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16 新しい武器

エマと別れたエルムは、まっすぐカインの店へと戻った。


エルムが店へ入ると、奥の作業場の方からカ〜ン、カ〜ン、カ〜ンという音が聞こえてきた。

どうやらカインは仕事をしているようだ。


エルムは声をかけるべきかどうか迷っていると、どうやらカインが気付いたようで、先に声をかけてきた。


「エルムさん、おかえりなさい!間に合いました?」


「うん。なんとか間に合った」


「そうですか。それはよかった!」


カインは己の作業からは目を離さずにエルムとやり取りをしている。


「エマの奴、結構歩くの速かったりしますからね」


「そうなんだ。じゃあ、今日はたまたまゆっくり歩いてくれてたってことか」


カインが金属を叩く音をBGMにしながら二人は会話を進めていた。




「あの、カインさん。一つ聞きたいことがあるんだけど、いいかな?」


エルムはその流れで切り出した。

その言葉を聞いたカインはエルムの方へと視線を向けた。


「どうしました?」


再び手元へと視線を戻しながら聞き返す。


「あの、エマさんに何であんなことを言ったのかな?」


「…何のことですか?」


カインは一度手を止め、考える素振りを見せた。


「もう会えないようなことを言ったでしょ」


「そのことですか…。ええ、言葉の通りです」


カインは体をエルムの方へ向けて言った。

エルムはカインの真意が掴めず聞き返す。


「いや、確かに今は命を狙われている可能性はあるかもしれませんが、二度と会えないっていうのは大げさじゃないかと」


「確かに今目の前にある危険は、エルムさんたちが何とかしてくれると思います。でも」


カインは立ち上がり、エルムのいる方へと近づきながら話を続ける。


「この後も僕は、命を狙われ続ける可能性があるわけですよね。僕はいつかこんな日が来ると予想はしていました。父のあの事件があった日から…」


淡々と話すカインの顔には表情が一切ない。

ただ事実のみを話しているという感じだ。



「だから、僕はこの村を出ようと思っているんです」


「え!?」


思わぬ言葉に、エルムは驚きを隠せなかった。


「カインさん、何もそこまでしなくても」


「いえ、前々から決めていたことなんです。もし命を狙われる日が来たら、周りに迷惑をかけないように、この村を離れようと」


「思ったより早くその日が来てしまいましたが」


そこでカインは笑みを浮かべた。


「カインさん…」



そしてカインはエルムの目をまっすぐ見て言った。


「エルムさん、僕は今日この村を離れようと思います」


「今日、ですか?」


「ええ、もしかしたら昨日の魔獣騒ぎも僕のせいかもしれませんし…。だから、少しでも早く村を離れた方がいいと思うんです。ただ」


カインは一歩エルムに近づく。


「最後に、僕を育ててくれたこの村に恩返しをしたいと思うんです」


「恩返し?」


「はい、恩返しです。…北の祠の魔獣、あいつらを倒したいんです!」


カインの声に力がこもる。


「え!?でも、カインさん…」


エルムはカインの体を見る。


「ええ、もちろん僕の力では倒せないのは分かっています。だから、あのアンデッド達を倒せる武器を作って、勇者様に使って欲しいんです!」


「武器…」


「はい、もうすぐ完成します。だから是非、勇者様たちの力を貸して欲しいんです!」


「デイビスの…ですか?」



エルムは複雑な気持だった。


単純なデイビスのことだ。話をすれば協力をするには違いない。

でも…。

カインの作った武器を使ったとしても、彼の力ではアンデッドを倒せるかどうか。



「エルムさん、是非協力して下さい!このことを勇者様に伝えて頂けませんか?」


それでも熱い想いを投げかけてくるカインに押され、エルムは今その言葉に従うことにした。





「というわけで、カインさんが特別な武器を作ってくれるそうなんだ」


エルムはデイビスに経緯を説明した。

場所はもちろん宿のエルムの部屋だ。


エルムは一度宿へ戻り、デイビスたちに説明することになった。

その間にカインが武器を完成させるという手はずだ。

店の戸締りを完璧にするということを条件に、エルムは店を離れることを了承したのだ。


「何だよ、あの青年は元王国の鍛冶職人だったのかよ!」

「最初っからそう言えってんだよな!」

「まあ、あいつならこの俺にふさわしい武器を作れるって思ってたけどな!」

などとデイビスは相変わらず調子のいいことを言っている。


「じゃぁ、これでこの村ともぉ、さようならってことねぇ」


相変わらずイザベルは気怠そうな感じだ。


「でも、事件の方はどうするんですか!?まだ解決してませんよ!」


サーナはあくまで事件に拘るようだ。

事件といっても現時点では、謎の二人組がカインに接触したというだけのことだが。


「まあよ、本人がそうしたいって言ってんだから、それでいいだろうよ!」


デイビスは元王国の鍛冶職人に武器を作ってもらえることになり気分が良くなっているようだ。

もっともそれはエルムの狙いでもあったのだが。


デイビスの気持ちを上げておけば、話はスムーズに運ぶ。

そのために、カインの過去を少しだけ変えて話したのだ。

元王国の鍛冶職人だと。



「そういえば昔、呪いの鍛冶職人っていう話があったのを思い出したのです!」


メイが突然声を上げた。


「はあ?呪いの鍛冶職人?なんだそのお伽噺みたいなのは」


「呪われた武器を作る鍛冶職人の話なのです。その鍛冶職人が作った武器を使うと、皆気が狂ったようになってしまうのです!とても怖い話なのです!」


メイが両手で頬を押さえつけながら言う。

怖いということを表現しているのだろうが、彼女がやるとどこか可愛く見えてしまう。


「なんだよ、夏の定番の怪談話か!?まあ今はそんな話はどうでもいいんだよ。とにかくアンデッドをブッ飛ばして、クエストを終わらせちまおうぜ!」



その言葉を最後に、各々自室へと戻っていった。


取り残されたエルムは、腕を組んでいた。


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