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奴隷下剋上  作者: いちにょん
3/3

episode3


 EEPT。


 正式名称は俺達には分からない。

 だが、一つ言えるのは俺達が《アダルト(大人)》になるために一度は絶対に通らないといけない道だということ。


 古参である俺や、269番(フロク)39番(ミク)は時期はバラバラだが、《EEPT》を経験している。


 あれは全ての《メニュー》の中で最も過酷で、遂行できる者は1パーセントにも満たない。

 俺も実際、なんで生きているのか不思議なくらいの生き地獄だ。

 腕を切断され、腹の中をいじくりまわされ、体中を炙られる。

 気絶しても強烈な痛みのせいで意識を無理矢理覚醒させられる。

 俺達の《メニュー》の時間は十二時間。

 十二時間の間、それが繰り返される。


777番(ナナナ)…」


 それを知っているからこそ、俺は777番(ナナナ)の名前を口走っていた。


「168番!私語は厳禁だ!!次、私語を見つけた場合、特別室送りだと思え!」


 獣人からの叱責に、俺はハッと自分の犯した誤ちに気づく。

 とっさに次の言葉を胃の中へ押し込み、口を閉じる。


「各自、《メニュー》の部屋へ移動するように」


 そう言い残して部屋から退室する獣人。

 皆も気まずそうに部屋を後にする。


「ありがとうございます…私のために……」


 すれ違いざま、そう俺の耳元で囁いた777番(ナナナ)

 俺はただ、その場に立ち尽くすことしか出来なかった。



 俺は一度、五歳の頃に《アダルト》を見たことがある。

 俺達と同じく直方体の白い部屋の中で、複数の人型の機械相手に戦う姿を。

 それはまさに圧巻だった。

 俺達はこの十年以上、《メニュー》を遂行してきたが、それでも尚、あの動きが出来るとは思わない。

 部屋の中を三次元的に疾走し、両手に握られた短剣で的確に機械の接合部を切り離していく。

 その時、俺達は悟った。

 俺達は戦士を作るための実験の実験用奴隷なのだと。


「168番、心拍不安定。誤丸」


 《EEPT》は言わば人体改造。

 俺達が幼い頃から行ってきたのは《EEPT》に耐えるための体作り。

 《EEPT》を生き残った奴隷は、飛躍的に全ての能力が向上する。

 俺や269番(フロク)は《EEPT》を終えたあと、自分を疑いたくなるような成果を見せた。

 今、俺が行っているのは《EEPT》によって向上した能力を更に伸ばすための《メニュー》だと言える。

 そして《アダルト》になれば、俺達の実験は終了。

 然るべき場所へ移動させられる。

 俺の体感では《アダルト》になるまでの時間はそう無い。

 長くて数年。短ければ一年後には俺達十五組は《チルドレン》から《アダルト》になっているだろう。

 俺達がバラバラになれば、全ての作戦は頓挫する。

 だからこそ早く作戦を実行しないといけない…いけないが…。


「一度休憩を挟む。十五分後、再開だ」


 乱れた息を整えながら、俺は壁に背中を預ける。


 俺が269番(フロク)にした言い訳はあながち間違いではない。準備は出来ているが、実行する隙がない。

 今、行動に起こせばかなりの確率で失敗する。いや、確実に失敗するだろう。

 777番(ナナナ)は作戦を行うに当たっても、これからのことを考えても必要な存在だ。

 だが、もし作戦が失敗したら…。

 俺は数度、獣人達の口から『他の施設』というワードを耳にしている。

 《施設》はここだけじゃない。実験はここ以外にも行われている。

 俺達の廃棄は簡単に行われる。つまり、もし失敗でもすればこの《施設》にいる《チルドレン》全てが廃棄なんて可能性も十分にありえる。

 俺たち奴隷に希少価値など無いのだ。


 777番(ナナナ)は優しい。

 俺達にそんなリスクを背負って欲しくないと思っているだろう。

 だからこそ、あそこで777番(ナナナ)は俺に「助けて」ではなく「ありがとう」と言った。


「……どうすればいいんだよ」


 顔を手で覆い、久しく零れる涙を手のひらで感じる。


 どうすればいいか。


 俺は昔から117番(ヒトナ)を傍で見守っていた。

 猪突猛進なアイツを宥める。それが俺の役目だった。

 それは117番(ヒトナ)が死んでからも変わらない。俺は一歩引いたところで冷静に、利口な手を選んで、皆に貢献する。

 それが俺、168番の役割。


 俺の役割を全うするのなら、777番(ナナナ)を見捨てる。

 それが利口で堅実で、無難でノーリスク。

 間違ってなんてないはずなのに。


「168番、《メニュー》を再開しろ」


 俺は立ち上がり、走り出す。

 いつも通り、腕を振り、腿を上げる。


「おい、168番!どこへ行く!!」


 俺は一直線に部屋のドア目掛けて走る。


 緊急用のサイレンが鳴り響き、ドアをロックが強制的にロックされる。


 だが、そんなのはお構い無しだ。


 777番(ナナナ)の元へ。


 俺は渾身の力を拳に込めて、ドアをぶち破る。


「待ってろ…!!」



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