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 -6 『それが少女の優しさです』

 領主の娘リュンと名乗った少女は、ボクたちの前で深く頭を下げていた。


「お父様の様子がおかしいの。私はどこにもいなくなっていないのに、どういう訳かボードの町に攻め入ると言いだして。それに私を屋敷の外に出さないよう見張りまでつけて。お願いです、どうかお父様をとめてください!」


 そう言う彼女はとても必死な形相だった。


 この少女が本当にリュン本人であるならば、その言葉にも信憑性が高いだろう。


 しかし断定する手段はない。


「どうしますですか……?」


 リリオが困り顔でボクとエイミを見る。


 エイミは特に表情の変化がない。

 それが事実だろうが嘘だろうが関わらないつもりなのだろうか。


 厄介ごとに首を突っ込まないのは確かに大切だ。彼女の判断も一理ある。


 しかしボクは、その少女のことを放っておけない気分だった。

 それに、さっきのヴリューセンが言っていた言葉の引っかかりも気になる。


 それになにより、ボクを頼ってくれていることが嬉しかった。

 ここにいていい理由を作ってくれているようで、ただただ心が安らいだ。


 森の魔王と忌み嫌われたボクを求めてくれている。


 それだったら、できる限りは力になりたいと思う。


「……ねえ、エイミ」


 恐る恐る、表情を窺いながら尋ねてみる。

 彼女は眉一つ動かさずに、視線だけをこちらに向けた。


 その表情からは喜怒哀楽がまったく読み取れない。


「この子の言うことを、ボクは信じたいと思うんだ。それでもし無用な争いが止められるなら越したことはないと思うし」


 ボクがそう言っても、エイミの表情はまったく変化しなかった。


 余計なことを言い出したと思って苛立っているだろうか。それとも呆れているだろうか。


 気になって、つい横顔を窺いたてる。


「駄目、かな?」

「どうして尋ねるの」

「いや、だって。あまり関わらないほうが良いって思ってそうだから」

「私は何も言っていないわ」


 ずばりと言われてしまった。

 そうだ。確かにボクが勝手に思ったことだ。


「相手の気持ちを推し量れるのはいいことよ。けれど、それを深読みしすぎて自分の気持ちを縮こまらせるのはよくないわ」


 ふふっ、と不意にエイミが笑む。


「私の気持ちも大事だけれど、貴方の気持ちも大事だもの。私は貴方をむやみやたらと蔑ろにするようなことはしないわ」


 その言葉に、ボクは胸の奥で心臓がぐらりと揺らいだ気がした。


 そうだ。

 思えば彼女はずっとそうだった。


 森を訪れた他の連中のように、ボクを排除しようとするわけでもなく、ボクを遠ざけようとするわけでもなく。彼女はただ、ボクに手を差し伸べてくれた。


「……ありがとう、エイミ」


 心から、喉を通って自然に言葉が出た。


 身体が熱くなって、けれども汗をかくような不快さもなくて。むしろ清々しい気分だった。


「それで、その子を信じようと思った理由は?」


「使者に送った人はボードっていう町に行った人は誰も帰ってきてないんだよね。それに一般人だって立ち入りを禁止してる。ボードの領主だって知らぬ存ぜぬの一点張り。それだったら情報なんてまったく得られないはずなのに、どうしてあんなに自信を持って『娘は今もボードで囚われている』なんて断言できるんだろう、って思って」


「要人の娘は丁重に扱っているだろう、という判断なのではありませんですか?」

「それは……まあ、そうかもだけど」


 リリオに言葉を返され、ボクは押し黙ってしまった。


 そう言われてしまえばそこまでだ。

 リリオの言葉の方がずっとずっと説得力がある。


 けれどボクには、まるでヴリューセンがみんなを煽動しようとしているように感じた。それにあの、どこか虚空を見ているような空ろな目。実の娘が囚われた父親のする目ではないと思う。


 パン、とエイミがボクの手を握ったまま胸の前で手を叩く。

 繋いだ右手が、彼女の華奢な両手に挟まれてぴりりと痛んだ。


「思考が行き詰ったのなら、うじうじ考えたところで何も変わらないわ。。じっとしていても時間の無駄。自分にできることを考えて、行動に起こすことが一番よ」

「行動じゃと?」


 小首をかしげるミレーナに、そうよ、とエイミが頷く。


「さ、確かめに行きましょうか」


 景気よくそう言ったエイミに、領主の娘であるリュンは頭を下げていた。


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