デパートへ
昼休みに、愛理がふと中学の時の事を思い出して言った。
「そういえばさ、中学の時に誉めまくり八方美人作戦、あれ、どうなったの?誰か引っかかんなかった?」
「愛理……引っかかるって……私をまるで毒蜘蛛のような言い草。」
「蜘蛛の方がマシ!もっとマシにハンティングしなよ!」
ハンティングって…………狩りじゃん!狩りが苦手で、狩りをしない民族もいるのだよ!!
「あの作戦……あれね、ただのいい人になっただけだった。」
中学の時に、雑誌の『モテる女子は誉め上手!』というありきたりな記事を呼んで、手当たり次第に誉めまくった。そして、結果的に反感を買った。結局、うわべだけのいい人は、本当のいい人じゃない。
「ここに山下心愛さんがいるって聞いたんだけど…………」
「あ、私ですけど?」
見知らぬ男子に廊下に呼ばれた。…………誰?
「ミアちゃん、久しぶり。あの、約束通り、僕と付き合ってもらえますか?」
「…………は?」
約束?そんなのした?ってか誰?
「ほら、僕、中学の時太ってて……吉村豊です。」
「ゆたか君?」
「中学の時、痩せたら付き合ってくれるって約束したよね?」
「え…………」
お、覚えてねぇ~!
私は急いで愛理に報告しに行った!すると、愛理はゆたか君の事を思い出した。
「あー!ゆるたかね!」
「ゆるたか……!」
そういえば、ゆたか君、中学の時はゆるキャラみたいなフォルムで、よくゆるたかって呼ばれてたっけ……。
「そういえば、ミア、中学の時ゆるたかの事よく誉めてたよね?それでか!良かったじゃん!八方美人作戦に引っかかってた奴がいて!」
「良かったの?」
何だか私は納得いかない……。
「ミア、告白されたんだよ?」
何だか愛理の方が楽しそう。
「これでやっとミアの彼氏いない歴に終止符が打たれる!」
「それ聞くと良かった気がして来たよ。でも、ゆたか君の事別に好きじゃないよ?」
「好きじゃなくても、付き合えば好きになることもあるの。」
「そうゆうもの?」
「そうゆうもの!いい?ミアは何か特別な品が欲しいと思ってるけど、お店にすら行ってない状態。ゆるたかと付き合うのは、デパートに入ってみるようなもの。」
…………デパート?
「どんな物が売ってるのか、その中の何が欲しくて、何がいらないのか、今は全然わからない状態。まずはお店を見てみないと、特別な品はみつからないよ?」
「うーん。その例え、解りやすいような解りづらいような……。」
とにかく経験を積めって事なのかな?
「いざ!ゆるたかデパートへ!」
「いや、とりあえず、ゆたか君の事ゆるたかやめよう?もう太ってないし。」
「お、もう彼女ヅラ~?その調子だよ、ミア!恋人は一日にしてならず。」
愛理…………何なの?その一見、名言のように思える薄っぺらい応援……。




