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奴隷下剋上  作者: いちにょん
2/3

episode2

 今から二千年以上前、人族と獣人族の立場は真逆だった。

 差別と迫害。奴隷として多くの獣人達が人族の奴隷として生きていた。

 だが、二千年前に一人の獣人族の勇者がこの世界を変えた。

 そこから人族と獣人族の立場は逆転した。

 これが世界の常識であり、変えることの出来ない事実。

 人族は獣人族の奴隷として生きることになった。


「これ何度目だよ」

「うるさい。バレると後が面倒だぞ」


 隣に座る269番(フロク)が十年以上毎日聞かされている言葉に悪態をつく。

 この《施設》で《メニュー》遂行中の私語は禁止。

 一言でも喋ったのがバレたら廃棄、つまりは用済みのレッテルを貼られ、実験ではなく生贄に回される。

 だが、269番(フロク)の言いたいことも分から無くはない。

 俺達実験用奴隷の一日の《メニュー》は座学から始まる。

 いかに獣人が崇高な存在であり、人族である俺達が愚かかを説く楽しい楽しいお勉強。

 それをこの《施設》に来てから、正確には言葉を理解してから毎日同じ話を聞かされているのだ。

 愚痴の一つも言いたくなる。


「……以上だ。昼食後、各自の《メニュー》を遂行するように。469番、668番、782番、今日の《メニュー》は《EEPT》に変更。第14-B室に来るように」

「っ……」


 誰かが息を呑む。いや、全員が息を呑んだのかもしれない。

 《EEPT》は俺達にとって死の宣告と同義。

 《EEPT》で死ななかった人間は、俺が知ってるだけで十人もいない。

 あれは…ただの地獄だ。



 《メニュー》を終わらせ、三号室へと戻る。


「よっ、お疲れ」

「ああ。269番(フロク)もな」


 今日は誰が死んだかなんて聞けない。いや、聞けるはずが無い。

 三号室はいつもに増して静かだ。


「……また…減ったな」

「ああ……」


 俺達は番号で呼ばれる。

 俺達が勝手に語呂合わせでお互いの名前を呼んでるだけで、本名なんて知らないし、番号以外の名前はここでは不必要。

 この番号はこの《施設》に入った順番を示すだけなのだから。


 そしてこの《施設》に残っている《チルドレン》は三百人と少し。

 今のところ番号は777番まで。四年前にここにやってきた777番(ナナナ)が一番最後の《チルドレン》。

 そしてこの《施設》の唯一の二桁番号。そして俺達の中で最もこの《施設》にいるのが長い39番(ミク)


「俺達が小さい頃は何人いたっけ…」

「あの頃は二百番台までしかなかった。けど、百人はいたな」


 そこから六百人増えて、四百人減った。

 生き残っている三百人だって、俺だって明日死ぬかも分からない。


「作戦はすぐにできないのか?」

「まだだ。最大の好機はまだ来ていない」

「そっか…すまん、忘れてくれ。ちょっと思うところがあってさ」


 269番(フロク)はいつもそうだ。

 気丈に振舞って、いつもみんなを笑顔にするために動き回る。

 けどみんなと長く接する分、誰かが死んだ時は人一倍、それを気にしてしまう。


「お前のせいじゃない」

「分かってるけどさ……分かってるけど、やるせないよな…」

「その言葉が出るだけお前は優しいよ。みんながお前に助けられてる」

「なんだよ急に……」

「そう思っただけだ。俺達が落ち着いているのは

半分の慣れと半分の虚無だ。だけど、お前は違う。誰かのために動いている」

「だって諦められねぇだろ…確かに絶望してる奴も多いけど、俺が話すと微かに笑ってくれる奴もいるんだ。そいつが明日死ぬ…そう考えると、どうしてもな」

 

 諦めるのは簡単だ。

 そんな言葉を昔聞いた覚えがある。

 だが、俺はその言葉を否定したい。

 諦めるなんて簡単じゃない。諦めるのにも覚悟がいる。

 今持っている全てを捨てる覚悟が。


 だが、俺達にとってはそれすらも幸せなことだと思える。

 長い長い地獄の中で自ら命を絶とうとする奴もいた。

 けど、奴隷は勝手に死ぬことすら許されない。

 殺されるのをただ待つのみ。

 それが奴隷に与えられた生きる時間の在り方。


 諦めたくても世界はそれを許してくれない。諦めさせてくれない。


「そんだけでいいのか?」

「ああ。今日はもう寝る」


 出された夕食の半分程を勢いよく胃の中に掻き込むと、席を立ち上がる。


 覚悟を決めよう。


 269番(フロク)を見てそう思った。


 作戦はもう実行出来る段階まで来ている。だけど、俺は怖かったんだ。

 もし失敗した時、ここにいる皆を危険に合わせることが、どうしても怖かった。


 さっきまでの俺なら覚悟を決めることで死ねるのなら、簡単に死ぬ覚悟を決めていただろう。

 だが、今決める覚悟は違う。

 死ぬ覚悟ではなく、精一杯生きる覚悟を。

 どんなに辛くとも、足掻いて、藻掻いて、生き抜く覚悟を。


「俺達の夢は絶対に諦めない。諦めさせない。そうだろ117番(ヒトナ)…『外』の世界へ。希望を皆に」



「777番、今日の《メニュー》は《EEPT》だ」



 だが、この世界は簡単に希望を見せてくれない。


 絶対は俺達のすぐ後ろを着いて歩く。


 足掻く覚悟を、俺達の軌跡を簡単に踏みにじるために。


 


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