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 -13『どんどん広がる死人の山です』

「うおおおおおお!」


 野太い声が地を鳴らし、激しい砂埃と共に何人もの屈強な男たちが詰め寄せてきた。男たちは自前の剣や斧を掲げると、死人兵たちを勢いよく蹴散らしていく。


「なによあれ?!」と驚くガイセリスに、ユーなんとかは胸を張って答えた。


「こんなこともあろうかと、近隣の傭兵ギルドから俺様が誘っておいたんだぜ」


 不揃いの甲冑や武器を身に着けた男たち。

 彼らは勢いづくままに死人兵たちへと切りかかる。


 その数は二十を超えているほどだろうか。

 これだけの数を集めていたとは、ユーなんとかもなかなか用意がいい。ここは素直に褒めるべきだろう。


 これならば町中の安全も多少は確保できる。

 騎士団が抜けた穴を埋めるくらいは可能だろう。


「助かったわ」と珍しくエイミが素直に褒めた。


 それに余程感激したのか、ユーなんとかは僅かに瞳を潤ませながら悦にいたる顔を浮かべていた。


「ご褒美に、なにか言ってくれたら応えてあげるわ」

「ほ、本当なんだぜ?!」


 ユーなんとかの息が途端に荒くあり、肩が激しく上下する。そして鼻を赤くして大きく深呼吸をすると、


「じゃ、じゃあキスで」と真顔で言った。


「わかったわ」

「――ええっ?!」


 ユー何とかではなく、ボクが驚きの声を出してしまう。

 まさか本当に――と思った矢先、エイミは不敵に笑む。


「ガイセリス、お願い」

「任せてぇ」


 ガイセリスがユーなんとかにがっちりと抱きつき、唇を突きたて、ぎゅううううと体を引き寄せた。


 分厚い唇が重なり、呻きの声が漏れる。

 十秒ほどの濃厚な時間が過ぎ、ようやくユーなんとかは解放された。


「ふうっ。イケメン、ご馳走様」

「……あ……ああ」


  熱烈な接吻を受けたユーなんとかは放心した様子で、


「…………これが、男の味ッ!」


 稲妻に打たれたかのようにその場に倒れこんでいた。


  ◇


 町の方を傭兵たちと騎士団の残りの部隊に任せ、ボクたちはガイセリスと共に王城のある膝元へと向かった。


 二つの峰の間に広がる中州のような扇状の立地に建てられたその城は、入り口の門を通らなければ敷地にすら入れないほどの険しさを持っている。


 堅牢に作られた巨大な城門の前にたどり着いたボクたちは、そこに佇む人影に気付いた。


「ワドルド!」


 エイミの声に、人影――ワドルドが振り返る。

 彼の足元には門兵の死体がいくつも転がっている。


 ボクたちに気づいた彼は、目を丸くして驚いた風に答えた。


「へえ、意外と来るのが早かったじゃんか」

「アタシたちを見くびらないでほしいわねぇ」

「国家騎士団の連中か。まったく、町の外に遠ざけてたはずなんだけどな」


 やはりワドルドの計画的な犯行か。


「ヴリューセンやドールゼの件も、貴方が関係しているのかしらぁ」

「さあ、どうだろうな」


 適当にワドルドははぐらかすが、浮かべた余裕の笑みが如実に物語っている。


「ワドルド、どこに行くつもりなの」

「なんだ、エミーネ。俺と一緒に来るつもりになったのか?」

「冗談を言わないで」

「ったく。お前はいつもお堅い真面目ちゃんだもんな」


 ワドルドの嘲笑いに、エイミは鋭く睨み返す。


「ふざけて話を逸らさないでくれるかしら。どうした貴方が今ここにいて、何をしようとしているのかを訊いているのよ」

「それを、今更俺に訊く必要あるか?」


 ワドルドが、ボクたちの傍に控えたガイセリスたちを一瞥する。

 彼らの目はすっかりワドルドを捉えている。明確な敵意を剥き出しにして。


 もはやここにいる誰もが、彼をただの通りすがりの商人とは捉えていない。


 ワドルドの足元に倒れる門兵たちの裂傷。

 おそらく剣か、ナイフか。しかし見たところ丸腰というのは奇妙だ。


 つまり、魔法か。


 門の向こうへ行こうとしたワドルドをガイセリスが引き止める。


「ワドルド・ゲテルディ。アタシは国家騎士団の団長、ガイセリスよ」

「知ってるよ、オカマさん」


「知ってて言っているわ。私の仕事は国家に背く者を裁き、国と民を守ること。貴方の行いは決して看過できるものではないわ」

