花火大会
そしてとうとう花火大会の日になった。私は結局、雅兄と行く事になった。
「そっか……今年は聡君のお姉さんに着付けてもらうのか……。」
ママは少し寂しそうに言った。
「ママはお仕事で疲れてるでしょ?お休みの日くらいゆっくりしてて。」
ママはバリバリのキャリアウーマンで、今日は久しぶりのお休みだった。
「お土産買って来るね!」
「ヨーヨーとか金魚とかは嫌よ?」
「ママ、それはいつもお兄ちゃん達。それに、私もう子供じゃないんだからね?」
そりゃ子供の時は、お兄ちゃん達とお祭りへ行くと、必ずママへのお土産を持ち帰った。ヨーヨーとか、すぐ死ぬ金魚とか、今は大きくなってる亀とか…………昔は生き物を持ち込むな!と何度もママは怒っていた。懐かしい……。
「ミア、そろそろ聡ん家に行かなくていいのか?」
「やっぱり…………着付けてもらうの止めようかな…………?」
「はぁ?急にどうした?」
正直、聡に会いたくない……。
「あ、そろそろ聡が来るから、待ってんだろ?」
家に来る?花火大会に行かないで、家に来るの?だから祐兄はお留守番なんだ……。
「行って来ます!」
私は慌てて家を出た。
慌てて家を出たのに…………途中の道で、聡と鉢合わせした。
「ミア…………。」
「聡……家に行くんだよね?ごゆっくり。私は今から聡の家行く所。じゃ!」
「待ってよ!」
聡に引き止められた。
「あの……怒ってる?」
「怒ってないけど……?」
そう言って、私はその場から走り去った。
怒ってる?って…………どうして聞くの?怒ってるように見える?
私は着付けてもらう間に、ミナさんに訊いた。
「私、久しぶり会ったら、怒ってるように見えます?」
「はぁ?全然見えないけど?」
「ですよね……。」
ミナさんの浴衣姿、色っぽいなぁ……これ、店長が見たら絶対落ちるな。いや、既にもう落ちてるか。
「まぁ、聡もミアの浴衣姿見ればイチコロでしょうね~!」
「見れば…………ですよね…………?」
私が凹んで下を向くと、ミナさんは驚いた。
「え…………?まさか、聡と一緒に行かないとか言わないよね?」
ミナさん…………そのまさかです。今日の花火大会、聡に誘ってもないし、誘われてもないです。
「さっき、家を出る時に会って、怒ってるか訊かれたんです。それだけです……。………私って何なんでしょうね?」
好きとも言われず、久しぶりに会ったら怒ってる?って訊かれる。怒ってたら技かけられるとでも思ってんの?
彼氏のお姉さんに愚痴るって…………やっちゃいけない気がする。でも…………何だか不安な気持ちでいっぱいで……たまらなくなった。
「こんばんは~!」
そこへ、雅兄が迎えにやって来た。
「まぁ、聡とは今度ゆっくり話すとして、今日は兄妹で行ってくれば?あ、ついでにナミも連れて行ってよ。あの子出不精だから。」
ちょうどホナちゃんが玄関を出る所で、雅兄にナンパされていた。
「雅兄、ホナちゃん彼氏持ちだから。」
「あ、そうなの?」
「ごめんね。ホナちゃん、雅兄は輸血した時にイタリア人の血が入ったんだと思うの。」
「ミア、輸血しても性格変わらないって。」
私の冗談を豪快にスルーして、ホナちゃんが出かけて行った。
すると雅兄は、今度は大声で叫んだ。
「じゃ、菜々美は?菜々美~!先輩のジャージの匂いをかぐ、変態菜々美~!」
「ぎぃやぁああああ~~~~!誰だ悪しき記憶を掘り返す輩は!?やっぱりお前か!雅也!!」
ナミさんは凄い勢いで部屋から出て来た。
「お、浴衣いーじゃん!変態だけどブスではないよな~!」
「雅兄、ナミさんに失礼!ミナさんも一緒に行きませんか~?せっかく綺麗な浴衣姿なんですから~!」
「そぉ?じゃ、ご一緒しようかな~?」
ミナさんが玄関へ来ると、雅兄はあまりの綺麗さに固まっていた。
「ミナさんの美しさが雅兄のキャパ越えたみたいですね。」
「私と全然態度違う!マジで失礼な奴!」
そんなこんなで、花火大会の会場に着くと、とてつもない人の多さだった。
「ミア、はぐれるなよ?」
「あんた本当にシスコンだね。」
「はぐれたなんて隆兄に知られたら、フルボッコだぞ?中間管理職なめんな?」
そんな大勢の人の中に…………聡?まさか……。そんなわけないよね……。聡は祐兄と家に…………
「おー!偶然だな!」
祐兄!?じゃあ…………じゃあ…………本当に聡だ……。しかも浴衣姿……。ヤバい…………マトモに見られない。でも見たい……。
「誰?お兄さん?」
ナミさんが祐兄を見て言った。
「はじめまして、ミアの兄の山下祐也です。ミアがいつもお世話になってます。」
「はじめまして。聡の姉の木本美波です。こちらこそ。聡がお世話になってます。」
意外だった。いつもプラプラしてる祐兄がちゃんと挨拶してる。
こうして、木本家の3人と、山下家の3人で、花火の見える場所に向かった。




