長い1日
「泣かないでよ……。」
「泣いて無いもん。」
涙でゆたか君の顔は良く見えなかったけど…………もしかして、困ってる?
「あの、どうしたら……泣き止む?キス…………」
「殴らせろ。」
「いや、そうゆうのは無しで。」
じゃあ何で訊いたんだよ!
「じゃあさ、ゆたか君が痛い思いさせてきた女の数だけ技かけられようか?」
「え……まだいないけど?」
まだいない……?
「は?それって、ど……」
「ちょっと待った!その先は言わせねぇよ?」
あれ?それ、何だっけ?うーん、思い出せない……。
「悪いけど、初めてではないよ?」
「年上とか?」
「まぁ…………。」
何だか…………ゆたか君の反応がいつもと少し違っていた。だから、ツッコんで訊いてみた。
「どんな人?美人?」
「結構美人。」
「その人の事…………今でも好き?」
「…………。」
何故黙る?
「うん、よし、じゃあ、うつ伏せで寝てね~」
「おい!とにかく技かけようとすんのやめろよ!」
「いや、今の黙りはそう望んでるのかと…………聡は喜んでかけられるよ~?」
聡ならかけさせてくれるのに……。
「木本と……あの変態と一緒にすんな!!」
やっぱり…………。
ゆたか君は私の事が好きじゃない。きっと、私じゃない他の誰かを想っている。
「その人に言われたんだ。僕がもし、王子様になったら、お姫様になるって……。だから、誰かのお姫様を盗れば、王子様になれるかと思った。」
「その考えは甘くない?間違ってるよ。」
「わかってるよ!だけど…………」
わかってない。わかってないよ…………ゆたか君……。
「ゆたか君はわかってないよ。王子様になるには、お姫様が必要なんでしょ?だったら、その人にお姫様になって欲しいってちゃんと言ったの?」
どの口が言ってんだ?このやろ~!私が一番言えてないんだろ!?
「何度も言うけど、私はお姫様じゃない。私は王子様を望んでない。」
その後、ビニール袋に濡れた財布と家の鍵を入れて、ぶかぶかの服を借りて帰る事になった。
「やっぱり駅まで送るよ。」
「大丈夫。大きい通りに出たらタクシー捕まえるから。」
「そっか。じゃあ、気をつけて。」
私はゆたか君の家を出た。少し歩いて、振り返って言った。
「メリークリスマス!」
長い長い1日だった……。