「へえ。だったら、どうするんだ?」


 体を背け、視線だけをこちらに向けて余裕ぶるワドルド。


 しかし周囲には彼一人しかいない。

 それに反し、ボクたちは数でずっと勝っている。

 相当な手練れでもこの差を埋めるのは難しいだろう。


「大人しく投降なさい。そうしたら悪いようには――」


 そうガイセリスが告げる中、ワドルドは口角を持ち上げてその場にしゃがみ込んだ。


「しまった!」と気づいたのはエイミだった。


 途端、彼を中心に魔法陣が描かれ、足元を紫色の光で照らした。

 ワドルドの足元に転がっていた、死んだはずの門兵たちの体がおもむろに立ち上がり始める。


 ――死霊魔術。


 それもほぼ詠唱もなく、広範囲のものだ。


 彼を取り巻く複数の死体たちは、瞬く間に立ち並び、ワドルドの姿を隠した。


「それじゃ、俺は急ぐから。ごゆっくり」


 そうふざけた調子でワドルドは言うと、門の向こうへと消えていったのだった。


 残された新たな死人兵たちを前に、ガイセリスたちは剣を抜く。ミレーナも杖を構え、パーシェルは槍を取り出した。


「あの子は止めなければいけない。気分のいいものではないけれど、やるしかないわね」


 苦虫を噛むようなガイセリスの声を皮切りに、一斉に死人兵へと襲い掛かった。


 ミレーナが火球魔法を飛ばして奴らを怯ませる。


「オラァ!」と力強いガイセリスの剣が彼らの死肉を切り裂いた。


 パーシェルや他の騎士団兵たちもそれに続き、複数いた死人兵たちはあっという間に薙ぎ倒される。


 しかし一息ついた頃には、また門の向こうから新しい死人兵が顔を出してきた。彼らは兵士の格好だったり、給仕服だったり、庭師などの雑多な服装をしている者もいる。


「まさか、城中の人間を死人兵にするつもり?」


 ガイセリスの強張った声は、まさにその通りなのだろうと誰もが直感した。事実、門の向こうからは、城内の兵士たちだった思われる死人がゾクゾクと姿を現している。


「これは一刻の猶予もないかもしれないわね」


 ガイセリスがまた彼らを薙ぎ倒して、新しい死人兵がまた立ち塞がり、道を塞いでくる。おまけに、城門だけでなく、町の方からも死人兵が集まってきていた。


「こ、これじゃあキリがありませんですよ」

「虫のようにわらわら湧いてくるのじゃ!」

「不死身さんですかー?! って、死んでるんですっけ」


 リリオやミレーナ、パーシェルも、ひっきりなしにやって来る死人兵に足を止められている。一人を倒してもすぐに次。これでは本当に堂々巡りだ。


 ――ボクも一緒に戦えたら。


 そう焦るボクの気持ちを、エイミが繋いだ手を強く握ってくれることで落ち着かせてくれた。


「坊やたち!」


 ガイセリスが叫ぶ。


「ここはアタシたちが引き受けるわ。この門を塞げば、少なくとも町側からは来なくなる。貴方たちはこのまま門を通って、その先へと進みなさい」

「でも……」


 ボクたちよりも騎士団が行ったほうが、と続けようとしたボクに、ガイセリスは余裕を作って笑みを浮かべる。


「大丈夫。貴方たちがただの流れ者だとは思っていないもの。ランドでも、ボードでも、貴方たちの実力は十分にわかっているわ。それに――」


 強がったようなウインク。


「貴方たちは彼と因縁があるのでしょう」


 向けられた彼の優しさに、エイミはきりっと顔を引き締める。


「わかったわ。ガイセリス団長、気をつけて」

「任せな――そぁい!」


 勢いよく振り抜かれたガイセリスの剣に、門の前を塞いでいた死人兵たちがまとめて吹き飛ぶ。まだ動きを止めない彼らが立ち上がる前に、ボクとエイミは、リリオたちを連れて門の中へと突入した。


 目指すは城の奥、ワドルドが向かう先。


 おそらく、玉座。


 ――ボクは、彼を止めるためにあの森からここに来たんだ。


 本能がそう理解する。


 容赦なく死霊魔術を使い、人々の命を奪うワドルドが善人であるはずがない。もし彼が、国王のいる玉座にまでたどり着いてしまったら。この国は、統べる者を失い、本当に壊れてしまう。


 そうならないために。

 全力で、城の最奥へと走りぬけていった。


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