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22 ある貴族の叛乱

「そ、そんな…」


無数に切り刻まれた骨を目にし、カインは絶望に打ち拉がれた顔をしている。



「す、すごい…」

「あなた、本当にエルムなのぉ?」

「し、信じられないのです…」


3人の女冒険者も驚愕の声を上げた。

しかし、エルムに鋭い視線を向けられ、すぐに黙りこくってしまった。



「まさか…死線の裁鬼(デッドセットスレイヤ)の力がここまでとは…」


カインの目は焦点が定まっていない。

それほどの衝撃を受けたのだろう。


「まあ、普通の人間にしてはよくやった方だ」


「普通の…人間…」


エルムの言葉にカインが反応する。

するとカインは突然首を左右に振り始めた。


「違う違う違う違う違う違う違う違ーーーーーーう!!!!!」


カインの変貌を、エルムも3人の女も凝視する。


「違ーーーう!!僕は普通の人間なんかじゃない!僕は呪われた家に生まれ、無実の父を国に殺されたんだ!!それのどこが普通の人間だっていうんだ!!!」


カインは両手で頭を抱えながら叫ぶ。


「僕が普通の人間だっていうなら、何で……。何でこんな人生なんだ!!!」

「僕は、僕はあの日、父さんが処刑された日、誓ったんだ!この手で、全てを変えてやるって」




15年前。


6歳のカインは、いつものように父親の仕事場で遊んでいた。


まだ小さかったカインは、勝手に鍛冶道具に触ることは許されていなかったが、工房で父親が武器を作るのを見るのが好きだった。


「ねえ、父さん。今度はどんな武器を作ってるの?」


カインは工房で一人刀を打つ父に話しかけた。


「ああ、今度のはな、先代国王の側近だった貴族の方の武器だよ」


「へえ、どんな武器なの?」


「次の祭祀(オラティオ)の時に振るう剣さ」


「おらてぃお?」


「そう、祭祀(オラティオ)だ。先祖の霊を祀るための儀式のことさ。その貴族の方の先代が亡くなられてもうすぐ4年だからね」


古くから続く家では、死後4年が経過するごとにその人物を祀る儀式を行う風習がある。

カインの父、キースが作っている武器はそのためのものだった。




「あ、父さん!完成したの!」


3週間ほど経過した頃、カインは父親が工房で2本の新たな武器を掲げているのを目撃し、声をかけた。


「ああ、やっと完成したよ。これでしばらく休めるかな。またカインにも武器作りを教えてあげられるよ」


その言葉を聞き、カインは胸が踊った。

物心が付いた時から間近で武器作りを見ていたカインは、自分も武器を作って見たいという気持ちに駆られていた。

そこで、キースの仕事が暇な時に、武器作りを教えてもらっていたのだ。


しかしここ最近はキースの仕事が立て込み、なかなか武器作りを教えてもらえる時間がなかったのだ。




「こちらがご注文いただいた品です、キルヒナー卿」


その日、キースの工房には2人の男が訪れていた。

キースは自分が作った一振りを右側の男に差し出したところだった。


キルヒナー卿と呼ばれた男は、貴族服に身を包み顔には口ひげを蓄えた男だ。

キースよりも10歳ほど年上だ。


「急な依頼ですまなかったな、フォレスト」


キルヒナー卿は、手にした剣の輝きを確認しながらキースに言った。


「いえ、キルヒナー卿には昔からお世話になっておりましたから。お力になれて光栄です」


「うむ、ありがとう。それで」


キルヒナー卿はキースの顔を見る。


「はい、全てご希望通りにお作りいたしました」


キースは笑顔で答える。


「そうか。それは助かる。では祭祀(オラティオ)も無事終えられることだろう」


その後キースとキルヒナー卿は2、3言葉を交わしてから、2人の男は工房から出て行った。

もう1人の男は終始無言だった。


その様子を、カインは工房の窓から眺めていた。




そして数日後、祭祀(オラティオ)の当日に事件は起きた。


「おいっ!誰か!騎士団を呼べ!」


王宮は騒然となっていた。


その日は王族の祭祀も催されていた。

王宮の中庭に王族や側近の貴族たちが集まり儀式を開始しようとしていた。


その時、突如二人の男がその場に乱入してきたのだ。

二人とも剣を狂ったように振り回していた。


突然の事態に、その場にいた人々は悲鳴をあげながら方々へと逃げ回る。

つまずき転ぶ人、押し倒される人、泣き叫ぶ人、完全にパニック状態だった。


その中心では、二人の男が白目を剥き髪の毛を振り乱しながら暴れていた。


「騎士団はまだか!」

「女子供を早く避難させろ!」

「誰か武器を持ってこい!」


そのような声が飛び交う中、


「おいっ!あれはキルヒナー卿じゃないか!?」


そんな声が聞こえてきた。


その声に呼応し次々と声があがった。


「そうだ、キルヒナー卿だ!

「先代の側近のキルヒナー卿だ!」

「本当だ!キルヒナー卿だ!」


その場にいた人間は、全員キルヒナー卿のことを知っていた。

キルヒナー卿は先代の王の側近であったが、先代の崩御とともに表舞台から去った人物だったからだ。


「おいっ!キルヒナー卿だ!先代の側近が犯人だ!」

「キルヒナー卿の謀反だ!騎士団、奴らを抹殺しろ!」


すぐさま王宮中にその情報は響き渡ると同時に、ようやく近衛兵が中庭に到着した。


彼らは訓練された機敏な動きで、すぐさま2人組のテロリストを包囲する。

そして、じわじわと二人を追い詰めていく。


しかし、包囲されたキルヒナー卿ともう1人の男は、ひるむことなく近衛兵に斬りかかっていった。


その攻撃に、数名の近衛兵が倒れた。


「各員!スリーマンセルで対応しろ!」


隊長と覚しき人物から号令が下る。

それを受け、近衛兵は編隊を変えた。


3人1組になりテロリスト1人に対する。


人数で勝るだけでなく、その連携は見事だった。


近衛兵はテロリストを圧倒し、すぐさま勝負はついた。

2人組のテロリストは近衛兵の攻撃に押されるがままで、遂には装備していた剣を打ち砕かれその場で殺された。


多少の被害は出たものの、大ごとにはならずに事件は解決した。

しかし事件の噂は、瞬く間に王都中に広がった。


『元国王の側近が、王宮でテロ行為を起こした』


王国始まって以来、恐らく最大級のスキャンダルだ。

人々の興味を掻き立てるには十分だった。


そこからしばらく、王都はこの話題で持ちきりだった。


なぜこんなことをしたのか?

他に仲間がいたのではないか?

実は別の目的があるのではないか?


様々な憶測が飛び交った。


キルヒナー卿一族は、事件の直後に全員牢獄へと投函されてしまったので、市民には何の情報もなかった。

だからこそ、より一層話しが広まったともいえる。


そして遂には、あの武器は誰が作ったのか?という話題にまで至った。


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