3 祠のモンスター
翌朝、デイビス達は北の祠へ向かう前に、村の長老の元を訪ねた。
昨日到着した時は既に暗くなっていたため、まだ挨拶をしていなかったからだ。
デイビスは「挨拶なんて後でいいだろ」と言ったのだが、国王への心象を少しでも良くするために、ここはエルムが引き下がらなかったのだ。
「勇者様、遠路はるばるお越しいただき、ありがとうございます」
長老は杖をつきながらも深々と頭を下げた。それに対しデイビスは、
「ああ、長老さん。このデイビスが来たからには泥舟に乗ったつもりでいてくれ!」
などと意味不明なことを言ったところ、サーナが長老に向かって
「あ、あの、最近は魔道具で作ったドロイド船っていうものができたとかできないとか…。あ、あははっ」
と、こちらも意味不明なフォローを入れていた。
さらに付け加えると、デイビスはそれでも意味不明な顔をしていた。
そこで、エルムが仕切り直しに口を開く。
「長老様、さっそくですが私達は北の祠に向かおうと思います」
「おお、すまんのう。来て早々に。ただ、ちょっと手強そうな魔獣なので気を付けて下され」
長老の発言に、デイビスがまた大口を叩く。
「長老さん、何を言ってるんだ!このデイビスはな、あのキマイラをたった一人で倒した男だぞ!祠の魔獣なんぞ、ちゃちゃっと片付けて来てやるよ!」
「おお!あのキマイラをたった一人でとは!じゃったら安心じゃの。これは頼もしい。さすが王国の勇者様じゃ!ほっほっほ」
「おう任せとけ!長老さん」デイビスはそう言って顔の前で拳を握った。
「ほっほっほ。じゃあ、村の者にご馳走を準備させて、お帰りを待つとしましょう。よろしく頼みますぞ、勇者様」
そして北の祠への道中
「でもさ、デイビス。魔獣の情報をもうちょっと聞いておいた方がよかったんじゃないか?」
エルムが問いかける。
「あぁ?お前何言ってんだ?さっきの話を聞いてたか?キマイラを倒した俺なら問題ないって長老さんも言ってたろうがよ!」
「そうなのです!エルムは弱いかもしれないですが、デイビスは強いのです!デイビスのことを信頼するのです!」
「おい、エルム。お前よりも年下のメイの方がちゃんと状況を分かってんじゃねえかよ!お前もさ、もうちょっと状況把握ができるようになった方がいいぞ」
お前に言われたくない、という言葉をエルムは飲み込んだ。
「でも、どんな魔獣がいるかは気になりますね」
サーナがイザベルの方を見て言った。
「そうねぇ。どんなのがいるのかしらねぇ」
「まあせいぜい、ゴブリン程度のやつだろ」
口を挟んだデイビスに対し、ゴブリンは妖精の一種だろ、とエルムは心の中でつっこんだ。
「うーん、どうかしらねぇ。以外にスケルトンとかのアンデッド系のモンスターとか、サイプロクスとかの巨人系とかの可能性もあるんじゃなぁい?」
「え?」とデイビスは一瞬声を詰まらせた。
「いや、そこはミノタウルスとかの怪物系かもしれませんよ」
「え?」サーナの言葉に、デイビスの顔がひきつる。
「いえいえ、サラマンダーとかの精霊系だと思うのです!」
「え?」メイの言葉で、デイビスの顔が青ざめていく。
「まあ、デイビスだったらどんな相手でも問題ありませんよね!」
「お、おう。任せとけよ…」
そう言ったデイビスは、一人で勝手に歩いていってしまった。
その姿を見て、エルムは笑いを堪えるので必死だった。
そのまま歩いていると、やがて件の祠が見えて来た。
石で作られた小さめのもので、森の中にひっそりと佇んでいた。
全員周囲を警戒し始めた。
いつ魔獣が襲ってくるか分からない。
その時、突然風が吹いて来た。
木々の葉がこすれ合って音を出し始めた。
目の前の地面を落ち葉が一斉に移動し始める。
その様子に全員が見つめていると、地面がゴソゴソと動き出した。
そして地面が盛り上がってくる。
来た!
地面の下から現れたのは、【スケルトン】だった。
ガイコツのアンデッド。
その姿を確認したデイビスは、「まさか」といった顔で目を見開いていた。
だが、まだ落ち着いている。
聖剣の柄を掴み、鞘から引き抜いた。
(スケルトンはそこそこ強いが、まあ何とかなるだろう)
エルムはそう判断した。
しかし、それだけでは終わらなかった。
さらに2箇所地面が動き出したのだった。
その様子に気づいた4人の冒険者は、一歩後ずさりした。
そして予想通り、2体のスケルトンが現れた。
しかも3体とも両手に長刀を携えている。
武器を持った3体のスケルトンを相手に、それでも聖剣を構え戦う姿勢を見せているデイビス。
勇気があるのか、足がすくんで動けないのかは分からない。
しかし、圧倒的に部が悪いことには違いなかった。
さすがにエルムも、この状況には焦り始めた。
(今のこの4人じゃ太刀打ちできない。かといって、自分が前に出ると後々厄介なことになる)
葉の擦れる音に思考を乱されながらも、エルムはどうするべきか逡巡していたのだが、遂にスケルトンがこちらに向かって襲いかかって来た。
そうだ!
エルムは地面の土を思いっきり蹴り上げた。
その土は風に舞い、4人の冒険者の方へと舞い上がっていった。
「うわっ!」
4人は一斉に目を瞑った。
その瞬間、エルムは一旦前に走り、助走をつけてデイビスに対してドロップキックを放った。
「ほぎゃあー!」
デイビスは3人の女冒険者を巻き込みながら、思いっきり後ろに吹っとんだ。
4人は絡み合いながら転がり続け、数十mほど後方で止まった。
その隙にエルムは、3体のスケルトンにナイフを投げつけて、その場を離脱した。
幸いにもスケルトンはその後追っては来なかった。
エルムが4人の冒険者の元へと着くと、3人の女性を覆うようにデイビスが被さった状態で倒れていた。
ようやく4人とも目が見えるようになってきたようだ。
すると状況を確認したサーナが口を開いた。
「デイビス、私たちを庇ってくれたんですね!ありがとうございます!」
「へ?」デイビスが変な声を出す。
「まぁ、ほんとねぇ。ありがとぅ、デイビスぅ」
「ほあ?」デイビスはまだ状況が掴めていない。
「デイビス!ありがとなのです!」
メイの言葉を聞いた後に、デイビスはようやく状況を認識したようだ。
「あ、ああ。そ、そうなんだよ。さすがに3体相手じゃあ、皆を守りきれないかもって思ってな。は、はははっ…」
頭を掻きながらデイビスは答えた。
「とりあえず、一旦作戦を練った方がいいね」
彼らのやり取りに、エルムが口を挟んだ。
そして、5人は一度その場を離れ、作戦を練ることにした。