隆兄の幸せ
次の日、2泊3日の旅行から隆兄が帰って来た。
隆兄はすぐに私の部屋に来た。
「ミア!どうした?どこか具合悪いのか?」
お~!さすが隆兄。私の顔を見ただけでそれがわかるなんて……シスコンの鑑だね。妊娠妊娠、うるさい祐兄とは違う。女の話ばっかりしてる雅兄とは違う。
「青白い顔して……ちゃんと食べたか?」
「気持ち悪くて……あんまり食べられない……。」
すると、隆兄は急に立ち上がって言った。
「ミアが痩せる……今から病院行くぞ!」
「隆兄、祐兄と病院行ったから。それより、このままここにいて。祐兄も雅兄も女の所行っちゃって、側にいてくれないんだもん。」
まぁ、祐兄の女はゲームキャラだけど……。雅兄は遠足で知り合ったクラスメイトとデート……。どっちも正直、複雑な気分……。
「じゃあ、ミアが寝るまでここにいる。」
良かった……。隆兄がいてくれる。これでもう安心だ。
「ねぇ、旅行……どうだった?」
「もう寝ろ。」
隆兄は私に布団をかけて言った。
「どうだったか聞かないと寝れないよ~!」
「あぁ…………まぁ……。」
まぁって何?まぁって!
「プロポーズした?」
「…………した。」
「返事は!?返事!!」
私は思わず起き上がって、隆兄に訊いた。隆兄は私のベッドに腰掛けて、後ろを向いたまま、黙って腕で大きな丸を作った。
「やったぁ!!良かった~!良かったね!隆兄!」
思わずベッドの上で飛んで喜んだ。
「うわぁ……まだキツイ。」
はしゃぎすぎて疲れて、そのままベッドに横になった。
「大丈夫か?ミア!」
「大丈夫。ちょっとテンションあがってフラついただけ。」
隆兄はまた私に布団をかけ直してくれた。
「隆兄…………あのね、彼氏……。」
「彼氏……?」
「私、フラれちゃったの。あ、違うか。フったのかな?いや、違う……逃げた?」
隆兄はあきらかに、ほっとしていた。
「何だ?紹介されると思って覚悟してたのに……もう別れたのか?」
私は布団の端を握って、隆兄に少しずつ説明した。
「あのね……上手く行かなかった。でも…………本当は、誰も傷つけたくなかった。」
多分、傷ついたのは私だけじゃない。きっと……ゆたか君も傷ついた。そして…………傷ついた木本君のあの時の顔が、今でも忘れられない……。
「誰も…………傷つかなければいいのに……。」
「ミア、それは…………無理だ。」
隆兄が、相変わらずの真面目な顔で言った。
「誰かの幸せは、誰かの不幸の上にある。だから……今ある幸せに感謝して、最善を尽くさなければいけないと思う。」
相変わらず硬いなぁ……。
正直、隆兄とこんな話ができるとは思ってなかった。きっとそれは……アケミさんのおかげ。隆兄はアケミさんと出会えて、重度のシスコンから、普通の恋する男になれた。
「実は…………アケミは、親友の好きな人だった。親友の好きな人を好きになるなんてありえない。……そう思っていた。でも……」
「好きになっちゃったんだね。その親友とは?」
「……連絡が取れなくなった。」
そうなんだ……。
「それは……寂しいね。親友の傷が早く癒えて、また会えるといいね。」
「そうだな……。」
そう隆兄がそう言うと、少し安心したのか、うとうとしてきた。
「何だか、自分だけ上手くいってて……」
「申し訳ないとかいって遠慮して、アケミさんとの関係が微妙になったら……私、隆兄と口きかな~い。」
「なっ!それはない。それは困る!」
それ、どっちが困るの……?
隆兄がいつも通りで……安心した。私、嬉しいよ。寂しかったけど、隆兄の幸せに、少し癒された。




