-12『死霊魔獣との決戦です (前)』
「これぞ悪魔族より授かりし破滅の力だ」
「悪魔、族?」
そういえば、坑道に人々を拉致していたドールゼという男も、悪魔に力を借りたと言っていた。
――悪魔族。
平和を愛する調停者の天使族とは正反対に、争いを好み、世を乱そうとする連中がいるという。彼らには特定の棲家などなく、力を渇望する者の前にだけ現れては契約を交わすという。
それは損得の勘定ではなく、本能的にそういう種族なのだ。人知を超えた力を与え、その契約の代償に、果てしない闘争と己の寿命を捧げさせる。
まさに身を削って一瞬の栄華を掴み取る、悪魔のような存在。
まさかヴリューセンがそんな契約をしていたとは。
彼やドールゼの右手首に浮かんでいた紋様は、その契約の証ということか。
「ちょうどこいつの戦闘情報もとりたかったところだ。推し量るにはやや物足りなさそうではあるが、天使相手には興味がある。面白い抵抗を期待しているよ」
ヴリューセンが物陰に消えたと同時に、キメラ魔獣は方向をつきたててボクたちへと襲い掛かってきた。
巨躯を飛び跳ねさせて振り下ろしてくる前肢。
ボクたちがそれを散り散りにかわすと、絨毯の敷かれた大理石の床が薄氷のように粉々と砕けた。
恐ろしい剛力。
けれどもその脅威さは、以前に戦った魔獣とさほど変わらない。
「エイミ、ボクがやるよ」
「わかったわ」
ここまでに来る道中で、パーシェルの飴は全て使い切ってしまっていた。
それにこの周囲には死人兵ばかりで、ボクの影響を受ける人もいないだろう。
もったいぶる必要はない。
「リリオ、ミレーナ、あとついでにパーシェルも、みんなはアブ会からこのフロアから出てて。ボクが、やる」
「何を無茶言っておるのじゃ!」
「そうですよ、相手は魔獣さんですよ! 恐怖のあまりおバカさんになっちゃったんですか?!」
ミレーナとパーシェルに立て続けに怒鳴られた。
しかしリリオだけは、何かを察したように頷き返してくれていた。
ボクが以前に魔獣を倒したことを彼女は知っている。
今度もまた倒せる算段があるのだろうと信頼してくれているようだ。
「お二人とも、お暇しますですよ!」
リリオは二人の首根っこを掴み、問答無用に引っ張って彼女達をつれて部屋の外へと飛び出していった。
「よし、これで」
エイミと目が合い、頷いた彼女がそっと手を離した。
途端、ボクの周囲に黒い靄が纏い始める。
最強すぎて誰も近づけないが故に孤独をもたらした、忌々しい力。無差別に命を奪い、ただただ残酷な力でしかなかった。
けれど今は、それの存在に感謝したい。
この力のおかげで、ボクはエイミやみんなを守れるのだから。
身体の周囲の靄が溢れていく。
心臓の鼓動と共に、身体の全身に魔法の力が戻っていくような感覚がする。
「一瞬で決めてやる」
眼前の怪物へ、鋭く目をすえる。
すっかり力は戻った。
あとはただ、魔獣を倒すだけ。
並みの人間ならばボクの靄をかぶっただけで死に至るものだが、それでも魔獣は問題なさそうにこちらを睨み返してきている。
「グオオオォォォッ!」
耳を劈くような激しい咆哮。今にも噛み殺してやると言わんばかりだ。その絶対的強者の愉悦に浸ったような声に、ボクはどこかおかしく思い、笑ってしまった。
「――こい」
表情を改めたボクの声に呼応して、魔獣は勢いよく飛び掛ってきた。




