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10 真相究明

「謎は全て解けました!真実はいつも1つです!」


店の扉を勢いよく開き、サーナが入って来た。



「はあ?急にやって来て何?」


エルムは当然の反応をする。


「決まってるじゃないですか!昼間の事件の真相が分かったんです!」


サーナの顔は自信に満ちている。

その顔をエルムは冷めた目で見ていた。


「あ、あの…いったい、どういう…」


一方、まだ気持ちの切り替えができていないカインは言葉を上手く出せない。

しかしそんな様子を無視し、


「鍛冶職人さん、ちょっと来てください!」


サーナはそう言うと、カインの手を引っ張り店を出ていこうとした。


「あ、ちょ、ちょっと…まだ仕事が途中で…」


カインはサーナの手を引き返す。


「そんなの後にして下さい!大事な話があるんですから、早く来てください!」


それでもサーナは強引に連れて行こうとする。


「…いや、せめて片付けだけでも…」


「帰って来てからやればいいじゃないですか!」


それでも渋るカインだが、サーナは有無を言わせない。


「あの…、もし店が火事になってしまったら、責任を取ってくれますか?」


その言葉を聞き、サーナは音速で手を離した。





「で、どういうこと?」


場所は、例のごとく溜まり場と化している宿のエルムの部屋だ。

その狭い部屋に、エルムとカインに加えデイビスたちも全員揃っている。

ベッドの上には、デイビス・イザベル・メイが座り、エルムとカインは床に座っている。

そしてサーナはというと、全員からの視線を集めるように立っている。


「おう、今から名探偵の推理ショーが始まんだ!暇つぶしには持ってこいだぜ!」


暇つぶし——その言葉を聞き、エルムとカインは互いに目を合わせながら両肩を少し上げた。


「さっき食事をしてたらねぇ、サーナが急に何かを思いついたみたいなのよぉ。だからぁ、ちょっと聞いてあげてねぇ」


エルムはイザベルのその言葉を聞き、デイビス達からアルコールの匂いがすることに気づいた。人に面倒事を押し付けていい気なもんだ、と思いながらも表情には出さなかった。


「さあ、サーナ!早く話すのです!」


メイに促され、サーナは一度全員の顔を見てから口を開いた。



「今回の事件の発端は、鍛冶職人さんのお店に二人組が侵入したことから始まりました」


発端もなにも事件はそれだけだろ、とエルムは心の中でツッコミを入れると、カインも同様に思ったのだろう、エルムと一瞬目を合わせた。

しかし、そんな二人の様子に気付く素ぶりも見せず、迷探偵は話を進める。


「そして、その二人組は何もせずにその場から逃亡をしました」


「おう、それはカインが二人組の侵入に気付いたからだよな!」


デイビスが口を挟み、カインの方を見る。

突然話を振られた形になったカインは驚いた顔をする。


「え…、あ、はい。その通りです」


その返答を聞き、サーナはカインの方へ顔を向け、話しかける。


「カインさん、その時の状況を詳しく教えてもらえますか?」


「え?その時の状況…ですか?あの時は、いつものように鍛冶場で作業をしていたら、店の方から突然物音がしたような気がして…。確かそれで…店の方へ行ったら、覆面をかぶった二人組がいたので声を出したんです」


カインはこめかみに手を当てながら話した。


「カインさん、もう一つ教えて下さい。カインさんが二人組を見つけた時、彼らはお店のどの辺りにいましたか?」


「えっと…、確か店の奥の祭祀用の剣が並べてある辺りだったかと…」


「ありがとうございます、カインさん。でもそうすると、ちょっとおかしくないですか?」


サーナは再度全員の顔を見る。

するとメイが、その言葉に食いついた。


「おかしなことなのですか?何なのですか、それは?何なのですか?」


他の二人——デイビスとイザベルも話に引き込まれているようだ。


その様子を見て、恐らく名探偵たちの真似をしようとしたのだろう。

サーナは部屋の中を歩きながら話そうとした。

しかし、狭すぎて床に座っているエルムとカインにぶつかりそうになったため、歩くのをすぐに諦めたようだ。


「剣が並べられている辺りで物音がしたということは、その音の発生源は剣ということになります。当然ですが、剣が勝手に動くわけはありません。ですから、二人組が剣に触れたということになります」


サーナはそこまで言うと一度息を吐き、全員の顔を見回してから再度口を開いた。


「もし二人組が泥棒なのであれば、触れるのは目当ての剣だけ。そして、目当ての剣に触れたのであれば、そのまま持ち去るはずです。しかし、彼らは何も持ち去らなかった。そうですよね?」


