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26/28

25 1つでは終わらない

カインが生まれて、1年が経とうとしていた。


その頃には、長老もなんとか村人たちからの信頼を得られるようになっていた。


一方のキースはフリージャ村に鍛冶工房を設け、そこに住み着いていた。


子育ての環境は、王国よりもこの村の方が適しているという判断からだ。



王国からの武器製作の依頼は、専用の使者が輸送をやり取りしていた。


通常であれば、専用の使者を用意することなどあり得ないものであり、この待遇はそれだけキースの腕が王国から必要とされていたということの証明でもあった。


そのような平和な日々が続いていたある日、2人組の使者がフリージャ村を訪れた。


しかしその2人組は、いつもの武器輸送の使者ではなかった。




「キース・フォレストという鍛冶師の工房を探しているのだが、場所を知らないか?」


そう問いかけられたのは、村の外れで農作業をしていたガストンだった。


「ああ、キースんとこなら、この道をまっすぐいたら左側に見えるさ。教会の先さ」


ガストンは、キースも手広くやってて景気がいいなと思いながら、その2人組に工房の場所を教えた。


その言葉を聞いた2人組は、礼も言わずそそくさと歩いていった。


なんだか感じの悪い人だの〜と感じたガストンは、帰りに長老の家に寄り、そのことを話した。





「キースも商売が繁盛しているようで羨ましいさな!」


「ガストン、おぬしも見習わないとじゃのう。ほっほっほ」


長老は昔から知っている二人の青年——キースとガストンの成長に顔を綻ばせている。


「そうさな。俺もキースには負けてられないさな!エマも生まれたわけだしさ。にしても、今日の2人組は、なんだかいつもと感じが違ったさな〜」


「そうなのか?いつもの方ではないということか?」


長老の問いかけにガストンは腕組みをする。


「そう言えばそうさね。キースの工房の場所さ知らなかったから」


「では担当が変わったということかの。よし、じゃあワシも挨拶をしておいた方がええじゃろ」


そう言うと、長老は膝に手を当て腰を上げた。


「ガストン、おぬしも行くか?」


声をかけられたガストンは、「おお、そうさな。王国との繋がりが持てるかもしれんしな!」と言いながら、長老に従いキースの工房へと向かった。





長老とガストンがキースの工房まで後少しという所まで来た時、ドカンという大きな音がしたかと思うと、続けざま大声が聞こえてきた。


「出て行け!この泥棒が!」


2人は互いの目を見合わせ、先を急いだ。

すると、工房のドアがバタンと開かれ、2人組の男たちが飛び出してきた。


突然のことに驚いた長老とガストンは、思わずその場に立ち止まった。

その2人めがけて、工房から飛び出してきた2人組が走ってきた。


「あわわわ」


「うわっ!」

「いてっ!」


ガストンは2人組に盛大に吹き飛ばされ、背中から地面に叩きつけられた。


長老はギリギリのところでぶつかられずに済んだ。


「いって〜!なんなのさ、あいつらは!」


ガストンが腰をさすりながら声を上げたちょうどその時、工房からキースが出てきた。


「あっ、長老様にガストン!大丈夫ですか!?」


「大丈夫じゃ、それよりなにがあったんじゃ」


長老は倒れているガストンのことは気にせず、キースに話しかけた。


するとキースは一瞬表情を曇らせた。


「…あの、少し話を聞いていただけませんか?」


キースの表情から何かを感じ取ったのだろう、長老は無言で頷いた。


キースは「ありがとうございます」と言うと、踵を返し長老とともに工房へと歩き始めた。


その場に取り残されたガストンは、スッと立ち上がると「待つさ!」と叫びながら2人を追いかけた。





キースの工房。


作業用の椅子にキースが座り、休憩用の長椅子に長老とガストンが並んで座っている。


「して、キースよ。あの2人組みは何者なんじゃ?」


「はい。あの2人組みは、王国の使者なのです」


「なに!?王国の使者だと!なぜそのような人物を追い出してしまったのじゃ?」


長老は信じられないといった表情でキースに詰め寄るように言った。


「長老様。あの2人組みは、いつもの方とは違うのです」


「おお、ワシも見かけん顔じゃとは思ったが…いったいどういうことじゃ」


「はい、前々からこうなる予感はしていたんですが…。実は今、王宮は2つに別れているようなのです」


キースは右手の拳を左手で覆いながら話す。


「2つにじゃと?」


「はい。政治的な対立に端を発したようなのですが、今や国王派と国王の弟派に王宮内が別れてしまったようなのです」


「なるほど、王宮ではそんなことになっておるのか…。しかしそれがおぬしと何の関係があるのじゃ?」


長老はキースに先を促す。


「実は、私が王都でお世話になった貴族の方がキルヒナー卿というのですが、そのキルヒナー卿が国王の右腕を務める方なのです。キルヒナー卿のおかげで私の作った武器が国王にも認められ、王国からの注文を頂けるようになったのです」


「なるほど、そういう事情があったのか…。しかしそれが、今日の2人組みとどう結びつくのじゃ?」


「はい。今日来た2人組みは、国王の弟派から派遣されてきた方のようなのです。既に王宮内は一触即発状態で、いつ武力衝突が起きるか分からないようで、それに備え私に武器を手配しろと言ってきたのです」


「なんと…」


長老は話のスケールが想像以上に大きかったようで、声が出なかった。


「しかし私は断ったのです。弟派に武器を提供するということは、お世話になったキルヒナー卿を裏切ることになります。この私を一人前になるまで育てていただき、また鍛治職人としてやっていくための手助けをしてくれた方なのです。私にはその恩に背くことはできません」


長老はそのキースの言葉で昔を思い出した。


彼は昔から情に熱い人間だった。

おっちょこちょいなガストンは昔よくイジメにあっていたのだが、そんなガストンをキースは見捨てることなく庇っていたりした。

たとえ自分に被害が及ぼうとしても、どんなに相手の方が強かったとしても、ガストンから離れることはなかった。

そのせいで、キースもよく怪我をしていたものだった。



「ですので、協力できない旨をあの2人組みに伝えたのです。そうしたら、工房に置いてあった武器を奪おうとしてきたのです。だから私はあの2人組みを追い返したのです」


長老の回想を遮るように、キースが再び話し始めた。


「そうじゃったのか。しかし、そこまでして手に入れたいものなのか、お主の作る武器というのは?」


「……」


キースは少しの間黙り込み、目は伏し目がちになった。


「…長老様、それにガストン」


キースは目の前の2人の名前を読んだ。

突然名前を呼ばれたガストンは、ビクッと体が反応しそのまま背筋を伸ばした。


「今から話すことは2人だけの中にしまって置いてください」


キースは2人の目を交互に見ながら言った。

長老とガストンは、キースと目が合うと無言で頷いた。


「実は…、私が作る武器には、不思議な力が宿るのです」


「!?」


長椅子に座っている2人は、眼を大きく見開いた。


「私も最初はビックリしました。しかしキルヒナー卿が教えてくれたのです。私の家——フォレスト家は昔から呪いの魔剣を作れる一族だと。ですので、おそらく私に流れる血が、そのような不思議な力を武器に乗り移らせたのだと思うのです」


「…ちなみに、その不思議な力というのは…?」


「はい。その武器を持った人間を自分の思うように操ることができる、これがまず1つ目の力です」


「1つ目…じゃと?」



「はい。武器に宿る不思議な力は全部で3つです」


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