし、逆にウルに話を振る


「そうですね…。例えば、目立つ場所には行けないこととか、大切なこと忘れたりすることとか、言ってることとやってることが違ったりとか……」

一度口を開くと、すらすらと止めどなく言葉が溢れていく

(あれ?これはただの悪口では?)

ホクはそう思ったが声には出さない


しかし、口を出したやつがいた

「それじゃあレナさまが帰ってきたら伝えておくね!」

「は!?ふざけんじゃないですよ!」

そうして始まる取っ組み合い

ホクは素早く部屋の隅に避難した


「ど、どうしよう…」

度が過ぎた場合はラナが力尽くで止めるのだが、今は早朝

ラナは熟睡中だ

だが、このまま続けさせれば良くて騒音、最悪宿屋が壊れる

追い出されでもしたら、レナに何とか言われるか分からない


実は、この宿屋を寝蔵にしている者たちは、騒音、振動、大体慣れっこではあるのだが、そんなことは知らないホクは本当に焦っていた


そんなとき、ニアと取っ組み合うウルの背後にゆらりと誰かが立ち上がる

「……うるさい」

ラナは虚ろな目のまま、自然な動きでウルの頭に腕を回すと、思い切り締め上げた


「ちょっ!?いだいいだいいだいっ!頭割れるっ!死ぬっ!死にますからっ!」

ウルは全力で抵抗するが、ラナの拘束は緩まない

寝起きで意識がはっきりしていないラナは、加減を考えずに行動するので、ウルは生命の危機に瀕していたりする


ニアはその様子を見て、けらけら笑っていたが、ラナの視線が向けられた瞬間に押し黙る

ニアの耐久力はウルより低いので、同じ力加減で拘束されたら本当に死にかねない

自業自得だと思いつつも、少し可哀想に思ってしまうホクだった



「……結局何もできなかったので、いつも通りやることにします」


暫くして、ラナが再び眠りに付いた後

まだ頭が痛むのか、側頭部を抑えながらウルが締める

不満気な表情をしているウルだが、一番不満に思っているのはホクだ

早朝に起こされた挙げ句、危うく騒ぎを起こしかけ、そして何の進展も無かったのだから当然だ


しかし、この先また同じようなことは幾度となく起こるだろう

その時、二人を止めるには力が必要だ

他の三人との差はまだまだ大きいが、いつか必ず追いついてみせる


皆が再び微睡んでいく中、ホクは一人そう決意した


凄まじい程に真面目である



ちなみに、その日の勝負はラナが勝利した

敗因は体調の差である

やはり、睡眠は大事だ

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