嘘
そして、学園祭当日。案の定というか、何というか…………聡には周りに女の子が群がっていて、全然一緒にいられなかった。
「花のブローチ、ミアの王子様に渡しに行った?」
「まだ~!」
ミスコンでお姫様と王子様を決める事になった。花のブローチが投票権になっていて、聡はブローチをつけられる為に囲まれて忙しそうだった。
「あーあ。男子からもつけられてる。大変だ。」
私が遠くから聡の様子を見ていると、愛理が言った。
「嫌われるのが怖いって、昨日言ってたけど、その前に、嘘や秘密は嫌われない?」
あ…………そっか…………。
「確かに……。」
「昨日、今日は一緒にいるって約束したんでしょ?」
そうなんだけど…………。
「どんなミアでも受け入れてくれるのが、ミアの王子様でしょ?まあ、変態ついてるけど。」
最後の一言余計じゃない?
「愛理みたいに、見る目が変わった。なんて言われたら怖いもん。」
「あれは冗談でしょ~!」
「だって、聡には、私のお兄ちゃんがお兄ちゃんとして欲しいから、付き合って欲しいって言われたんだもん。それがもし…………お兄ちゃん達と血が繋がってなかったとしたら…………?」
愛理はそんな訳ないと言ってくれた。だけど…………私の心の中のどこかには、まだ引きずってる事がある。
「私達、お互いに好きって言った事ないんだよね…………。」
「はぁ?!」
そりゃ愛理は驚くだろうけど……それマジそれな。
「付き合おうとは言われたけど、好きとか一度も言われた事ない。」
「何やってんだよ木本!」
聡から無理なら…………やっぱり、私から行くしかないか……。よし、頑張って聡の所へ行こう!
「でも、昨日の約束は果たさないとね!聡の所に、これから突撃して参ります!」
「健闘を祈る!」
そう言って愛理に見送られた。
しばらく行くと聡を見失った。その代わりに知ってる顔が横切った。
「あ!常連さん!」
私は常連さんに、もう一度話がしたくて…………追いかけた。その途中で田中に止められた。
「山下、王子の投票は?」
田中はミスコンの、投票集計係らしい。
私はとっさに田中に花のブローチを渡した。
「えーと、じゃ、これ。聡に!」
「は?直接渡さないのか?」
「私急いでるから、じゃ!」
ステージでは…………聡がたくさんの花のブローチをつけて、笑顔で立っていた。
「あの!待ってください!常連さん!」
ちょうど校門の所で常連さんを呼び止めると、常連さんは足を止めると、こっちを向いた。
「常連さん?」
「あ、ごめんなさい。名前、伺ってなくて…………ほら、夏休みのアイス屋の!」
「あー!ミアちゃん?」
あれ?常連さんに名前って言ったっけ?
「あの、前に…………聡の事挿し絵の王子様みたいって言いましたよね?それってどんな絵本ですか?タイトルは?」
「えっと…………何だったかな?ごめんなさい。ちょっと今すぐに思い出せないです。」
「じゃ、あの、思い出したら教えてもらってもいいですか?連絡先、交換してください!」
常連さんは少し戸惑っていた。そりゃそうだ。完全に怪しい高校生だ。
「じゃあ、私の名刺をどうぞ。」
「ありがとうございます。後で連絡しますね!」
「了解しました。じゃ、私はこれで。学園祭、楽しんでね。」
私はお礼を言って手を振った。
手を振っていると…………
「なんだ…………常連さん?」
後ろから聡が来た。体中に花がくっついていて、まるで歩く花瓶。
「あ、聡。自他共に認める王子様になったね~。おめでとう!」
「ありがとう。ミアから花、もらってないんだけど……」
あれ?ブローチどうしたっけ?
「あ…………ブローチ無くしたかも……。」
「どうして…………嘘ばっかり……。ミアは……僕の事嫌いになったの?」
「は?そんな訳ないじゃん。どうして?」
嘘なんてついてない……!待って?嘘つくつもりじゃ…………
「僕、見てたんだよ?花のブローチ、田中に渡してる所……。」
…………あ!あの時!急いでて…………やっちゃった!!
「あの…………ごめん。今、思い出した。そうだった。私急いでて…………その、田中でいいやってなっちゃって……。」
「田中でいいや?いいやって何?ミアが王子様、やめるのやめてって言うから僕王子様になったんだよ?!」
「だから…………王子様なんて望んでないよ!」
王子様じゃなくていい。ただ…………
「嘘だ。望んでるから、お姫様と王子様の絵本探してるんじゃないの?」
「それは…………」
「それは、また言えない?」
ただ…………本当は…………
「…………言えない。」
好きだと言いたかった。でも…………
言えなかった。




