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幻想

「送ってくれてありがとうね。別にまだ5時だからいいのに。」

「ミナちゃん達が送って行けって……。」

夏に向けて日が長くなってきたから、5時なんて全然明るい。


「あの…………」

「何?」

私はすぐに足を止めた。


「あ、練習、付き合ってくれて、ありがとうね。」

「うん…………あのさ…………」

「何?」

また歩き出そうとすると、また話しかけられた。

「ごめんね。帰り、1人で怖いよね?お兄ちゃんに送ってもらえるように聞いてみるね。」

「まだ5時だから大丈夫だよ。それより…………」

「ん?」

「…………何でもない……。」


木本君は何を言いたかったんだろう?そう話をしていると、とうとう、マンションの前まで来てしまった……。


「もう着いちゃった……。昨日、家、狭かったよね?ごめんね。デカイのばっかりで……。はぁ……。」

私がため息をついていると、木本君が言った。

「ミア、あれやろうよ。」

「?あれって?」

「両足揃えて、何とかってやつ。」


あ…………おまじない。木本君、覚えててくれたんだ。

「ああ!そうだ!うん、やろう!よし、願掛けして頑張る!」

マンションの前で、木本君と二人並んで言った。

「姿勢を正して、両足揃えて。」

「上手く話ができますように。」

「よし、スタート!」

そして、家のドアの前まで進んだ。


「お願い!!もう少し!!もう少しいて!!中でお茶して行って!」

やっぱり1人で入る勇気が出なくて木本君の後ろに隠れてリビングまで行った。


1日いなかっただけなのに、凄く……久しぶりな気がした。


そこへ、電話をしながら隆兄がやってきた。

「じゃあ、妹が帰って来た。切るぞ。」


何となく……いつもの隆兄と違う。電話の相手、誰?

「電話の相手、誰?」

「アケミ。」

「はぁ?アケミって誰?」

ちょ、ちょっと待って!隆兄から……あの、隆兄から女の名前が!!


「…………付き合ってる奴だが?」

付き合ってる奴って彼女?彼女だよね?!

「彼女ぉ!?」

「安心しろミア、ミアを嫁に出すまでは結婚しない。アケミも了承してくれた。」

いやいやいや!どんだけ理解のある彼女だよ!


「いや、さっさと結婚しろ。もう今すぐ!今すぐ結婚して!」

「でも、ミアが…………」

「じゃあ…………私、木本君と結婚します!」

私は木本君を引っ張り出して言った。

「はぁ?」

「聡!お前…………」

隆兄に火がついた。


「あー!ちょっと待って!隆兄!!祐兄~!雅兄~!助けて!!」

私の声を聞き付けた二人が、リビングにやってきた。

「落ち着け隆兄!」

「まずはみんな座ろう。な?」


とりあえず、みんなそれぞれソファーに座った。兄弟三人は大きいソファーに。木本君は1人かけの椅子に。私は床に正座させられた。

「なぁ、それって聡の意見は?」

「聡の意思は無視だろ?」

「私、木本君のお姉さんがお姉さんに欲しい。だから木本君と結婚したい!」

「いや、それおかしいだろ?」


私は木本君の方を見て訊いてみた。

「木本君……ダメ?」

木本君が答える前に、雅兄が言った。

「いや、ダメだろ。そもそも高校生だし。」

「とりあえず、聡の意見を聞かせてくれ。でないと安心できない。」

隆兄はずっと木本君を睨んでいた。みんなは木本君の方を見て、その答えを待った。


「…………ダメだよ……。結婚は本当に好きな人とじゃなきゃ……。」

「そっか…………。そうだよね。まぁ、木本君と私じゃ釣り合わないよね……。」

そりゃそうだ。この状況ではい結婚します!とはならないよね……。


「ミアは中の下だからな~!」

「そうそう!ってコラ!祐兄!そこは話の流れ的に、もっと盛ってよ!!」


祐兄がフラれた私をいじり始めた。

「中の中だからな~!」

「微妙に上がった!ちょっとだけ上がっても嬉しくない!!」

「じゃあ、ミアが上ってか?バカじゃね?そんな幻想抱く奴がいるかよ!」


すると、突然、木本君が大きな声で言った。

「うるさい!!中の下じゃない!中の中でもない!!幻想抱いちゃ悪いかよ!!」


ん…………?今の…………どうゆう意味?


木本君はそう言うと、すぐに家から出て行ってしまった。私は追いかけて、マンションの下で木本君に追い付いた。

「待って!木本君!ちょっと待って!」

木本君は足を止めた。でも、こっちを向かなかった。


「あの!…………さっきはごめんね。なんか、うちはいつもああゆう感じで…………」

木本君は女姉弟の家庭だから、女の子をいじるとかいじめてるように見えて不愉快だったかな?


「気持ちわかるよ?私も毎日男の現実見てるせいか、どこか幻想抱いてる所あるし。王子様?とまでは言わないけど…………どこかに、私を受け入れてくる人がいる!とか思ってるんだよね……あは……あははははは!」

「帰るよ……。」

「うん……今日はありがとう!帰り気をつけてね!!」


木本君は一度もこっちを向く事なく…………帰って行った。



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