自分の名前は大切にすべき
よし
次はどうしよう
目的も無く森の中を彷徨っていては、また敵と遭遇しかねない
目的やら目標やら何でもいいから目指すものが欲しい
目的無く時間を浪費していい結果になったことが無いからな!
かと言って、思い付くことは何も無い
大きな目的と言えば、森の外に出ることと強くなることだが、今すぐどうこうできるものではないし、方法も分からない
結局、運に頼った成り行き任せになるしかないのだ
軽く世界に悪態をついていると、視界の端から光が差し込んでくる
「ん?」
何だ何だと視線を動かすと、ウルが全身から光を放っていた
一瞬唖然とした
かなり眩しく、目をギリギリまで細めないと直視できない
夜の住民である住む吸血鬼に、光は厳しいのだろう
『下位吸血鬼』によって傷を受けなかったのは幸いだ
光は少しずつ強さを増し、ウルを完全に包み込む
輪郭だけが捉えられるような状態で、遂にはその輪郭すらも歪んでいく
輪郭はユラユラと動き、オオカミとは全く違った形をとっていく
その様は正にポケットなモンスターの進化
Bボタン連打で止まらないかな?
その間にも変化は進み、よく見れば、その輪郭が縦長の棒に突起が五つ付いたようなものに変化していっているのが分かる
それが更に細かく形を変えていくと、それが人の形をしているのが分かる
輪郭がはっきりと決まり、人間のものと確実に分かるようになったとき、変化が止まり光が収まる
目を開いて、そこにいたのは何とも可愛らしい少女(幼女)
「あ、主様、色々ありがとうございましゅ」
あ、噛んだ
……ちょっと待て
えーーー!
あれか!
定番の人化ってやつか!
男の欲望が生み出したご都合設定!
異世界にもしっかりあるもんだな!
流石ファンタジー!
これでこそ異世界!
興奮したのも束の間、急に冷静になる
あれ?
でもそんなスキル持ってたっけ?
いくらなんでもご都合すぎないか?
ここは夢と希望に溢れた物語の中ではなく、理不尽と絶妙に溢れた現実
俺が不運なことも相まって、何か別の力が働いているような気がしてならない
まあでも、そんな相手を俺がどうこうできるはずもない
隠しスキルだとか、能力が全てスキルやステータスで分かるわけじゃないとか、理由はいくらでも考えられる
不運な俺の些細な幸運を喜ぼうじゃないか!
これでこそ釣り合いが取れるということだ!
その少女の容姿は将来有望そのもので、
肩まで伸びた黒髪
透き通る綺麗な肌
光を跳ね返すような黒のつぶらな瞳
チョコンと付いてるケモミミ、ケモしっぽ
ぱっと見七歳くらいかな
結論
かわいい!
天使や!
俺は目を輝かせた
飛んで跳ねて、大声で歌を歌いたいものだが、ウルのつぶらな瞳でそんな様子を見つめられたら致命傷を負いそうなのでやめておく
あと、俺の対人スキルは皆無なので、会話はまともにできないことが予想される
そういうときは、独り言で気分を上げておく
気分がいいときの俺は対人スキルが多少上がるので、会話くらいはできるようになる
ただ、理性が多少飛ぶので、取り返しの付かない失敗をするかもしれない
やはり、陰キャが無理して人と話すべきじゃないな!
無理をするのはいいことじゃないもんな!
「えっと、どうしたんですか?」
ウルが首をコテンとかしげる
「いや、なんでもない」
かわええ~
思考がそれで埋まりそうだ
頑張って色々やった甲斐があった
これこそ命に見合う対価だ
それにしてもこの世界に獣人とかいんのかな~
獣人がいたらエルフとかドワーフとかもいそうなものだ
いたらいいな~
夢が広がる
「えと、主様の名前はなんて言うんですか?」
自分の世界に入っていると、ウルが遠慮気味に訊いてくる
そんな表情で訊かれたら答えないわけにはいかないじゃないか!
「俺の名前は……」
さてどうしよう、名前
返事しないのは失礼かなと、途中まで言ったがその後がまだ無い
そもそもこんな一瞬で思い付くわけが無いんだよなぁ
自分の浅はかさを嘆いた
「名前は……」
「名前は?」
やべぇ
全然思いつかねぇ
性別の種族も変わってるから前世のを使うわけにはいかないし……
そもそも覚えてないし……
俺ネーミングセンス無いからなぁ
すぐ思い付くのがろくなものが無い
でも、急がなきゃいけない
でも、これからずっと使う名前と思うと安易には決められない
あー
思いつかねぇー
天を見上げても、目に入るのは生い茂る葉のみ
いつも無駄に余計なことを思い付く頭は、こんなときだけ働かない
そして、別の余計なことを考え始める
全くもって無能だ
……ちょっと上手いこと言えたか?
……これこそ無駄だ
ひたすら悩んでいると、唐突にそれらしい名前が頭に浮かぶ
はっ!
降りてきた!
俺の名前!
それじゃあ、これを機に一人称を俺から私に変えよう
いつまでも女声で一人称が俺では違和感しかない
女に転生したなら、色々と変えねばならないものがある
「俺……いや、私の名前はレナ!吸血鬼よ!」
これからも主人公あらためレナをよろしくお願いします




