木本君の部屋
真っ直ぐ続く階段を登って、私は木本君の部屋のドアをノックした。重い重い、鉄のようにも思えるドアが少し空いた。
「え?山下さん?」
「あの……少し話いいかな?」
やっぱり木本君は辺りを気にして、私を中に入れた。忍者は家でも用心するものなの?
木本君の部屋はモノトーンのシンプルな部屋だった。何だか部屋も忍者みたいな色~!軍ヲタの隆兄の部屋とも、アニメのポスターとフィギュアのひしめく祐兄と雅兄の部屋とは違うなぁ……隠してるのかな?
「あの、あんまり見ないでもらっていいかな?」
私が木本君の部屋を眺めていると、木本君が言った。
「あ!ごめん。いや、ごめんなさい!!謝りに来たのに、なんかお茶いただいて和んじゃって……ごめんね。昨日…………言い過ぎたよね。せっかくお土産に買ったメンチカツサンドもらったのに……あんな事…………」
「…………わざと。忍法とか言ってバカにしてるから……わざと嫌われようと思って……」
「バカになんてしてないよ!そう思わせたなら…………謝るよ。ごめんなさい。」
私は頭を下げながら、ゆたか君の言葉を思い出した。
『そうやって……またバカにするんだろ?』
バカになんかしてない!してないよ…………!!そんなつもりじゃない!!私は、泣きそうで息が詰まりそうだった。
「…………そこまでして、人と関わりたくないんだ。じゃあ……木本君の思い通りに、嫌いになるね。そうすればいいんだよね?」
自分で言ってて…………悲しかった。胸が苦しかった。こんな風に……友達を失うなんて……辛すぎる。
「お邪魔しました。」
私は木本君の部屋を出て下に降りようとした。
「山下さん、待って!」
後ろから、突然腕を捕まれて、驚いた拍子に、階段を踏み外した。
「うわぁ!!」
私と木本君は芋づる式に階段から落ちた。ドタドタと音を立てて階段から落ちた。
痛…………くない?気がつくと……私は木本君の上に乗っていた。
「痛っ……。」
木本君……頭打った!?
「木本君!大丈夫!?わかる?私の事わかる?」
「どうしたの?」
木本君のお姉さんと隆兄が階段に駆けつけて来てくれた。
「忘れた……。」
え?忘れたって…………まさか!お約束の記憶喪失!?木本君は体を起こして腰をさすりながら言った。
「もう…………人と関わりたく無いって気持ち…………忘れたから。」
それって…………
「じゃあ……私、嫌いにならなくてもいい?」
「…………うん。」
じゃあ…………友達、なってもいいのかな?
「じゃあ…………師匠って呼んで……」
「それはダメ。」
ダメなんか~い!
「…………サトル。ミア、サトルって呼んでよ。」
私は木本君に抱きついた。
「聡~!ありがとう!」




