人違い
聡と帰った後、常連さん…………中原さんから、連絡が来た。そこには…………吉岡さんと移った写真が添えられていた。
『お友達を招待しました。是非家に来てください』
嫌だなぁ…………二度と会いたくはないのに……。つきまとわれるってこんな気持ちなのかな?
私はまた、あの部屋を訪れた。
「こんにちは~。」
「はーい!」
ドアが空くと、中原さんが出てきた。
「すみませ~ん!吉岡さん返してもらってもいいですか~?」
「居酒屋じゃないのよ?はい喜んで~!って訳にはいかないでしょ?」
「山下さん、お邪魔してます。」
いや、吉岡さん、ここ私の家じゃないから。
「吉岡さん、知らない人について行っちゃダメだよ?」
「え?だって山下さんのお母さんだって…………」
「でも、ちゃんと確認しないと危ないよ?」
まぁ、普通はお母さんって言われたら偽物とは疑わないよね……。
「あの、山下さんって…………木本君と付き合ってないの?」
「うん……結局ずっと別れたままだから……。って何で知ってるの?」
「お母さんから聞いちゃった。」
お母さん…………?
「お母さんだもの。心愛の事なら何でも知ってるの。」
「あの、中原さん、以前、言っていた王子様とお姫様の挿し絵の絵本、見せていただけませんか?」
「いいわ。」
しばらくすると、中原さんは絵本を一冊持って来た。やっぱり……。
一応、中身も見せてもらった。
「やっぱり…………違います。この絵じゃない。」
「そんな、お姫様と王子様の挿し絵って……」
「私が小さい頃見ていたのは、挿し絵じゃなくて、スケッチブックの絵なんです。母も……亡くなっています。」
私は絵本を閉じて、中原さんに差し出して言った。
「あなたは…………私の母じゃありません。人違いです。」
「そんな…………心愛……。やっと見つけたと思ったのに……。やっと…………帰って来たと思ったのに……。」
中原さんは泣き出してしまった。
「……ごめんなさい。」
何だか…………こっちが悪者みたい。娘を演じてあげるくらい…………いやダメだ。もし本当の娘がみつかったら、色々納得いかなくなる……。
「あの…………山下さん?」
「帰ろう。吉岡さん。」
私は吉岡さんを連れて部屋を出た。




