どうかしてる
放課後、ゆたか君に呼ばれて廊下へ行くと
「ミアちゃん、一緒に帰ろうよ!」
そう言われた。
え?何で?あ…………付き合ってるからか!うーん……。今日は愛理と帰りたいな~。
「あ、ゆたか君。ごめん、今日遅刻したから今から、中庭掃除なんだ~」
「そっか、手伝うよ。」
「いーよ。悪いから。」
それを見ていた木本君が言った。
「僕1人でやるから先に帰っていいよ。」
木本ぉ~!いらん気を使うな!
「いーよ。悪いから。」
「じゃあ、僕友達とバスケやってるから終わったら呼んで。」
そう言ってゆたか君は爽やかに去って行った。
そして、中庭の掃除を始めたら、急に不安に襲われた。
「……どうしよう!どうしてくれるの木本君!…………どうしよう!どうしたらいい?」
「何が?」
「ゆたか君と一緒に帰ったら、何話していいかわからない!」
男子に何喋ればいいんだ?
「相手に合わせればいいんじゃない?」
「何か…………何か忍法でどうにかならない?」
「どうしてそうゆう発想になる?」
なるよ!!現実逃避だもん!!
「一緒に帰らなくていい方法は何かないかなぁ……忍法……」
「忍法?普通に断ればいいのでは?」
どう断るのが正解なの?それがわからないから悩んでんだろぉ~!?
「角が立たない方法で!そうだ!水の中で細い筒で息するとか!もしくは大きな凧に乗って脱出するとか!木本君できる?」
「できない。それ、角は立たないかもしれないけど、変な噂は立つと思うけど……」
「はぁ?この一大事に何うまいこと言ってんの?」
そう話していると、体育館から歓声があがった。
すると、愛理が体育館から出て、こっちに走ってやって来た。
「ミア!彼氏がバスケやってるよ?見に行こう!女子がキャーキャー言ってるよ!」
「え?まだ掃除かかるし。」
「そんな事やってる場合じゃないでしょ?」
そ、そんな事!?それはそうだけど…………
「何故に?あんなに応援してる人いるのに?何も私が応援しなくても……。」
「彼女が彼氏の応援するのは当然でしょ?」
「あ~まぁ、当然かもしれないけど……。」
あの女子の中で応援って……どんだけ勇気のいる事だよ……。
「彼氏が女子にキャーキャー言われてるって事は、ライバルが多いって事だよ?ゆるたか、高校デビューしてリア充みたいだし。」
「だからって、みんなあんなにキャーキャー言うのはどうかしてるよ……。」
私が掃除に戻ろうとすると、愛理がホウキを取り上げて言った。
「あんたねぇ!ミア、どうかしてるのはあんたの方!どうかしてなきゃ人は恋には落ちないの!」
「え…………!!そ、そうなの!?」
「何?その衝撃的な反応?」
どうかしてるって…………
「え……それって、3のつく数字と3の倍数どうにかなるやつ?」
「それはアホになるやつね。」
「熱々鍋の……」
「しつこい!今それ関係ないから!」
追い詰められた!ドS愛理様に!!
「あの……道具片付けたら終わりだから、僕片付けておくから……行っていいよ。」
木本君がそう言って愛理からホウキをもらおうとすると、愛理が木本君に気がついた。
「?あんた、木本……?え?マジ?あの木本聡?」
「あ、あのね、愛理、木本君は高校でアサシンデビューしたの。だから隠密に…………」
「アサシンデビューって何?」
私は愛理に木本君の事を軽く説明した。
「なるほどねぇ……ゆるたかとはまた別の高校デビューか。まぁ、中学のあの追われ方は酷かったしね。トラウマになるのもわかる。」
「そうだよね~!見てるこっちがガクブルだったよね~!おーよしよし、影の世界で自由に生きるんだぞ。」
「え?僕、野生に帰されたの?」
結局三人で掃除用具入れにホウキを返しに行った。
「こらこらミア、もう高校生なんだから、中2病はやめなさい。」
「え~?お兄ちゃん達は今でもこんな感じだよ~?」
「ミアの兄貴達がイカれてんだよ。」
私にはお兄ちゃんが三人いる。
「お兄ちゃん達だったら…………シャドーサイドでお前の生き様を見せてみろ!ぐらい言うかな~!」
「ホント……どうかしてる。は!!違うからね!!そのどうかしてるは違うからね?中2病のどうかしてると、恋のどうかしてるは違うからね!?」
「え…………!!違うの!?」
愛理は私に焦って説明しようとした。すると、それを聞いていた木本君が、ボソッと一言言った。
「それ…………違うの?」
「え……?」
「何らかのエフェクトのフィルターかかってる意味では……同じじゃない?どっちも正気じゃない……。」
木本君は怖い顔をしていた。私と、愛理はその顔を見て少し固まってしまった。
「あんた……あんたもイカれてんの?」
「忍びが喋った……。」
「忍びじゃないから。普通に喋るよ。」
恋と……中2病……同じ?いや、全然違うでしょ?それって…………恋でもそうじゃなくても、木本君にとっては違いはなくて……どうかしてる人間全般……嫌いだって言ってるように聞こえた。
木本君……中学で相当嫌な事があったんだね……可哀想に……。