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4 アンデッドの武器

祠のアンデッド・スケルトンから逃げ出した勇者一行は、村と祠の中間地点まで戻ってきていた。


「おい、エルム!話が違えじゃねえか!」


デイビスがエルムに向かって怒鳴りつける。


「え?」


何のことを言っているのか理解できなかったエルムは、他に言葉が出なかった。


「え、じゃねえよ!何でアンデッドがいるんだよ!弱っちい魔獣じゃなかったのかよ!」


「いや、ちょっと待ってよ。僕だってそこまでは知らないよ。依頼文にも書いてなかったし」


完全に言いがかりだと思いながらも、エルムは一応真面目に答えた。しかし、


「言い訳言ってんじゃねえよ!お前は雑用係なんだから、そういうのもちゃんと調べとくべきだろが、普通はよ!」


理不尽過ぎだろと思ったが、先ほどのドロップキックで多少気分が晴れていたエルムは軽く聞き流すことにした。


「はいはい、そうですね。…っていうか自分が長老の話を聞かなかっただけじゃん」


と後半部分をエルムは小声で言ったにも関わらず、デイビスは


「何だと〜!」とさらに突っかかってきた。



そこにイザベルが割り込できた。


「でもさぁ、どうするのぉ?」


恐らくデイビスとエルムの会話に興味がなかったのだろう。


「そうですよ、あのアンデッド達どうします?さすがに3体じゃ、デイビス一人だときついですよね」


サーナにそう言われたデイビスは、


「あ、ああ…でも、いや、そんなことは…、まあ…」


と、いつもの自信はどこへ行ったのやら、という感じだった。


「あの、一つ気になることがあるのです!」


そこにメイが口を挟んできた。


「どうした?」


エルムは聞き返す。


「あれなのです!スケルトンが持っていた武器のことなのです!」


(やっぱり気付いたか)とエルムは心の中で呟いた。


「武器ですか?」エルムに変わってサーナが聞き返した。


「そうなのです。一瞬だったので確かなことは言えないのですが、スケルトンが持っていた剣は、人間が作ったものじゃないかと思うのです!」


「え?剣ですか?剣って人間しか作れないんじゃないのですか?」


メイの言葉を聞いたサーナがさらに聞き返す。


「いえ、そういうことはなくてですね…」メイが上手く説明できないようだったので、エルムが代わりに答える。


「基本的に魔獣やモンスターが持っている武器っていうのは、魔力によって作られたものがほとんどなんだ。そうだったよね、デイビス」


「「ほぇ?…お、おお。そうよそうよ、確かにその通りよ」


突然話を振られたからなのか、若しくは最初から知らなかったからなのかは分からないが、デイビスはしどろもどろに答える。


そんな様子を無視してエルムは話を続ける。


「でも、あのスケルトンたちが装備していた剣は、人間が作ったものだっていうことなんだよな、メイ」


「そう、そうなのです!」


代わりに説明してくれたエルムに、メイは珍しく感謝の目を向けた。


「僕もチラッと見ただけなんだけど、やっぱりあれは人間が作ったものだと思う。というのもさ、魔力で作ったものは光を反射しないんだけど、さっきの剣は光を反射してたから。そうだったよね、デイビス」


「ほぇ?…お、おお。そうよそうよ、確かにその通りよ」


先ほどと同じデイビスの反応を見て、こいつバカだな、とエルムは心の中で思った。

なぜなら、光の反射云々の話は完全なるウソだったからだ。


というのも、エルムが「あの剣が人間の作ったものだ」と判断した理由は、この場では話せない内容だったからだ。


その理由は何かというと、エルムはあれと全く同じ剣を見たことがあったからだ。

それも昨晩。


そう、暗殺のターゲットであるカインと呼ばれる鍛冶職人の店に置いてあったのと同じ剣だったのだ。

もしエルムが今ここで、「あの剣を見たことがある」と言ったとしたら、鍛冶職人の店に行った理由を聞かれる可能性がある。

だから、エルムは本当のことを話せなかったのだ。



「それでさぁ、あの剣が人間の作ったものだったっていうならぁ、何かあるのぉ?」


イザベルがメイに問いかける。


「それは、その…ちょっと気になっただけなのです…」


そのメイの返答を聞き、エルムが助け船を出す。


「でもさ、持ってる武器が剣だけで良かったよな?」


「ん?いや待ってください。他の武器を持ってる可能性も否定できませんね」


エルムの投げかけに、サーナが反応した。


「となるとよぉ、ちゃんと計画を練り直さないといけないわねぇ」


「おお、そうだそうだ!ちゃんと計画を練らなきゃだ!」


イザベルの言葉を受け、デイビスも話に入ってきた。


「となるとさ、やっぱり敵のことをもっと調べないと」





そういうわけで、勇者一行はフリージャ村へと戻ってきた。



「おい、ちょっと待ってくれよ。なんかさ、長老さんに合わす顔がないんだけどよ」


意気揚々と村を出た手前、クエストを攻略せずに戻ってきてしまったことに対するバツの悪さを感じているようだ。

意外にデイビスは繊細な一面も持っているようだ。


「まあでもさ、正直に話すしかないんじゃない。逃げてきましたって」


エルムは真顔でデイビスに答えたのだが、心の中では笑っていた。


「おい、エルム。思うんだけどさ、話を聞くのってやっぱり雑用係の仕事じゃねえか?」


また理不尽な要求が始まったよ、とエルムは思った。

そして、デイビスは同意を求めるように女冒険者3人の方を見る。


しかし、この件については3人ともどうでもいいような顔をしていた。

埒があかないと思ったのかどうかは分からないが、ダルそうな声でイザベルが口を開いた。


「ねぇ、どうでもいいんだけどさぁ、めんどくさいからぁ、エルムがやったらぁ」


イザベルのその一言で、デイビスの調子の良さが戻ってきた。


「おお、じゃあエルム、お前に任せたぞ!こういう時のための雑用係だ!はっはっは!」


「はあ〜。ああ、分かったよ」


エルムはため息交じりに答えながらも、頭の中ではある考えが浮かんでいた。




そして再び長老の屋敷。


「すみませ〜ん。長老様はいらっしゃいますか?」


押し出されるように先頭に立ったエルムが、門前で声をかける。

すると杖をついた長老が出てきた。


「おお、勇者様。もう魔獣退治は終わったのですか!さすがじゃのう!」


長老のその言葉を聞き、デイビスがエルムの背中に隠れるように小さくなった。


「あ、いや、そうじゃなくてですね。実は」


長老の勘違いが行き過ぎないように、エルムが言葉を挟み、そしてニヤッと笑ってから続きを言った。



「逃げてきちゃいました」



背後で青ざめているであろうデイビスを想像し、エルムは爽快感を味わっていた。


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