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 -4 『さすがに責任を感じました』

「あなたの力、便利ね」


 部屋に入って荷物を置いたボクたちは、手を繋いだまま一息ついていた。


「うーん。あんまり嬉しくない」

「勝手に使ったのは悪かったわよ。その使い道も。でもすっきりしたわ」


 ひどい暴虐ぶりだ。とは思ったけれど、きっとあのヤンチャ男がボクにまで言及しなければ、エイミは手を出すつもりもなかったのだろう。


 そういう子なのだと、短い付き合いながらもなんとなく感じ取れた。


 だから悪い気はしなかった。

 ボクのために怒ってくれるなんて初めてだ。


 けれど、初めての割りに、頭の中に僅かな懐かしさを感じた。

 エイミの物腰が落ち着いたものだからだろうか。母親と接しているように安心できるのかもしれない。


「ありがとう。エイミ」

「なによいきなり」

「いや、その。さっきの」


「何言ってるのかしら。私は私のためにあいつらを成敗したのよ。気を晴らすためにね」

「え」

「だってむかついたんだもの」

「はは……まあ、ボクもだけどさ」


 きっと照れ隠しなのだろうと、そう思っておくことにした。


 さてさて部屋で二人きりだ。

 手を繋いでベッドに腰掛けている。


 隣には可愛い女の子。

 近いせいか、ほんのり良い香りが漂ってくる。


 狭い密室。


 初めて女の子に触れて一日も経っていないボクには、まだ慣れるには早そうだ。


 イヤにも心臓がドキドキしてしまう。

 ああ、これはやばい。ぜったいやばい。


 緊張で、汗が――。


「ねえ」


 きた。まただ!


「ご、ごめん。また手汗が……」


 慌てて汗を拭おうとする。

 しかしエイミは、まったく関係ない方向を眺めながら静かに耳を済ませていた。


「何か騒がしいわね。下からかしら」

「え、そう?」


 いまひとつわからなくて、ボクはきょとんとした顔で首をかしげた。

 その異変に気づくことになったのは、それから十分も経たないうちだった。


「たいへんだー!」


 急に部屋の扉が開いたかと思うと、受付にいた獣人の店員が駆け入ってきた。


 何事かと二人して身を構える。

 息を切らせた獣人の彼は、肩を大きく上下させながら言った。


「さっき急にうちの料理人が倒れたんだ。病気でも何でもねえのに。それで晩飯の用意をできなくなっちまったんだよ」


「「……あ」」


 聞いた途端、二人で声をそろえてそう漏らしてしまった。


「ね、ねえ。その料理人さん、どこにいたのかしら?」

「え? 地下の厨房だよ」

「それってどのあたりにあるの?」

「どこって。この部屋と受付の間にある廊下の真下あたりだが」


「「……あ」」


 また二人の声が重なる。


「すまねえ、お客さん。宿代に晩飯の料金も入ってるってのに、ちょっとこれじゃあ用意もできそうにねえんだ。いくらか払い戻すから、それで勘弁してやくれねえかい」


 丁寧に頭を下げてくる獣人に、ボクとエイミはお互いの顔を見やる。二人とも、表情が引きつったように不気味になっていた。


 当然だ。

 廊下の真下ということは、おそらく原因はアレだろう。


 ――たぶんボクたちのせいだよね。

 ――でしょうね。

 ――ど、どうしよう。

 ――しらないわよ。


 二人して目だけで会話する。


 いたたまれなさと申し訳なさが襲ってきて、二人の額に大量の冷や汗が流れ出た。手の方はもう、これ以上にないくらい大滝だ。もはや手汗がどうこうというレベルではない。


「……と、とりあえず」


 表情筋をひくつかせながら、エイミは鞄の中をまさぐる。そこから金貨の入った麻袋を取り出すと、


「これ、その料理人さんへのお見舞いに持っていってちょうだい」


 ぎこちなく顔を強張らせながら、へこへこ頭を下げて手渡していた。


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