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8 鍛冶職人の店

北の祠のアンデッド討伐に加え、鍛冶職人の護衛が、フリージャ村での勇者一行の仕事となった。



鍛冶職人の店を後にした一行は、長老の屋敷の方角へと歩を進めるデイビスについて行った。


「いや〜、でもよお、成り行きとはいえ、あの鍛冶職人を護衛することになっちまったから、アンデッド討伐もすぐにって訳には行かなくなっちまったよな。勇者ってのも大変だよな〜、ハッハッハ!」


そう言いながら、デイビスは満足げな笑みを浮かべている。


エルムはデイビスの意図を理解した。


(こいつはアンデッド討伐の時間を稼ぐために鍛冶職人の護衛を引き受けやがったんだ)



「とりあえず長老さんに伝えとかないとだよな!あ〜、大変だ〜大変だ〜!勇者は大変だ〜!」


呑気な奴だ、とエルムが思っていると、


「さすがデイビスなのです!頼られる人は大変なのです!」


「とにかく、あの事件の謎はこの私が解いてみせますっ!この私に解けない謎などないのですから!」


「とりあえずぅ、なぁんか面白くなってきてよかったわぁ」


パーティは動物園状態だった。




そして一行は、長老へ事情を説明し了承をもらった。



「でさ、デイビス。この後はどうするつもりだ?」


長老の屋敷からの帰り道、エルムはデイビスに聞いた。


「ああ?アンデッドの討伐計画を立てながら、鍛冶職人を護衛するに決まってんだろ!なに言ってんだ、お前!」


「いや、そうじゃなくて…。具体的にってことなんだけど」


「ああ、それな。そりゃあ決まってんだろ。それを考えるのは、エルム、お前の役目だ」


(やっぱり)


エルムはそんなことだろうと予想はしていた。



「あの、エルム!私は事件の謎を解くのに忙しいので、両方ともパスです!」


サーナはすっと手を挙げ、機先を制した。

仕方ないと思いながら、エルムは他の2人を見た。


「あたしぃ?ヒーラーなんだけどぉ。護衛とか計画とか、ちょっとむ〜り〜ぃ」


「あ、あの、魔法なら何とかなるのです!でも力仕事とか計画とかはちょっとなのです!」


再度、仕方ないと思いながら、デイビスを見た。


「まあ、仕方ねえな。もうやるしかねえよな!」


「え?」


デイビスの言葉に、エルムは一瞬驚いた。

まさかデイビスが自分でやるとは。しかし、


「エルム、お前の仕事だ!」


「…やっぱり」とエルムは呟いた。


しかし内心では良かったと思っていた。



何者かに鍛冶職人の店若しくは本人が狙われているのは間違い無い。

そこで、もし他人に鍛治職人を殺されでもしてしまったら、エルム自身の暗殺者としての評判が落ちてしまう。

それだけは絶対に避けなければならない事態だった。

なぜなら、エルムが信頼されていることが依頼主——国王から仕事を依頼されることであり、国王の目をデイビスに向けることにも繋がるからだった。




「というわけで、しばらくの間は僕がカインさんの護衛を努めさせていただきます」


エルムは鍛冶職人の店でカインと向き合っている。


「何だか申し訳ありません、わざわざお手間をかけさせてしまいまして。やっぱりエルムさんもお強いんですよね」


カインは丁寧な言葉遣いでエルムに話しかける。


「いえいえ、僕は荷物持ちですから」


「え?荷物持ち?」


カインは驚いたようだ。

確かに勇者のパーティの一員であれば、戦闘に優れているのが世間の常識だ。

カインもそういう人物が護衛に来ると思っていたのだろう。


「…ええ、だからあまり期待はしない方がいいかと」


エルムは申し訳ない顔でカインを見た。


「そうなんですか…。でも、逆に良かったですよ」


「え?」


「あ、ほら、何ていうか、緊張しなくて済みますし」


「あ…そうですか」


「ええ。じゃあ、エルムさん。とりあえずその辺りに座っていてください。僕はやりかけの仕事を片付けますので」


カインはそう言うと、火炉の方へと歩いて行った。

エルムは適当に座っていたのだが、時間を持て余したので、店の中を見て回ることにした。


カインが言っていたように、店の中は祭祀用の武器が多い。

装飾の施された鍔や綺麗な石の付いた柄頭の剣など、明らかに戦闘用ではないものばかりだ。

こういった都市部から離れた村では、未だに昔ながらの祭祀をしているとことが多いようだ。


ただ、エルムが見たかったのは、別のものだった。

それは、昨晩窓の外から見えた戦闘用の武器だった。


しかし、店の中を見回してもそれらの姿が見えない。

念のために、エルムは窓の位置も確認してみる。

昨日、自分が立っていた位置を思い出し、視界に入るであろう場所、そこを見てみると、


()()()()()()


そう、文字通り何もなかったのだ。

その空間だけ、すっぽりと穴が空いたかのように何も置かれていない。

状況から考えて、もともとその場所に置いてあったものが、何らかの理由で今は置かれていないということだろう。


なぜだ?

そしていつ?


エルムは思考を巡らせた。

そして、瞬時に三つほど頭に浮かんだ。


一つ目の可能性は、昨日エルムが帰った後。

この場合は、カインと会っていたエマという少女との会話の内容から、撤去せざるを得ない状況になったということだろう。


二つ目の可能性は、泥棒騒ぎの時。

この場合は、実は二人組が持ち去った、若しくは隠したということになるだろう。

しかし、あの時の状況を思い出す限り、持ち去ったとは考えにくい。ということは、二人組がどこかに隠したということか?


三つ目の可能性は、エルムたちが長老の屋敷へ向かった後。

この場合は、エルムたちには武器を見せたくなかったということ以外、理由は考えられない。


(まあ今は時間はあるから少しずつ調べていけばいいか)


エルムがそんなことを考えている時、作業場の方から声がした。



「エルムさん!あの、一つ聞いていいですか?」


「なんですか?」


「勇者様の凄いところってどんなところなんですか?」


「え…、デイビスの凄いところ…?」


エルムはその質問で、一瞬固まってしまった。

今まで凄いなんて思ったことがなかったし、ダメなところばかり考えていたからだ。


「いや〜、勇者様に会うのなんて初めてで、さっきは緊張して全然顔も見られなかったもので」


声の様子から、カインはかなり興味津々といった様子だ。


「ん〜、そうだなぁ。じゃあ一つだけ教えてあげるよ」


実際は、エルムは一つ絞り出すだけで精一杯だったのだが。


「何ですか?」



単純(ばか)なところ」


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