チョコタルト
マンションの前まで来てやっと思い出した。
学校に…………鞄忘れた……。鍵が無い。インターホンを鳴らしても誰も出ない。祐兄は留守みたいだ。
何なの!?こうゆう時の自宅警備員でしょ!?
しばらくマンションの前で祐兄の帰りを待っていると、そこへやって来たのは聡だった。
私はマンションから離れようとした。
「ミア!ミア!さっきはごめん!大きな声出して!怖がらせるつもりはなかったんだよ!」
それでも私は逃げた。
「待って!」
聡は後ろから私の腕を掴んで捕まえた。
「ちゃんと……ちゃんと話を聞いてよ。」
「いい!今は何も聞きたくない!!何も話さなくていい!何も話さなくていいから…………もう、そんな顔しないで…………。」
私は…………聡の方を見れないでいた。まだ、手が震える。震えた手で、聡が渡してくれた自分の鞄を受け取った。
「鞄…………持って来てくれてありがとう。」
本当はバレンタインなんて気分じゃないけど…………
「寄ってく?」
「いいの?…………やっぱり今日は帰るよ。」
「じゃあ、タルト!タルトだけ持って帰って。せっかく作ったから。」
結局、聡に部屋に入ってもらってタルトを箱に入れて、支度した。
「みんなの分もあるから、みんなで食べてね。」
「家族で食べたら、もはやそれはバレンタインチョコじゃないよね?」
「あ、そっか!それじゃ嫌?」
確かにこれじゃ、完全にただのお裾分けだ。
「ミアと食べたい。」
「そっか!当初の計画はそうか!」
「当初の計画?」
私は急いで紅茶を入れる準備をした。
「チョコタルトじゃコーヒーの方がいいかな?」
「紅茶でも大丈夫だよ。ありがとう。」
当初の計画通り、二人でチョコレートムースタルトを食べた。私はソファーの前のテーブルにタルトと紅茶を置いた。聡は品よくいただきます。と言って食べ始めた。
「…………どう?」
「うん、もう死んでもいいくらい美味しいよ!」
そう言って、天使の笑顔を見せてくれた。
「死ぬな!これで死んだら、デスタルトになる!」
その笑顔にこっちが死にそう!
私の心配をよそに、聡は最後まで美味しそうに食べてくれた。
「ごちそうさま。爪先トントンしたい気分だよ。」
聡は紅茶を飲んで、一息ついて言った。
「あのさ、ミア、あの夜の事、ちゃんと話したいんだけど…………」
「その前に、こっちの話聞いてよ!」
私は話を反らそうと聡の隣に座って話した。
「あのね、私、今日告白されたの。」
「告白!?あの……それってもしかして……吉岡さん?」
「何でわかるの!?」
聡マジエスパー?!
「いや、わかるよ……僕がミアの方を見ると必ず睨まれて、すぐにミアの方を向くんだもん。あからさまだったよ。」
「嘘……私てっきり、吉岡さん聡の事好きなのかと思ってた。だって、聡のマフラー抱きしめてたし……」
「それ、僕が貸した物って知らなければ、普通ミアのだよね?」
そうか…………言われてみれば確かに!
「それより、吉岡さんが僕の事好きだと思ってたのに……席、代わったの?」
う…………それは……。聡の笑顔が怖い……。悪魔の顔よりはずっとマシだけど……。




