-15『暗雲も彼方に今の青天です』
騎士団の人たちに悪影響を与えないために、エイミがボクの手を握り、そのまま支えて引き起こしてくれていた。
「隊長、町の外の鎮圧もおおかた終了いたしました」
「そう。第二小隊はこのまま公爵を王都へ連行。第一小隊は私とこのままボードの調査を続けるわぁ。ヴリューセンの私兵と傭兵たちにも話を聞きたいから、町の門の付近で待たせておいてぇ。それと、トラッセルに残した子たちに、急ぎ領主邸への突入を」
「了解いたしました」
ガイセリスの指示を出す姿はさすが国を纏め上げる騎士団の団長らしく凛々しい様で、部下達への命令はもてきぱきと手慣れたものだった。
女口調のいまいち締まらない雰囲気からは想像もできない。
しかし彼らがやってきてくれたおかげで、町外で劣勢を強いられようとしていたトラッセル軍や傭兵たちも無事なようだ。おそらくユーなんとかも。
さすがは国属の精鋭部隊なだけはある。
「ただのオカマだと思った? これでもみんなからは『ナイス、ガイセリス!』と敬われているのよ」
なんとも格好いいのか悪いのかわからない台詞に、ボクは曖昧な苦笑を浮かべて返した。
「私に惚れちゃ、駄目よぉ」
そう言ってウインクを飛ばしてくる。
三十代か四十代はいってそうなおじさんのウインクをどう受け取ればいいのか。
「さて、とぉ。これでやっと一息つけるわねぇ。彼は国家への反逆罪として送致されるわぁ」
「ありがとうございます。助かりました」
「それにしても驚いたわぁ。また貴方たちに出会うなんてぇ」
「そ、そうですね」
「この魔獣も貴方たちが? 貴方たちっていったい……」
キメラ魔獣の死体を横目に、ガイセリスが尋ねてくる。
ぎくり、と胸が高鳴った。
かつて、意思に関係なくとはいえ無差別に人を殺してきた森の魔王と知れれば、心象も悪くなりかねない。そのことに気付かれないようあまり注目されたくない以上、ボクがやった、とも答えづらい。
「そ、それは……」とつい口ごもっていると、
「その通りなのじゃ! わらわたちならば、魔獣の一匹や二匹、ちょちょいのちょいなのじゃ!」
いつの間にか戻ってきていたミレーナが、ボクたちの間に割って入り、ふんぞり返ってそう言いはなった。
突然やって来たちんちくりんに、ガイセリスが目を丸くして驚く。
「まあ、誰かと思えばドールゼを捕らえた天才魔術師ちゃんじゃなぁい」
「ふっはっは、そうなのじゃ!」
ここぞとばかりに気持ちよさそうに見栄を張っている。
なんとも図々しいが、今ばかりはその背伸びがとても助かる。
「そうだったのぉ。ドールゼを打ち負かした魔術師というのなら、まあ納得はできるわねぇ」
素直に感心したガイセリスが、ふとパーシェルの姿も捉える。ガイセリスの目にとまったのは、彼女の背中の白い羽だ。
「それに天使族まで。なるほどねぇ。どうして貴方たちがドールゼのところでも、このボードでも問題の渦中にいるのかと不思議に思っていたけれど。争いの調停者である天使族に使わされていたのねぇ」
――ああ、またあらぬ誤解だ。
やはりそんな高尚な考えもなくたまたま来ただけなのに勝手に持ち上げられ、申し訳なさといたたまれなさに胃が痛くなりそうだ。
ガイセリスはすっかりそれを信じきっているようで、そんな彼にパーシェルは気分がよくなったのか、
「私たち天使族はいつも貴方たち人間を見守っています。平和への祈りを絶やさず、日々精進を続けるのです。かっこ注釈、右手を前に差し出してできるだけ朗らかに笑うことで、その神々しさが五割増します」
――なんだかそれっぽい言葉の最後になんか引用してきたみたいな変な説明書き入ってるんですけど!
パーシェルは右手を差し出した格好でまさに言ったとおりに微笑を浮かべる。
まるで何かの教本どおり――絶対に天使学校で習っただろ、それ。
思わず突っ込みたくなるのはさておき、ガイセリスは完全に信じきった様子でパーシェルの前に傅いていた。
申し訳なさに駆られるが、ミレーナもパーシェルも満足そうなのでいいとしておこう。敬われるのが嬉しいのか、二人とも蕩けるような笑顔で悦に浸っていた。
茶番劇のような下らないやりとりをしているうちに、ボクの方もすっかり体調を取り戻せた。
「これで平和ですね」
先ほどまで激戦が繰り広げられていたとは思えないほど静かなダンスフロアを見渡してボクは呟く。
しかしまだ何か引っかかっているとでも言いたげに、ガイセリスの表情は浮かないものだった。
「そうねぇ。そうならいいのだけれど」
そう吐き捨てた彼の言葉に一抹の不安を残しながら、死霊魔術騒動は一端の区切りを迎えたのだった。




