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26 残された切り札

「全部で3つの能力…」


カインは上ずる声で呟いた。


「そうじゃ。そなたの父キースは3つの力を武器に宿すことができたのじゃ」


長老はカインに向かってゆっくりと話した。


「あ…後の2つ、というのは…?」


「1つは魔法の力を剣に付与させるもの」


「魔法…を…」


焦点の合わない目でカインは呟いた。



「そしてもう1つが」


長老の言葉に、その場にいた全員が彼の口元を注視する。


「死者を蘇らせるというもの」



!?


カインは何度も瞬きを繰り返し、女冒険者たちは口を開けたまま違いの衣服を強く握りしめていた。


「死…死者…を、蘇らせる……。そ…そんな、ことが…」


顔を強張らせたままカインは掠れる声で言った。


「ああ、そうじゃ。その有り得ない力がキースの作った剣に宿されたのじゃ。じゃから」


長老は一度呼吸し、話を続ける。



「彼はキルヒナー卿の元へと戻ったのじゃ」


「え?」


「キースは義理堅い男じゃった。普段はその能力を使って武器を作ることなど滅多にしなかったのじゃが、世話になったキルヒナー卿の役に立ちたいと彼は考えたのじゃ。このまま村にいては再び弟派の使者が自分の武器を奪いにくるに違いない。だったら自分が国王陣営に入り、彼らのために武器を作ろうと考えたのじゃ。ただ」


カインはそこで唾をゴクリと飲み込んだ。


「キースが王都に着いた時には、既に王宮の争いは終わっていた」


!?


「な…」


カインは何かを言いかけたが続きが出てこなかった。



「ここから先は、後になって手紙で知った話で正確なことは分からんが、先代の王は突然病に倒れ還らぬ人となったようじゃ」


「えっ!?先代の国王は、以前から病にかかっていたのではなかったのですか?」


メイが突然声を挟んだ。


「確かにぃ、一般的にはそう発表されていたわねぇ」

「ん〜。これは事件の匂いがしますね。是非調査しましょう!」


イザベルとサーナも続いた。


「まあ、一般的にはそなた達が言う通りなのじゃが、キースからの手紙にはそう書いてあったということじゃ」


カインは何か言葉を口にしようとしたが、長老はそれを制するかのように話を続けた。


「もちろん、ワシらには本当のところどうだったのかは分からん。ただ事実としてあるのは、前国王は病に倒れ現国王が即位し、今のこの社会が出来上がったということじゃ」


「でも、前国王が暗殺されたのだとしたら、やっぱり僕の父さんはテロリストなんかじゃなかったっていうことじゃ…」


再び顔を上げるカインだが、それを制する冷たい声が響いた。




「本当におめでたい奴だ」


その言葉を発したのは今まで口を閉ざしていたエルムだった。


「なっ、何だと!」


カインはキッとエルムの方へ視線を向けた。


「前国王が暗殺されたから自分の父親がテロリストではないと言い切るお前の頭が、本当におめでたいと言っているんだ」


「じ、事実じゃないかっ!」


いつの間にかカインの目は血走っている。


「力による国家への反逆行為に加担したにも関わらず、なぜテロリストでないと言い切れる?しかもお前の父親は、自らの意思で反逆行為をしている」


淡々と話すエルムに、激昂したカインは声を荒げる。


「最初に手を出したのは、前国王の弟派じゃないか!先に手を出されたから、父さん達はその仕返しをしようとしただけだ!」


「やられたからやり返す、か。フッ、ガキの喧嘩だな」


「な」


嘲笑されたカインは言い返そうとするが、それをエルムが遮る。



「そもそもテロリストと間違われたから仕返しをしようなんて思うおまえの頭がクソだってことだ。じゃあ聞くが、もしお前が復讐を果たし新たな国を作った後、お前の復習によって殺された奴の仲間が仕返しをして来たら、そいつのことをどう思う?」


「そ、それは……。で、でも、僕はそうならない世の中を作ってみせる」


「どうやって?そんなことはお前が考える前に数多くの為政者たちが既に考えてきていることだ。権力争いなんていうものの裏には、数多くの負の感情が蠢いているものだからな。しかし上手くいった例があると思うか?」


「それは…。で、でも…争いのない平和な世の中は、これまでにも確実に存在していたじゃないか!」


「ああ、確かにそうだな。争いのない時はあった。では、なぜそんな状況できたのかお前は知っているか?」


「なぜ…だと?」


考えるそぶりを見せるカインだったが、それほど間をおかずエルムは口を開く。



「まあ、お前に分かるはずはないだろう。なぜなら、それは決して表に出ることがないものだからな」


「…表に出ることがない?」


「そうだ。それは決して表に出ることなく」


そこで一度言葉が途切れる。

そして、エルムの漆黒の瞳がカインを見据えた。


「陰で暗殺されているからだ」



「あ…暗殺!?」


その場で話を聞いていた全員が、大きく目を見開いた。


「ああ、そうだ。王国に刃向おうとするものは全員、俺たち暗殺者によって全員暗殺されているからだ。もっとも、キルヒナー卿やお前の父の場合は、国が大きく変わって間もない時期だったため、暗殺の指示が間に合わなかったようだがな」


「な、なんという…」


「お前の父親はテロリストだ」


エルムはカインの目を見てきっぱりと言い放った。


「中途半端に王国に楯突いて、そして処刑された愚かなテロリストだ。そしてそれはお前も同様だ。中途半端な自分の信念や理想で行動を起こし、そして中途半端に騒いで周囲を煩わせる何もかも中途半端なやつだ」


「と、父さんも、僕も…中途半端だと!」


カインはエルムの言葉に食い下がる。

しかしエルムは冷たく突き放す。


「ああ。お前のような中途半端なやり方では、決して王国を倒すことなどできない。決してな」


目を細めるエルムに対し、カインは抗うように口を開く。


「そんなことはない!絶対に僕は」


「じゃあ、なぜ俺が」エルムは再びカインの言葉を遮る。


「この村に来ているか、お前には分かるか?」


「それは、僕が魔獣騒ぎを起こして勇者をこの村へおびき寄せたから、だから偶然……!?」


カインは何かに気付いたようだ。



「そうだ。俺がお前を暗殺する依頼を受けたからだ。魔獣騒ぎはついでだ」


「そ、そんな…まさか…」


「お前は既に王国から危険人物の一人と認識されていたのだ。だから俺に依頼がきた」


カインは小刻みに震える体を抑えている。


「だからお前の考えは中途半端だと言っているんだ」


エルムがそう言った時だった。


彼らの後方でカサっという音が聞こえた。




「は、はは。そうか、そうかよ、死線の裁鬼(デッドセットスレイヤ)!でも、でも僕はまだ終われないんだよ!」


そう叫んだのはカインだった。

その顔には薄ら笑みを浮かべている。


「最悪の事態を想定しておいてよかったよ。ふふっ、僕にはまだ切り札があるんだ!」


そういうと、カインはエルムの後方へと視線を向けた。


そこに立っていたのはエマだった。

カインが渡した小箱と短刀を手にして。



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