最後の日
今日は、とうとう最後のバイトの日。
何だか寂しいなぁ…………毎日のように顔を合わせていた店長とも、もう会えなくなるんだなぁ……。次は店長とミナさんの結婚式に呼んでもらおう。
「店長、今日までお世話になりました!」
「無事、最終日までご苦労様~!これでやっと、山下にぶっ殺されずに済むよ~いや~お疲れ様~!」
「ちょっと待ってください。隆兄の事知ってるんですか?」
店長、私の事元々知ってたんだ……。どうりで!やけに隆兄の許可がすんなり降りたと思ったら……。
「あれ?全然覚えてない?僕、小学生の時尖ってたから、山下兄妹がシスコンだってからかった事があるんだよ。」
少し覚えてる。確か、私がからかわれて泣いていたら、隆兄がボコボコにした子がいた。それが店長……?
「あの時、生まれて初めて恐怖を感じたなぁ……。」
そんな……小学生の時からマフィアみたいな…………
「その後、うちに謝りに来た時になんて言ったか知ってる?すっげー真顔で、『シスコンと言われようが、気持ち悪いと言われようが、妹を泣かす奴は誰だろうと絶対に許さない。』あいつ、あの頃から覚悟決まってるみたいな所あるよなぁ……。今でもシスコン?」
「そうですね。ミナさんじゃなくて、私に手ぇ出してたら…………ちょっと……血を見てたかもしれないですね……。」
「怖っ!今鳥肌立った!妹がその反応すると、リアルに怖いからやめよう?」
本当は、あの時の事謝りたかったって、後から店長は言った。
「あ、いらっしゃいませ~!」
常連さんとも…………こうして顔を合わせるのも今日で終わりなんだ……。
「いつものを。」
「はい。かしこまりました。」
私は最後のアイスに、トッピングにウエハースを追加した。
「はい、どうぞ。」
「あの、これいつもと違う……。」
「あ、私今日で最後なので、サービスしました。」
気に入ってもらえるといいけど……。
「え?最後なんですか……?」
「ウエハース嫌いでしたか?」
「いえ、好きです。ありがとう。」
常連さんはアイスを受けとると、訊いてきた。
「どうしてここ、辞めるんですか?」
「ああ、ここ自体が夏の間の期間限定の出店なんです。私も夏休みの間だけやるつもりだったので。」
そっか…………突然アイス屋なくなったら残念だよね。
「あの、こんな事訊いてもいいかどうかわからないけど…………あの、どうしてアルバイトを?」
ん?どうしてそんな事聞くんだろう?
「これ、まだ誰にも言ってないんですけど、一番上の兄が結婚しそうなんです。だから、結婚祝いに何かあげたくて。」
「そう…………。」
常連さんは納得いった顔をしていた。そこへ、聡が来た。
「あ、聡!いらっしゃいませ。」
「あら、彼氏さん?」
「こんにちは。」
聡は常連さんに挨拶した。
「どちら様?」
「こちら、毎日来てくれてた常連さん。」
常連さんは、聡を見て少し笑顔を見せて言った。
「どうも。…………絵本の挿し絵みたいな王子様ね。」
「あはははは!良かったね。王子様だって。」
「薄ら寒いから、嬉しくないなぁ……。」
『王子様とか薄ら寒い』と言った事、完全に根に持ってる……。
「だからごめんって!」
絵本の挿し絵かぁ…………そういえば、小さい頃、綺麗な挿し絵のお姫様と王子様に憧れたなぁ…………あの絵本どうしたっけ?帰ったら探してみよう。
「そういえば、二人で夏休みどこにも出かけてないよね?」
「そ、それってまさか…………で……で……で……」
もしかして、デートのお誘い?
「電車に乗りたいの?」
「ちがーう!いや、わかるよね?」
「え?デート、嬉しい?」
こんの……小悪魔~!
「じゃあ、隆兄の結婚祝い選ぶの付き合ってよ。」
「本当にお兄さん好きだね……。なんか、妬けてくるよ。」
いやいや、聡だって……。
「聡だってお姉さん達好きでしょ?」
「いや……大事には思ってるけど、別にそんなにだよ?」
おかしいかもしれないけど、やっぱりお兄ちゃん達と聡とは、まだ優先順位が違う。
「まぁ、下剋上が起こるかどうかは聡次第だね。」
あれ?常連さん、アイス残ってるのに…………帰っちゃったのかな?
テーブルには溶けかけのアイスと刺さったままのスプーンが置かれたままだった。




