電話
目が覚めると、ちょうど、祐兄が携帯を持ったまま、うたた寝をしていた。祐兄に布団をかけて、落ちそうになった携帯を拝借して、携帯が使えるエリアに向かった。
ナースステーションに差し掛かる時に、看護師さん達が話をしているのが聞こえた。
「322号室の患者さん、自殺って聞いたけど、全然そんな感じに見えないよね~。」
「それ、本人記憶を無くしてるからじゃないの?何も覚えて無いんだって。」
何それ?確かに記憶はないけど…………
「あの、電話できる場所って…………」
「あ、それなら、あっちの待合室で。」
「ありがとうございます。」
記憶が無いから、はっきりした事は言えないけど…………自殺なんかしてないと思う。でも、実際に腕の傷があるという事実に、どう否定すればいいかわからなかった。
待合室で、聡に電話をかけた。
少し…………緊張した。
「はい。」
聡の声…………久しぶりに聞いた感じ。こんなに…………安心するなんて……。
「祐さん?どうかしたんですか?」
「聡……私、ミアだよ。」
「ミア?どうして……これ、祐さんの携帯……。」
私は、携帯を川に落とした事、自分も落ちた事を説明した。
「ごめん。ごめんミア……。」
どうして…………聡が謝るの?
「聡、ちゃんと話を聞いて。ちゃんと会って話がしたいの。」
「それは…………できない。もう……会えない。」
「どうして!?」
どうしてなの!?約束…………破ったらから?ゆたか君の家に行ったから?
「ごめん……。僕は……ミアが笑っていてくれれば、幸せだから。」
聡はそう言って、一方的に電話を切った。
聡、それ、意味不明なんだけど。
何が……何だか、全然わからない。目が覚めたら、別世界にいるようだよ。何があったんだろう?何があって、世界が変わったの?
泣くな……!泣いても何の解決にもならない。泣いても…………聡が目の前に現れる事は絶対にない……。




