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奴隷下剋上  作者: いちにょん
1/3

episode1

「なぁ、168番(ヒムヤ)…外に出ないか?」


 生まれながらに奴隷(負け組)

 常に番号で呼ばれ、実験材料(モルモット)として生きる日々。

 それが当たり前で、それを変えようなんて思わなかった。


「なんだよ急に…明日も早いんだから寝るぞ」

「オレ達さ、『外』って見たことないだろ?」

「何を今更…」

「外にはさ、空があって、雲があって、太陽があって、海があるらしい!海って知ってるか?すげぇ大きい水たまりで、その水が全部塩辛いらしいぞ!!」

「へぇ…大きいってどれくらい?」

「それは分かんねぇけどさ…けど、俺達がいる施設よりも大きいらしいぞ!そんな外の世界を皆に見せてやりたいんだ!!」

「………」

「ほら、オレ達いつ死ぬか分かんないだろ?皆、絶望してる。励ましあって必死に生きてるけど、明日誰が死んでもおかしくないんだ…だからさ、オレ、みんなを笑顔にしてやりたいんだよ!」

「………くだらないこと言ってないで寝るぞ」

「ちぇっ…」


 オルカナ歴846年。

 獣人共が全てを支配する世界で、人間(奴隷)として生きる俺にとって…この施設に生きる子供たちにとって117番(ヒトナ)は英雄だった。

 まだ十二の俺達に夢と希望を与えてくれた。

 いつも笑顔を浮かべ、実験が終わった後、一人一人に声をかける。


 そんな117番(ヒトナ)が俺達は大好きだった。


 そんな117番(ヒトナ)が俺達の希望だった。


 そんな117ヒトナが俺達の支えだった。


 俺に夢物語のような話を語ってくれた117番(ヒトナ)は次の日、実験途中に全身から鮮血を撒き散らし、簡単に死んでいった。



「168番、丸丸。続けろ」


 直方体の部屋の中を俺は今日も走り続ける。

 部屋の隅に取り付けられたスピーカーから断続的に流れる命令に従って体を動かす。


 目的は分からない。そもそも意味なんてあるのか。

 そんな事を考えながら淡々と腕を振り、地面を蹴る。


 ただひたすら、何時間も走るだけ。

 一年前から《メニュー》がこれに変り、一年間、俺は部屋の中を毎日走っている。


「168番、全行程終了。三号室に戻っていろ」


 117(ヒトナ)が死んでから三年。

 十五になった俺はまだこの《施設》で《メニュー》をこなす日々を過ごしている。


 人類が獣人に敗北してから二千年。

 人類は獣人達の奴隷になった。

 奴隷として生まれ、実験用のための奴隷として二歳の頃に《施設》に売られたらしい。

 当然ながら両親の顔なんて知らない。そもそもこの施設に両親の顔を知っているやつなんて数人しかいない。

 故に俺達は俺達以外を知らない。

 『外』の世界を一度も見たことがない。

 俺達の世界はこの《施設》の中で完結している。


「よお、168(ヒムヤ)。今日は長かったな」


 三号室に戻ると、見慣れた顔が目に入る。


「まあな。それで今日は何人死んだ?」

「奇跡的にいない。一ヶ月ぶりか?」

「そうだな……それはいいことだ」


 いいこと。いいことのはずなのに、皆の目に光は無い。

 年齢はバラバラ…だが、今この《施設》の《チルドレン》…実験用奴隷で一番の年長者は俺達、十五組。

 俺達は希望を知っている。117番(ヒトナ)という希望を。

 だが、 ここにいる《チルドレン》のほとんどは117番(ヒトナ)が死んだ後に《施設》に来た奴ばかり。だから希望を知らない。故に絶望している。


「それでどうする?」

「《アダルト》になるまで時間が無い。動くなら一年以内だ」

「一年以内か…」

「そのために今まで準備してきたんだ。安心しろ、俺達は必ず『外』へ行く」


 俺達十五組は、117番(ヒトナ)が死んだその日から117番(ヒトナ)の夢を継いできた。

 『外』の世界という馬鹿げた夢を。


「話はもう少し慎重にさなさい、168番(ヒムヤ)269番(フロク)

39番(ミク)777番(ナナナ)戻ったのか」

「おかげさまでね」

「皆さん、お疲れ様です」

「それで、どうなのよ」

「どう…とは?」

「作戦は進んでいるんでしょうね?」

「ああ。そこは抜かりない。この前、777番(ナナナ)に頼んであったモノも手に入ったしな」


 出された夕食を口に運びながら、俺達は『作戦』を練っていく。

 『外』の世界へ行くために、この《施設》から皆で逃げ出す『作戦』を。


 168番()269番(フロク)39番(ミク)777番(ナナナ)

 この四人が今、生き残っている十五歳、四人組。通称十五組。

 同じ志を持つ大切な仲間だ。


「そう。それで、皆、今日のメニューはなんだったのよ」

「俺はいつも通り走るだけだった」

「俺も剣と槍を交互に振るだけだったな」

「代わり映えしないわね」

「それが…一番ですよ」

「そうだな」


 俺達十五組はここ半年ほど同じ《メニュー》を続けている。その内容は比較的安全で、命の危険は無い。

 『作戦』にはこの四人は欠かせない。

 それを皆分かっているからこそ、何事も無いことを祈っている。


168番(ヒムヤ)、私たちの命、預けたわよ」

「ああ。任せておけ」

「長かったここも一年以内には出られるって考えると、気が楽だな」

「下剋上…ですね」

「いいなそれ!獣人達に支配されたこの当たり前を、俺達の下剋上を持って崩す!」

「全ての奴隷に希望の光を。外の世界へ導く者に…か」



 この物語は二千年の間、獣人に支配された世界の歯車を動かした四人の奴隷の物語である。


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