13 木製の箱
デイビスたちと別れたエルムは、そのままカインの店へとやって来た。
もちろん護衛(身辺調査)のためだ。
エルムは店のドアを叩き、「カインさーん、おはようございまーす!」と挨拶をした。
しかし店の中からの反応はない。
昨日の魔獣騒ぎのせいでまだ寝てるのかなとも思い、エルムは再度呼びかけてみる。
しかし、それでも反応はない。
試しにドアを開けようとするも、鍵がかかっているためか動かない。
きっと疲れて眠ってるんだろうと思ったエルムは、そのまま少し待つことにした。
とりあえず以前デイビスたちと井戸端会議をした場所に腰を下ろし、エルムは今考えるべきことを思い浮かべた。
アンデッドが北の祠に住み着いている理由
アンデッドが人間の作った武器を持っている理由
カインの店に侵入した二人組の素性と目的
カインの店から消えた戦闘用の武器
最初にカインの店を覗いた時にいた少女
村の周辺の結界用の呪符を剥がした人物と理由
カインの父親の事件の真相
そして、自分はいつカインを暗殺するか
いつの間にか、考えるべきことが増えていた。
今回の依頼は想像以上に厄介だ。
そんなことを考えていたエルムの頭を、ふと嫌な予感が頭を過ぎった。
もしかして出かけたりしてないよな?
万が一、一人で外出しているところを狙われたらまずいな…
一先ず周辺を探しに行こう、そう考えたエルムが一歩踏み出そうとした時、
ガチャッ、ガラガラガラガラ
店の扉が内側から開かれた。
「あ、エルムさん。おはようございます」
片目をこすりながらカインがドアから顔を出した。
その姿を確認し、エルムはほっと胸を撫で下ろした。
「おはようございます、カインさん。まだ寝てましたよね?起こしちゃってごめんなさい」
「あ、いえ、全然大丈夫です。それより、こちらこそすみません。結構待たせちゃいましたよね?」
「いえいえ、そんなことはないですよ」
そんなやり取りをした後、「とりあえず中へどうぞ」とエルムは店の中へと誘われた。
店の中へ足を踏み入れると、一瞬モワッとした空気が体にまとわりついた。
そこで思わずエルムは、「暑っ!」と口から言葉が漏れた。
「あ、すみません。一応用心のためにと思って、戸も窓も閉め切って寝たものですから。そのせいで大分温度が上がってしまったみたいですね。古い建物なんで、その辺りの調節が上手くいかないんですよ」
そう言うと、カインは窓を開けていった。
「いや、僕は全然大丈夫なんで。それよりカインさんこそ大丈夫ですか?ちゃんと眠れました?」
「ええ、僕は一度寝てしまえばぐっすり眠れるタイプなんで睡眠自体は問題ないんですが、さすがに起きたら汗でびっしょりでした。あ、シャワー浴びてきてもいいですか?」
確かにカインの着ているシャツは大分濡れている。
特に何かをするということもなかったので、「どうぞどうぞ」とエルムは答えた。
「じゃあ、お言葉に甘えて」とカインは建物の奥の方へと入っていった。
「エルムさん!適当にくつろいでいて下さい!飲み物は左奥の部屋にあるので、好きなものを飲んでいいですから!」
水が流れる音に混ざってカインの声が届いた。
しかしその声が届く前から、エルムは既に建物内の物色を始めていた。
前日確認をした店部分は特に変わりはない。
祭祀用は鑑賞用の剣ばかりが並べられているが、左側の一角だけがすっぽりと穴の空いたように何も置かれていない。
一方、右奥の仕事場の方は多少乱雑になっている。
昨日サーナが訪ねて来て片付ける時間がなかったためだろう。
金床の横に置かれた太い丸太の上に、大小2種類の槌が置かれており、火炉のそばには吹子と冷却用水。
その他にも色々あるが、ほとんどが鍛冶のためのものなのだろうとエルムは思った。
ただその中で、唯一エルムの目を引いた箱があった。
それは指先から肘くらいの長さのある木製の綺麗な箱だ。
恐らく贈答用の箱だ。
誰かへのプレゼントか?そう思ったエルムは、中身を確認してみようと手を伸ばした。
「カイーン!おはよう!起きてるー?」
ちょうどその時、店の中に誰かが入って来た。
女性の声だ。
エルムは無意識の内にサッと死角に身を隠してしまったが、今は仕事中(暗殺)ではないことをすぐに思い出した。
「カイン!どうしたのー?」
このまま放ったらかしにしておくのもまずいかと思ったエルムは、店の方へ出て行くことにした。
「あ、あのー。どちら様でしょうか?」
店の奥からカインが出て行くと、その姿を確認した女性が体をビクっとさせ一歩後ずさりした。
「だ、誰?」
入口の壁に両手をつき、エルムの方を鋭い眼差しで見てくる。
「あ、いや、僕はその、カインさんの」
「エルムさーん!エルムさんもシャワー浴びて下さい!」
エルムがそう言いかけたところに、奥の方から声が聞こえてきた。
「エルムさんがシャワーを浴びてる間に、いろいろ準備しておきますから!」
カインの声を聞き、その女性はエルムの方を訝しげに見る。
「いやー、今日はどんなことをしましょうか?どうせ二人っきりなんですから僕はエルムさんが希望することは何でもしちゃいますよ!」
その女性は口を開け、カインの言葉を聞いている。
「それに僕は昨日、あんな恥ずかしい姿を見せちゃいましたからね!だから今日は、エルムさんのことを隅から隅まで見せてもらいますよ!」
その女性は、みるみる顔が赤くなってきた。そして
「いやーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!」
辺りに彼女の悲鳴が響いた。