じゃない
今朝、あんなに気に入っていたおニューのエナメルのパンプスが、いつの間にか…………見るも無残な傷だらけの靴になっていた。これじゃ、爪先合わせられない…………。
お店の外に出ると、タクシーを捕まえようと通りで待っていた、アケミさんの両親を見かけた。
挨拶しなきゃ……と思っていたら…………話声が聞こえてしまった。
「一人で四人育てるなんて…………」
「なりふり構わないって感じ
だな。うちの会社にもいるよ。いい年して必死で働くバツイチキャリアウーマン。」
「あなた、そんな言い方失礼よ。」
ママをそんな…………許せない。我慢だ…………隆兄の為にも、ここは我慢だ。
ママは…………こんな風に……会社で想像もつかない悪口言われて働いて来たのかな?ママは私を苦労して育ててくれた。それはわかってる。わかってるけど…………それなのに…………ママとは血が繋がってない?そんなのヤダよ……。
私はいつの間にか、木本家に足が向いていた。
「ミア?どうしたの?その格好?あ、今日顔合わせ?」
「…………うん。」
玄関で聡が出迎えてくれた。話したい事が沢山あった。何から話していいかわからない。でも、聡に会って…………何故か…………何も話せなかった。
…………わかった。
どうして、この前、何が納得いかなかったのか…………やっとわかった。
もし、私がメンヘラになったら…………聡は私の事を嫌いになる。
この先、自分に辛いことがあっても、私は…………聡にこうやって……何も話せない。あんな冷たい目で見られるくらいなら…………何も言わない方がマシだ。
私は笑顔で言った。
「うんん。何でもない。聡の顔見たら…………なんか安心した。」
「大丈夫?疲れた顔してる。」
「うん…………疲れたから…………帰るね。」
聡は…………やっと見つけた、片方の靴下じゃない?




