それでいいよ
聡はどんどん私との間を詰めてきた。
「僕はミアの隣で嬉しかったのに……。」
「おかわり!おかわりは?」
私はドキドキしてきたから、話を逸らそうとした。
「僕、こっちの方が食べたい。」
「こっちってどっちよ!あの、ほら、また技かけちゃうよ?」
「それもいいね。」
そんな笑顔ある?ダメだ。聡もプロレス技かけられて喜んじゃう人だった……。
聡が近づいてきて、私が目を閉じて、キスしようとした瞬間…………
ドサドサ…………と物が落ちる音がした。
「ミ…………ミア…………」
「あ…………。」
そこには…………隆兄が立っていた。
「た、隆兄!いや、あの、これは……!!」
「貴様~!今……今……ミアに何をしようとした!?」
「聡、逃げて!!あ、そこの箱、持って帰って!今すぐ!!」
私は何とか隆兄を押さえて言った。ここは俺に任せてお前は早く行け!!
「隆兄、落ち着いて。ちゃんと説明するから少し落ち着いて!!」
「ミア、ごちそうさま!隆さん、お邪魔しました!」
挨拶はいいから早く!!これ以上は地獄絵図だから!!
何とか隆兄なだめて、玄関のドアが閉まる音を聞いたら、少しホッとした。
「タルト!今年もチョコタルト焼いたよ!コーヒーいれるから食べよう?ね?」
普段甘い物を食べない隆兄も、このタルトだけは食べてくれる。
私がタルトとコーヒーを用意していると、隆兄が落としたアルバムを拾いながら言った。
「ミア…………聡とは別れろ。」
「聡とは付き合ってないよ。」
「付き合ってない~?じゃあさっきのは…………」
うわっ真実は逆効果!!
「あ、間違えた!今のは無し!」
私は慌てて聡の食べ終わったお皿を片付けて、隆兄の前にタルトとコーヒーを置いた。
「大丈夫大丈夫、付き合ってます。」
そう言ってキッチンのシンクにお皿を運んでいると…………
「ならすぐに別れろ。」
突然そう、ハッキリ言われた。
「…………どうして?」
隆兄が一時の感情で言っているようには聞こえなかった。
「聡から、あの日の詳細は聞いたか?」
「聞いてない。別に…………聞きたくもないし。」
隆兄はコーヒーを少し飲んで言った。
「医者が言うには、傷口の方向がおかしいらしい。ミアは右利きだろ?右腕に傷があるのはおかしい。」
別に…………酔ってて記憶がないのに、利き手なんか関係ある?
「左手でつけたなら、右から左につくはずだ。逆はあり得ない……。」
「だったら何?聡が誰かを庇ってるって言いたいの!?聡は優しいもん!それくらいするよ!」
もしそうだったら…………余計聞きたくない。
たとえ、聡が私を傷をつけたとしても、聡の口から聞きたくない。どっちも…………聞きたくないよ!!
「でも…………それじゃ自殺じゃない事を証明できない……。」
「いい。もういい。私は自殺だった。それでいいよ!」
私はそう隆兄に言って、自分の部屋に籠った。
「ミア!!」
それでいい。それで…………これ以上誰も傷つかないなら、それでいいよ……。




