-14『自他共に認めさせた天才でした』
エイミは、真下にいたパーシェルが受け止めてくれていた。
槍を振り回すだけでなく、ちゃんと役に立ってくれたようだ。
無傷で済んだエイミは、壁端に落ちたボクの方へと歩み寄り、優しい表情で手を差し伸べてくれた。
「よくやったわね」
「……うん」
ボクは浮かない顔をしてしまっていた。
彼女の手を取る。
ボクを纏うオーラが消え去る。
それだけで、さっきのもやもやした感情が不思議と和らいでいく気がした。
エイミの手を支えに立ち上がったのとほぼ同じ頃、坑道の入り口がふと騒がしくなる。
「待たせたな!」
耳を劈くほどの大声が飛び込んでくる。
もう聞き飽きたと思うほどに耳障りな声。
「お嬢さん、この俺が駆けつけたぜ!」
薄暗い坑道に白い歯が浮かび上がらせたユーなんとかがそこにいた。
「どうしてここに」
ついボクは率直な言葉を漏らしてしまう。
「そ、れ、は、な! 愛しの姫君の危機を嗅ぎつけて、大慌てで後を追ってきたんだぜ」
なるほど、とは納得しづらいが、この変態ならあり得そうだと思えてしまった。
きらりと光らせる白い歯の向こうに、更に人影が続いていることに気付く。
見覚えのある白い鎧。その先頭には、触角のように立った橙色の前髪を揺らす、モデル歩きのいかつい顔。
ガイセリスと騎士団の連中だ。
「こんにちはぁ、ぼうやたち」
瑞々しい唇を震わせながらガイセリスがボクたちの前へと出てくる。
彼は倒れた外套の男達と、檻の中で捕まっている人たちを見て、目を丸くして驚いていた。
「どうしてここがわかったんですか?」
不思議がるボクに、ガイセリスはウインクして返す。
「もともと誘拐事件の調査を進めていて、この場所は怪しいと睨んでいたのよぉ。けれどまだ確証がなくて、もう少し様子を見ていたのだけれどぉ、彼の通報を受けて急遽出動したっていうわけ」
「お嬢さんの窮地には、いつだって俺様が駆けつけるんだぜ!」
えへん、とユーなんとかが鼻高々に胸を張っている。うっとうしい。
「けれどもビックリだわぁ。まさか駆けつけた時にはもう終わっているだなんて」
呆けたように口にしたガイセリスは心底そう感じているようだった。
ボクとエイミの足元で、生気を抜かれたように倒れこむ魔術師の男に目をやる。
「その男は国家指名手配されているほどの男よぉ。名前はドールゼ。かつて宦官であった彼は、魔法によって国家転覆を謀ろうとした罪が問われているのぉ。実力はこの国で十本の指に入ると言われているほどよぉ」
そんな凄い人だったとは。
たしかに、一瞬で氷壁を展開したり、高位の無詠唱魔法を扱えているあたり、只者ではないと思っていたけれど。
「ドールゼを倒してしまうなんて。貴方たち、いったい何者なのぉ?」
問いに、ボクはドキリと胸を高鳴らせた。
ボクは『森の魔王』と恐れられている存在だ。
ある意味では、ドールゼという男よりももっと名が知れ渡っていることだろう。
あまり迂闊なことは言わないほうが良いかもしれない。
けれどなんと答えれば良いのか。
あれだけ凄い相手と言われているドールゼを倒した手前、通りすがりの一般人とも名乗りづらい。
「面倒ごとは避けたいわね」
エイミも同意見のようだ。
当たり障りない言葉で適当に誤魔化そうか、とボクが口を開きかけたところ。
「ふっふっふ。わらわは炎を操れる最強の魔術師ミレーナなのじゃ! わらわにかかれば、こんな相手は屁でもないのじゃ!」
声を高らかに、ミレーナがそう名乗り出てしまった。
「え、貴方がぁ?」
「そうじゃ。もう、けちょんけちょんだったのじゃ!」
そういえばミレーナは見栄を張るタイプの子だった。
余計にややこしくなりそうだ。
訂正すべきか、どうするべきか。
さすがに眉唾に思ったのか、ガイセリスはボクたちの方を見てくる。
「その通りよ」とエイミが即答した。
――ええええええ!
内心でボクは叫んでしまった。
「だから言ったじゃろう! わらわは炎を扱える、最強魔法使いなのじゃ!」
よほど火球魔法を使えたことが嬉しいのだろう。
にこやかに言う彼女に、次第に周りも「事実なんじゃないか」という雰囲気が漂い始めていた。後ろの騎士団兵たちが口々に「あの女の子すごいな」だとか「やべえやつだぞ」とか囁きだしている。
その度に、ふんぞり返って胸を張るミレーナの鼻が高くなっていく。
しまいには「天才なのか」、「神童じゃないか」とまで言われ始め、仰け反ったミレーナの頭は後ろに倒れみそうなほど天頂へと向いていた。
「わらわにかかれば、そこいらの魔術師などちょちょいのちょいなのじゃ」
「おお~」
騎士たちの歓声に、ミレーナの笑顔が深まる。
「わらわは産まれて三日で魔法を使ったといわれておるほどなのじゃ」
「おお~」
さらに深まる。
「わらわが産まれて、母親の胸に抱かれながら最初に言った言葉は『自分の才能が怖い』だったというのは有名な話じゃ」
「おお~」
いや、さしがにそれはないだろ。と内心で突っ込む。
騎士団の人たちに担ぎ上げられ、ミレーナの恍惚に満ちていた。
おそらく今が彼女の人生で一番輝いているのではないだろうか。
「騎士団の人、いい人たちだなー」
「あら。ちやほやされてるのが羨ましくなった?」
ボクが苦笑して眺めていると、隣でエイミが尋ねてきた。
「うーん、そういうわけじゃないけど」
「貴方の活躍は私が知っているわ。真実なんて、知るべき人が知っていればそれでいいものよ。私は貴方の頑張りを知ってる。それでいいじゃない」
繋いだ手がきゅっと締まる。
「うん、そうだね」とボクははにかんで頷いた。




