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 -4 『しつこい忠犬はお好きですか』

 大広場の奥で大きな歓声が湧き立った。


 このトラッセルの領主である男、ヴリューセンが群衆の前に姿を現したのだ。


 刈り上げの髪に整って剃られた髭。

 堀の深い目許は、切れ長の目もあって力強い目力を感じさせる。


 勲章が幾つも胸元に飾られた煌びやかな洋服は、彼の地位の高さを一目で教えてくれた。


 執事によって台が置かれ、ヴリューセンがその上に登壇する。


 彼が一度、白い手袋を被せた手を掲げると、集まった群衆たちはこぞって大きな歓声を突き上げた。


「みなの者、よくぞ此度の召集に集まってくれた。我が愛しき娘の一人、リュンが消息を絶ち、ボードで囚われの身となってから一週間。かの領主であるアイルド候はその件に関して知らぬ存ぜぬを貫き通している。しかし彼女が町へ出向いたのは明白であり、更には我らの私兵の調査はおろか、町の門を閉じて一般人の立ち入りまで制限する始末。しまいには我々の使者を問答無用に捕らえ、無残に殺すという暴挙にまで出た。このような身勝手な行い、許されるものだろうか」


 ヴリューセンの言葉に、集まった男たちは歓声を上げる。


「ボードの不信を見抜き、我々はかの地へ兵を派遣することに決めた。私の愛娘のために、皆にも力を貸してもらいたい」


 拳を突き上げたヴリューセンに、割れんばかりの喝采が飛ぶ。


「では皆のもの、トラッセル軍舎にて詳細の指示を行う。その後に出撃である」

「おおー!」


 そのほとんどが褒章に釣られて集まった傭兵だろう。しかしこの士気の高さからして、相当に高額の給料が支払われているのだとわかる。


 行方不明になった大切な娘を取り戻すため、身を切ってでも手段を選ばないといったところか。


 しかしそんな中、ボクはかすかな違和感を覚えていた。


 群集の前で高説を垂れるかのようにみんなを煽る彼の目が、どこか遠い中空へ逸れ、どこか虚ろ気に彷徨っているような気がした。それにどこか彼の文言にもひっかかる。


 けれど、どうしてそう思ったのかはよくわからなった。


「それじゃあ、俺様も行ってくるぜ! 麗しい囚われの姫君を助けないといけないんでな! おっとお嬢さん。俺に嫉妬して追いかけてきたりしないでくれよ!」

「それじゃあ私たちは宿を探しましょうか」


 エイミはキラリと歯を輝かせて決め台詞のように言ったユーなんとかを無視し、まるでこの騒ぎに興味がなさそうに踵を返した。この町の施設が載った地図を開いている。


 しかしユーなんとかは諦めず、じりじりと半歩ずつくらい身体を進ませながら顔をこちらに向けてくる。


「いいのかい! 行っちまうぜ!」

「このあたりだと近い宿屋はどこかしら。大きい所がいいわね」

「止めるなら今のうちだぜ!」

「あ、あっちにありそうね」


「このままじゃあ、たずなをなくした雄牛のごとく止まらなくなっちまうぜ!」

「他にいいところはないかしら。とりあえず向こうに行ってみましょう」

「お嬢さんの愛が、唯一俺を止められるんだぜ!」


 少しイラッとしたのか、エイミが地図をくしゃりと握りつぶした。


「伏せ!」

「了解だぜ!」


 群集の手前でユーなんとかが咄嗟に地に伏せる。


「待て」

「了解だぜ!」


 エイミはそう指示をすると、しかしすぐに視線を逸らし、ボクの手を引いて広場の外へと歩き出してしまった。


 無視されて、その場に伏せたまま放置されるユーなんとか。


 でも心なしか、獣人でもない彼に、まさに犬のように物凄く大きく振った尻尾が見えるのは気のせいだろうか。


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