人の噂というものは本人の知らないところで立つ
門の近くまで戻ってきた私たちが見たのは、大量の虫型の魔物の死骸と勝利を喜び合う冒険者たちの姿だった
全身を緑や黄色に染めた男たちが、虫の死骸の奥で抱き合ったり、肩を組んだりしている
見ているだけで気分が悪くなっていくのを感じながら、私たちはこっそりロンギスの中に戻った
脱走したのがバレていないことを祈りながら、早足で元いた小汚い部屋に向かった
幸い、冒険者たちも疲れていたのか、道中で声をかけられたり、視線を向けられることは無かった
記憶を頼りに元の場所まで戻り、窓から中の様子をこっそり確認する
中は無人で、私たちが出て行ったときの中の様子は変わっていない
誰も出入りしていないと判断した私は、鍵がかかっていない窓を開け、ウルと中に転がり込んだ
戻ってすぐ、姿勢を整える前にいくつもの足音が扉の向こうから聞こえくる
私もウルも慌てて元の場所、体勢に戻ると扉が開かれ、冒険者の皆さんがゾロゾロと部屋の中にや入って来る
「嬢ちゃん、起きたか。調子はどうだい」
強面だけど実は優しいおじさんが聞いてくる
「はい、おかげさまで」
「そうか、それは良かった」
おじさんは嬉しそうに笑顔を浮かべる
普段は酒ばかり飲んでいるが良い人だ
しかし、今は酒の臭いではなく、血の匂いを纏っている
「それにしても何故皆さんお揃いで?」
私は素直な疑問を口に出す
自然に口は動いたが、脱走がバレたのではないかという緊張で、心臓の鼓動はは五月蝿く感じるほど早く、大きくなっていた
「それはこの戦いの功労者に挨拶に来たのさ」
笑顔でおじさんが言うと、周囲の冒険者も同調して頷く
え
まさか抜け出してムカデ倒したのばれた?
私……終わった?
「そ、それはどういうことですか?」
身体に力を込め、逃走の準備をしつつも、僅かな希望を信じて質問をする
おじさんは不思議そうにしつつも、変わらない様子で答えた
「ん?ああ、嬢ちゃんは覚えて無いかもしれないが、嬢ちゃんが倒した黒い魔物、あれがあの後もう一体やってきて、それはそれは苦戦したんだよ。だから、もう一体がまだ生きていたら不味かったなと言う話になって、その一体を倒してくれた功労者の元に皆で来たのさ」
なんだ
そういうことか…
安堵で漏れそうになる息を堪え、納得したというふうに頷いた
「それにしてもあの時の嬢ちゃんは恐ろしかったなあ〜」
「ああ、魔物を容赦なくボコボコにする姿は酷く恐ろしかった」
「むしろ魔物が可哀想だった」
「そういやあの後、嬢ちゃんは皆に結構怖がられてたな。倒れたのに誰も近寄ろうとしなかった」
「それはお前も同じだろ?」
私の話題で盛り上がる冒険者たち
何やら色々あったらしい
取り敢えず、静かにしてほしい
「火事場の馬鹿力なんじゃないかーとか、あれはもう多重人格だとか色々言われてたな」
「俺は憑依を推すぜ。実は嬢ちゃんの身体には、かの闇の竜王が封印されてるんだよ」
「ふっ、童話の見過ぎだ」
私そっちのけで盛り上がる謎考察会
好き放題言って、しかもどれも間違ってる
せめて私がいない所でやってほしい
周りへの気遣いは社会人には必須だぞ!
こいつら見た目は反社寄りだけど
「まあ、とにかく何事も無いようで良かったよ」
おじさんが場を纒める
それから、思い出したように手を叩く
「ああ、それに嬢ちゃんのランクが上がるらしい。功労者には相応の報酬が無いとな。しかし、あの時とそっくりだな…」
おじさんの言葉に私は驚く
え、マジ?
やったー!
階級が上がれば、色々な待遇が良くなるのが世の常だ
素直に嬉しい
「それにしても嬢ちゃん、そんな面だったんだな〜」
「ああ、俺も驚いたよ」
ん?
何か私の顔が変なのだろうか
ジロジロと強面の男たちが顔を除いてくるものだから、圧が凄い
「これからギルドで祝勝会をするから気が向いたら来てくれよな!」
「待ってるぜ」
冒険者たちの圧を耐え凌ぐと、私の気持ちを察してくれたのか冒険者たちは私から離れていった
そして、そう言い残して冒険者たちは部屋から出ていった
緊張が抜け、溜息共に諸々の疲れがどっと押し寄せてきた
「レナ様、祝勝会って何ですか?」
すると、ウルが横から質問をしてくる
冒険者たちがいたときは隅で静かにしていたウルが少し恨めしい
だが、それとこれは別なので質問には答える
「何かに勝った時にする宴会よ」
「宴会が良く分からないですけど、楽しそうですね!」
「じゃあ、後で行く?」
「はい!ありがとうございます!」
私も未成年だから、宴会何かやった事無いしね
宴会に初参加しに行こう!
楽しげな宴会の様子を想像して、期待に胸を膨らませる
ただ、会社の接待的な宴会は遠慮したい
当たりの宴会であることを祈りながら、部屋を出る準備を二人で進めるのだった




