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7 二人組の目的

仲間の元に戻って来たエルムとデイビスを出迎えたのは、メイだけだった。


残りの二人の仲間――サーナとイザベルはどうしたかというと、鍛冶職人の店の前に座り何やら話し込んでいた、一人の男性を交えて。


「おいおい、二人とも何やってんだ?」


「あっ、デイビス!いいところに戻ってきましたね!さあ、早く座って下さい!」


サーナはデイビスの腕を引っ張り腰を下ろさせる。


「お、おいおい。何だよ急に!」


「いいからいいから。エルムも早く座って」


サーナに急かされ、エルムも腰を下ろす。



「いや〜、今みんなで話し合ってたんですけど、さっきの二人組の目的って何だと思います?怪しいの組織の臭いとかしませんか?」


サーナは目を輝かせて聞いて来た。


「はあ?何ってんだ?ただのコソ泥だろ」


その問いかけに対し、デイビスはあきれた表情をする。


「でも、デイビスから逃げ切る実力の持ち主ですよ。普通のコソ泥じゃないですよ」


「いや、だからあれは、婆さんがだな――」


そこにすかさずエルムが言葉を挟む。


「確かにさ、普通の人とは身のこなしが違ってたような気はしたね」


デイビスの言い訳を聞くのも面倒だったのだ。


「となるとですよ、やはりこの事件には大きな組織がかかわっているのではないかと思うんですよ」


「まあ、それは絶対にないとは言い切れないけど…」


身を乗り出してくるサーナに、エルムは勢いで押されている。

そこに、イザベルがだるそうに言葉を発する。


「でもさぁ、そうだとすると、目的はなぁに?」


彼女の場合は、興味があるのかないのか分かりにくい。

しかしそんなことには関係なく、サーナは前のめりに話を進めていく。



「問題はそこなんですよ」


そう言うと、サーナは先ほどから隅の方でじっと座っている男性を見た。


「お、そうだそうだ!こいつ誰なんだよ!」


思い出したかのようにデイビスが聞く。


「そういえば、お二人は挨拶がまだでしたね。この人は、このお店の主人のカインさんです」


紹介されたカインは一度姿勢を正し、デイビスとエルムにお辞儀をし簡単に自己紹介をした



「おお、あんたがこの店の主人か。災難だったな、今回は」


「あ、いえ。幸いにも何も盗まれませんでした」


「はあ?何も盗まれてない!?何だよ!あの二人組み、ただの間抜けじゃんかよ!おいおい、あんな奴らが怪しい組織の人間なわけねえだろ!」


確かに、泥棒に入って何も盗れずに逃げていくのは、デイビスの言う通り間抜けであることには違いないだろう、普通なら。


「そう、私たちもちょうどその話をしていたところなんですよ」


サーナがイザベルと目を合わせながら言った。

カインは肩身が狭そうに顔を下に向けている。



「あの、私思うんですけど、あの二人組みが何も盗らずに逃げたっていうことはですよ、もしかしたら泥棒じゃないんじゃないかと思うんですよ」


サーナは目を輝かせている。


「はあ?どういうことだよ」


「だってですよ、デイビスを撒くほどの手練れが盗みに失敗するなんて、普通あり得ないじゃないですか!」


「おいっ、ちょ」デイビスがサーナの言葉を訂正しようとするが、その様子に気付くことなくサーナは話を続ける。


「だとしたら、彼らの目的は一つじゃないですか!」


その場にいた全員が、サーナの方を見る。



「それは下見ですよ」


「はあ?下見?そんなんするぐらいだったら、その場で盗んでいくだろうがよ、普通は」


デイビスのその言葉に、サーナは右手の人差し指を立てて左右に振る。


「チッチッチ。甘いですよ、デイビス。そんなんじゃ事件の本質にはたどり着けませんよ!」


「……。じゃあ何だってんだよ!」


「そう、それは盗みの下見じゃないんです。それは…、『暗殺』です!」


エルムとカインは同時にサーナの方を向き、目を見開いた。


「お前バカじゃねえの!何でこんな田舎の鍛治職人が暗殺されなきゃなんねえんだよ!そもそも鍛治職人にいなくなって欲しいなんて奴がいるかよ!」


デイビスのその言葉を聞いて、エルムは一瞬視線が泳いだ。

そんな様子に気付くこともなく、サーナはさらに熱くなる。


「何を言ってるんですか、デイビス!カインさんは、もしかしたら伝説の魔剣を作り出せる凄腕鍛治職人かもしれないじゃないですか!はたまた、組織の情報を盗んだ元幹部の鍛治職人だったとか!」


この状況に、サーナ以外の全員は完全に口を開けたまま黙ってしまった。

その様子を見たサーナは、全員を一瞥した後、カインに向かって言った。



「さあ、カインさん!お話を聞かせて頂けますか?」


勇者一行は、一斉にカインを見る。

全員の注目を集めてしまったカインは、申し訳なさそうに口を開いた。


「あ、あの〜、僕はしがない鍛治職人でして、小さい時からずっとこの村に住んでますので、組織とかそういうのはちょっとよく分からなくて…」


「ん〜…。あ、分かりました!あなたに定期的に武器の作成を依頼に来る人がいるでしょ!きっと、その人を目の敵にしている人が、新しい武器を作らせたくないって思ってるんですよ!」


「い、いえ、そういう方も特にいないんですが…。売れるのは祭祀用の武器ばかりなので…」


「ん〜」自分の推理がことごとく外れたサーナは頭を抱える。



そこにデイビスが口を挟む。


「まあでもよ、これも何かの縁だ。せっかくだから、俺たちがこの村にいる間は、お前とこの店のガードをしてやるよ」


デイビスが久しぶりにまともなことを言ったので、女冒険者3人は驚いた表情を見せた。

エルムも彼女達に合わせて顔では驚いたフリをした。

しかし、内心では別のことを考えていた。


(デイビスの奴、余計なことを言いやがって。これじゃあ、俺が暗殺しにくくなるだろ)



デイビスを中心に、そんな微妙な空気が流れていたところに、


「あ、あの〜」カインがデイビス達を覗き込むよう見ながら聞いて来た。


「あなた方は、いったいどのような方々なのでしょうか?」



「あ?俺たちか?おお!悪いな、自己紹介をしてなかったな。俺はな、あの伝説の勇者デイビスだ!」


カインはその言葉を聞き、今日一番の驚いた表情を見せた。


「あ、あの。ちなみに、そちらの女性の方は?」


カインはサーナに手を向けた。




「ああ、こいつはただの推理バカだ」


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