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 -15『こうして少女は伝説になりそうです』

「すごいじゃないか! さすが俺の娘だ!」

「これまでは私たちの教育が悪かったのね、きっと。こんなしがない料理屋で収まるような子じゃなかったのよ」


 悪名高い魔術師を打ち倒し、巷を騒がせていた誘拐事件を解決して町に戻ってきた――という名目で凱旋したミレーナを待っていたのは、驚くほど手首を捻った掌返しだった。


 報せを聞いた両親が真っ先に彼女へ駆け寄り、涙ながらに熱い抱擁をしていた。


「そういえばお前は前から言っていたもんな。いろんな場所に行って高みを目指したいって」

「……え? そんなこと言ったっけ、パパ」


「そうね。貴方はいつも町の外に目を向けてたものね。こんな小さな町すら物足りないってことだったんだわ」

「……ええ? あれ……ママ?」


 困惑した顔を浮かべるミレーナの背中を二人が勢いよく叩く。


「もう俺達はお前を馬鹿にしない、引き止めないさ。お前のその才能を活かせるよう、世界中に奉公して来い!」

「…………えええっ?!」


 いつの間にか荷支度の済んだ鞄まで持たされ、旅先のおやつに握り飯まで差し入れされるミレーナ。そんな彼女の周りでは、町の人たちが彼女の旅立ちの瞬間を見送ろうと集まっている。


「がんばれよ!」

「名のある魔術師になって帰って来い!」

「応援してるぞ!」


 みなそれぞれに激励を浴びせてくる。

 だがミレーナは、それをきょとんとした呆け顔で受け止めていた。


 いったいいつそんな話になったのか。


 手柄を持って気前よく町に帰ってくれば、気が付けば冒険に旅立たなければいけない雰囲気になっている。


 これまでの大言壮語の影響か。

 いったいどれだけ大口を叩いてきたのか、これだけでも想像に難くない。


「ミレーナ、私、貴方にずっと感謝してる。だから、どこに行っても応援してるから。いつでも安心してここに帰ってきてね」


 檻から助け出され、無事に町に戻ってきた親友のアリーが優しく微笑む。


 ミレーナは「今すぐ帰りたいんですけど」といった顔をしているが、もはやそんな空気ではない。なれば今すぐこれまでの虚言を撤回して正直に話すべきだろう。


 しかしミレーナは、


「……わ、わらわにかかれば世界に名を轟かせるなど簡単なことなのじゃ!」


 更に上塗りをしていくのだった。

 自らを更に沼へ沈めているとはわかっているのに、もはや抜けない癖らしい。


 傍で見ていたボクは、その不器用さについつい溜め息を漏らしてしまった。


「ミレーナ、苦労する性格だね」

「まあ自分で買ってきてる苦労だけれど」


 エイミの言葉がごもっともすぎて頷くほかない。


「わたしはそういうところも可愛いと思いますです」


 リリオが至福な表情で眺めながら言う。

 確かに、それもごもっともだと頷きたくなる。


 やがて、大勢の観衆に手を振られて見送られたミレーナは、とぼとぼとした足取りでボクたちのところまでやって来た。


 まるで捨てられた子犬のように円らな目で見上げてくる。


 しょぼんとした顔は小動物のようで可愛らしい。

 リリオではないが、思わず頭を撫でたくなりそうだ。


 そんな彼女に、エイミはボクと繋いでいないもう片方の手を差し出す。


「行き着く宛てがないのなら、私たちと一緒にどうかしら」

「……いいの?」


「実際に外に出て、たくさん見聞を広めて、大きくなって、本当に立派な魔法使いになって戻ってこればいいじゃない。今よりも成長して無事に戻ってくれば、きっと彼らの期待も裏切らないわ。もちろん、一緒の間はしっかりと働いてもらうわよ。ちゃんとお給料とかは出すわ」


「わ、わかった」

「……よし。料理番をゲットね」


 聞こえないくらい小さな声でエイミが呟く。


 これでエイミの料理からは無縁になるだろう。

 それに、ミレーナの料理の腕は折り紙つきだ。ボクとしても万々歳である。


 始めこそ不安そうにしていたミレーナだが、やがてすっかり調子を取り戻し、


「うむ、わらわに何でも任せるのじゃ!」と機嫌よく笑っていたのだった。


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