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 -5 『天才魔術師の正体を知りました』

「お、覚えておくのじゃ!」


 もはや使い古されすぎたような捨て台詞を吐き、少女は逃げるように走り去ってしまった。


「おもしろかったわね」

「そ、そうかな」


 エイミは随分とご機嫌そうだ。


 実際、どうやら先ほども怒ったわけではなく、そう見せかけてあの女の子の反応を見て遊んでいたらしい。


「なんだかびくびくしてる女の子って可愛いわよね」


 そう微笑みながら言うエイミを見て、ボクとリリオは「彼女を怒らせないでおこう」と固く決意したのだった。


 それから適当に町を散策し、一際賑わいを見せている飯店を見つけて入った。


 個人経営の小さな店だが、テーブル席はほとんど満席だ。

 ボクたちは厨房に面したカウンター席に並んで腰掛けることにした。


 厨房で大きな鍋を振るう店主は無精ひげの目立つ大柄の男性で、その奥さんと思われる白髪の若い女性が出来上がった料理を運んでいく。


 一家で切り盛りする和やかな雰囲気の店だった。


 さて、なにを食べようか。


「いろいろあるね。山菜の炒め飯、特製かき揚げ麺、季節の五目御飯。他にも色々あるね」


 海が近くにないせいか、山の食材ばかりが目立つ。しかしどれも美味そうだ。

 端っこに座ったボクは、つい目を輝かせ、メニューを食い入るように眺める。


 そんなボクに、店員さんが注文を取りに来た。


「お客様、ご注文はお決まりですか」

「あ、す、すみません。まだ――」


 とボクが咄嗟に応えようとした時だった。


 ふと、店員と目が合う。


 桃色のエプロンをつけ、二つに分けた白い髪を垂らす少女の瞳がボクを映す。


「……あ」

「……あ」


 ボクと店員の素っ頓狂な声が重なった。かと思うと、


「ふあああああああああああああああ!」と店員の少女は大声を上げた。


 そこにいたのは、先ほどボクたちに絡んできた自称最強魔法使いの少女だった。


 少女が注文票を片手にしたまま、咄嗟に格好つけたポーズを取る。


「わ、わらわを追って来たか、悪の魔王よ。じゃがこのわらわの不意を付くには十年早いのじゃ」

「え、いや。思いっきりびっくりしてたようだけど……」

「今のはしゃっくりじゃ!」


 随分へんなしゃっくりだな。

 先ほどのように強がって見せる少女だが、店主の男性に頭を殴られる。


「なにやってんだミレーナ。また馬鹿みたいな魔法使いごっこやってんのか。ちゃんと接客しろ。あんまりサボってると小遣い無しにするぞ」

「ふぁああああ! やめてぇ、パパぁ!」


 ふにゃけたような声で、ミレーナと呼ばれた少女は顔を真っ赤にしていた。喋り方も普通の女の子に戻っている。


 こうして見ると、どこにでもいるただのあどけない少女だ。


 目尻に涙を浮かべたミレーナは、そのまま羞恥に顔を真っ赤にしたままボクたちの注文を取り、そして逃げるように厨房へと走り去って言ったのだった。


   ◇


「ごめんなさいね、お客さん。どうやらうちの子が外でも変なことしたみたいで」


 ミレーナの母親と思われる白髪の女性が申し訳なさそうに頭を下げ、一品物を一皿サービスしてくれた。


「いえいえ。そんな、ボクらは別に迷惑とかかけられなかったですよ」

「もう十二歳にもなるっていうのにお恥ずかしい限りで。あの子、先月まではこんなことなかったのだけれど、急にあんな変なことを言うようになりまして」


 変なこと。

 まああの格好つけた口上のことだろう。


「あの馬鹿には困ったもんだよ。道往く人に声かけてるって話だ。近所迷惑だって言われる前に止めさせたいもんだが、なかなか言うこともききやしねえ」


 鍋を振るいながらそう話すミレーナの父親は相当にイラついている様子だった。


「どうしてあんなことを?」


 ボクはつい興味本位で尋ねてみる。

 ミレーナの母親は視線を伏せさせ、声を小さくして言った。


「あれが始まったのはつい二週間前。この近くにミレーナととても仲の良い親友の女の子が住んでいたんです。けれどその子が急に姿をくらませて、まったく行方がわからなくなってしまったんです」


 もしかして、とボクは思う。


「丁度その前後、他にもこの町や街道を出た冒険者さんたちが同じように行方不明になる事件が多発したんです。噂では、誘拐されたのだとか。それで、その親友の子もその犯人に捕まったのではないかと言い出したんです」


「それで、誘拐犯を探して手当たり次第に声をかけてるってことですか」


 ええ、と母親は決まりが悪そうに頷いていた。


「俺たちはあいつに言ったんだ。犯人探しは騎士団の連中がやってくれる。あいつが動き回ったところで、ただのガキに何が出来るわけもないんだから」

「そうです。でもあの子は聞いてくれなくて。私が誘拐犯をつきとめて成敗してやるんだ、って」


 そう話す二人は、ミレーナに呆れていながらも、本当に心から彼女を心配している風だった。


 けれどミレーナというあの子も友達を見捨てられないのだろう。

 いきなり喧嘩を売ってくるような変な子だけれど、悪い子ではないようだ。


「最近は本当に物騒ね。つい先日も、王都で第一王子が暗殺されたっていう噂が流れてきたし。それに、二人目の子であるエミーネ姫が大手商人のご子息の方と結婚なさるという話も、問題があって延期になったと聞くし。あまり気分のいい話を聞かないわ」


 そんなことがあったのは初耳だ。

 もしかすると、本来は王都にいるはずの国家騎士団が動き回っているのも関係があるのだろうか。


「あんたたちも冒険者なら旅路には気をつけろよ」


 心配してくれるミレーナの両親に、エイミが自信気に答える。


「うちは優秀な護衛がいるから大丈夫ですので」

「ほう。そんなに腕が立つのかい……その獣人の子は」


 そっちじゃないよ! と思わずボクは心の中で突っ込む。


 いや、確かに無差別オーラのないボクなんてただの年端もいかない男子なのは確かなのだけれど。ボクはリリオよりもひょろそうに見えるのだろうか。


 そんな気落ちするボクを弄ぶかのように、


「ええ、そうよ」とエイミがにまりと笑んで悪乗りした。


 何を言ってるんですか、とボクは慌てて視線を向ける。


 内心ちょっと落ち込むボクを余所に、何故かリリオは「やってやるです」とでも言いたげに握りこぶしを作っていた。


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