サーナはカインに確認する。

カインが頷いたのを確認し、話を続ける。


「ということは、やはり二人組は泥棒ではなかったということになります。つまり当初の考えの通り、暗殺者だということです。でもそうすると、おかしな点が浮かんで来ませんか?」


「なぁに、おかしな点ってぇ?」


イザベルも珍しく今は興味を持っているようだ。


「ええ、それはですね、暗殺者が何故関係のない剣に触れたかということです。もしその場で暗殺するつもりだったとしても、その時は下見だけだったとしても、普通は全然関係のない剣に触れたりなんかしないはずです。なぜなら、余計なものに触れるという行為は、証拠を残す可能性を生み出してしまうからです」


その点についてはエルムも同意見だった。

暗殺者であれば、余計なものには触らない。

証拠を残してしまうことが一番のリスクだからだ。

それに、


「それに、プロの暗殺者であれば、物音を立てたりすることあり得ません」


サーナのその意見にも、エルムは頷けた。


「ということは、つまり」


サーナの声が大きくなった。

全員の目がサーナに釘付けになる。


「鍛冶職人さん、あなたが嘘をついているということです!」


サーナはカインを指差した。

カインは目を見開き、全員の顔を見回す。


「つまりこういうことです。二人組は泥棒でも暗殺者でもないということです。じゃあ彼らは何者か?それは、()()()()()()()()()()()()()ということです!あの日、お店で3人で密会をしていたところ、お店に向かって来る私たちの姿が見えたので、まずいと思ったのでしょう。そこで咄嗟に思いついたのが、泥棒騒ぎだった」


サーナは自信たっぷりの顔で言い放った。


「3人が密会しているところは絶対に見られるわけにはいかない、だから二人組を泥棒ということにしてその場から逃し、仲間であることを隠したんです。その結果、その場では私たちは見事に騙されました」


「おお!すげーよ、サーナ!一片の曇りもない名推理だぜ!こりゃあそれで間違いねえよ!」


感嘆の声をあげるデイビスに続き、残りの二人も感心する。


「すごいわねぇ、サーナ。見直しちゃったわぁ」


「すごいのです!サーナはすごいのです!」


上機嫌になったサーナはさらに続ける。


「鍛冶職人さん。ご自分の嘘を認めて、自首して下さい。今なら罪はまだ軽いです」


サーナの発言に、カインは首をぎこちなく動かす。

そしてエルムの方を見やる。


その様子を見たエルムは、仕方ないという表情で口を開いた。



「あのさ、ちょっといいか」


その発言に、サーナと他の3人はエルムの方へと視線を向けた。



「今の話なんだけどさ、カインさんは物音がしたから店の方へ行ったんだよな。で、そこで二人組を見た」


「そうですね」とサーナは答える。


「でもさ、鍛冶場から店まで少し距離があるだろ。普通さ、物音を立ててしまった場合に、その場でじっとしてると思うか?」


その言葉を聞き、サーナは「あ!」と目と口を開いた。


「それにさ、僕たちがお店の方へ歩いていくのが見えたって言うけどさ、泥棒!っていう声が聞こえた時って、まだお店までの距離がかなりあったと思うんだ。しかもさ、カインさんのお店の周りには、他にも建物があるわけだから、あの距離だったら僕らがカインさんのお店に向かってるって判断できないんじゃないか?」


デイビスたちも、「あ!」と目と口を開いた。

そしてデイビス達3人はサーナを見た。

サーナは目が泳ぎ、首が小刻みに揺れていた。


「ふ、ふふふ…。そ、そう…。よ、よく、気がつき、ましたね、エルム…。そ、そう……。そう、そうなんですよ!これは犯人がミスリードさせるための、トリックだったのです!」


その発言を聞き、今度はエルムとカインが「へ?」と目と口を開いた。


「普通の人なら勘違いをしてしまうところを、この私が敢えて口にしたのです!」


エルムとカインは、完全に開いた口が塞がず、それ以外の矛盾点を指摘する気力も失われてしまった。



しかし、相変わらずの人間が3人いた。


「おお!そういうことだったのか!さすがサーナだぜ!やっぱお前は違うと俺は思ってた!」


「まぁあ。すごいわねぇ、サーナ」


「さすがです!すごいのです、サーナ!すごいのです!」



そしてその後、一瞬の沈黙が流れたので、エルムはそろそろカインの店に戻ろうと思った時だった。




「魔獣だー!魔獣が出たぞー!」


宿の外から叫び声が聞こえた。


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